中小企業こそ取り組むべき、「健康経営」という経営戦略
2020/02/27
日本は現在、15~64歳の働き世代の人口減少が大きく、ひとりの従業員に過度な負荷がかかることで生産性が低下し、企業経営に悪影響を与えることが懸念されています。特に中小企業は今後労働者の確保がより厳しくなると予想され、企業が従業員の健康に投資する「健康経営」を経営戦略として実践することが求められています。従業員が健康であれば生産性が向上し、イメージアップや医療費の負担軽減など企業メリットにつながると考えられています。しかし、その一方で、具体的にどのように「健康経営」に取り組んでいけば良いのかわからず、足踏みしている企業が多いのも事実です。では実際、企業はどのように「健康経営」に取り組んでいるのでしょう。

今回は、実際に「健康経営」に取り組んでいる株式会社環境テクノの代表取締役社長 星野宗義さんと、健康経営に取り組む企業に対し、自治体独自の仕組みで健康づくりをサポートしている埼玉県保健医療部健康長寿課長の横田淳一さん、トータルヘルスケア企業として「伴走型支援」をする大塚製薬株式会社 大宮支店長平内秀司さんにお話を伺いました。
 

 
経営資源である従業員を、より大切にするために

-環境テクノさん、以前から健康経営についてお考えになっていたんですか?



環境テクノ 星野さん(以下、星野):弊社は、工場や建築現場など、様々なシチュエーションにおけるアスベスト診断、土壌や水質、臭気や騒音の調査、環境アセスメントなどを行っております。2019年に創業30周年を迎えまして、この節目のタイミングで何か転換となることをやらなければと思っていたんです。「社会における環境保全の一翼を担う」という企業理念を掲げた上で、一企業としてこれからどう展開していくか。改めて見つめ直し、模索していました。

 - 31年目からの新たな一歩を踏み出すにあたって、一度、立ち止まって考えられたのですね。

星野:はい。このタイミングで自社だけでなく、世の中で起きていることにも目を向けると、労働人口の減少や働き方を含めたパラダイムシフトが起きているのを感じ、弊社もこのままでいいのだろうか、「変わらない」方がリスクではないだろうか、と考えるようになったんです。そして、「変わろう」と考えはじめた時に、最初に思い浮かんだのは、経営資源である従業員の顔。一生懸命やってくれている彼らに対して、会社側はどのようなことができるか。どう彼らを幸福に導いていけるのか。小さな会社でも「健康経営」という取り組みを通じて、実践できるのではないかと思っていました。

-なるほど。従業員の方への愛情が伝わります。「健康経営」と言っても、どこからはじめるかなど、最初の一歩が難しかったのではないかと想像するのですが、取り組むにあたり、特に改善したい点や課題のようなものは見えていたのでしょうか?

星野:うちの従業員は、がむしゃらに仕事をやってきた技術者がほとんど。少しお恥ずかしい話なのですが、弊社は昔からの習慣が当たり前に残っている会社で、夜遅くまでタバコを咥えながら作業をしているような状況だったんです。

-タバコをデスクで吸えるのは、かなり珍しいですよね。とすると、オフィスは煙でもくもく……ですか?


星野:そうですね……。受動喫煙の可能性も高くなりますし臭いもあるので、禁煙者には仕事のしづらい環境だったと思います。まずは、職場環境を見直す必要があると思い、事務所を改築して喫煙ルームを設けました。

-分煙ですね

星野:ハード面から「健康経営」に取り組む環境を整えた上で、2018年11月に従業員の健康増進と活力向上を目的とした「健康経営宣言」をさせていただきました。会社の事業を維持するためにも、従業員の活力のある暮らしの実現を目指し、認定制度なども積極的に取り入れていこうと踏み切ったのです。


-認定制度と言えば、埼玉県では健康経営に関する独自の認定制度があるようですが?

埼玉県 横田さん(以下、横田):はい。埼玉県では健康経営を推進し、働き世代の健康づくりを進め、健康寿命の延伸と医療費抑制につなげることを目的に、健康経営に取り組む県内の事業所や団体を認定する「埼玉県健康経営認定制度」を2018年7月にスタートさせました。具体的には「従業員の健診受診」や「長時間労働対策」など健康経営に関する各項目の中から、職場で取り組む内容を決めていただき、健康宣言をします。その取組を1年間実践し一定の水準に達していれば、県が「健康経営実践事業所」として認定するというものです。認定された事業所には「認定証」と「ロゴマーク」を交付するほか、取組内容を県ホームページや事例集などで広くPRしています。

(ロゴマーク)

-確かに、認定など何か目標があると取り組みやすいですね。

星野:はい、本来の目標は従業員の健康ではあるのですが、わかりやすい目標があると何をすべきかが明確になるので、とても取り組みやすくなりました。おかげさまで、認定のことをお聞きしてから1年間ほどかかりましたが、弊社も2019年12月に「埼玉県健康経営実践事業所」に認定していただきました。


 -ところで環境テクノさんでは「健康経営」の取り組みとして、まずはどんなところからスタートしたのでしょうか?

星野:まず、最初に着手したのは、社内での健康にまつわる情報発信ですね。具体的には、健康的な食事のレシピや健康ネタを記事にして、定期的に掲示板に貼り出して、従業員の意識を変えていきたいと思ったんです。ただ、それだけでは従業員の反応が見えませんし、その記事がどれほど効果的だったかがわからないんですね。やるからには、きちんと効果のあるやり方で進めないと意味がないと思っていたので、どうしたらいいか悩んでいた時期もありました。


背中を押してくれた、県と大塚製薬の支援

星野:どういうふうに取り組んだらいいのか、どなたかにアドバイスいただけたらと考えていた際に、埼玉県と協会けんぽ埼玉支部に「健康経営」についてサポートしていただける制度があることを知りました。

-サポートしていただける存在があるというだけで、かなり心強いですよね。


埼玉県 横田さん(以下、横田):そうですね。埼玉県としては、企業の「健康経営」について多方面からサポートしたいと、「埼玉県健康経営認定制度」や「コバトン健康マイレージ」※など独自の仕組みを作り取り組み始めたところだったので、環境テクノさんからご要望やご相談をいただけたのは、とても嬉しく思いました。ちょうどその頃、「健康増進に関する連携協定」を結んでいた大塚製薬さんから埼玉県の健康経営推進に向けた取組のご提案をいただいていたところでしたので、環境テクノさんに対してもお力添えいただこうと、平内さんにお声をかけさせていただいたんです。
※埼玉県コバトン健康マイレージ:ウォーキングや特定健診の受診などでポイントが貯まり、抽選で賞品が当たるなど楽しみながら、手軽に健康づくりができる取組。

(健康マイレージアプリ)


大塚製薬 平内さん(以下、平内):そうでしたね。大塚製薬は、「世界の人々の健康に貢献する革新的な製品を創造する」という企業理念を掲げているのですが、そこからの延長という考え方で、民間企業に向けて健康づくりのサポートさせていただく「伴走型支援」に取り組みたいと考えていました。現在は、全国47都道府県や市区町村と連携協定を締結しています。そんなご縁で、環境テクノさんの健康課題に一緒に向き合い、それに対するソリューションを弊社が提供させていただいています。

 - ちなみに、大塚製薬が提供しているソリューションというのは、具体的にはどんなものになりますか?

平内:具体的には、健康セミナーの開催や、商品モニターなどを実施しています。従業員のみなさんに、より健康を意識していただくお手伝いをさせていただいている、という認識です。環境テクノの従業員の方々は、外勤業務が多く、全員が一度に集まるのは難しいとお話をうかがっていたので、セミナーは参加率を上げるために複数回の開催にして、都合のいいタイミングで参加いただけるようにしました。

星野:複数回開催していただいたおかげで、結果的に従業員の85%が参加してくれました。この参加率の高さは、正直わたしも驚きました。

- 85%はすごいですね。

平内:そうですよね。我々としても、それだけみなさんが参加してくださると、やった甲斐があったなぁ、と思います(笑)。このような取り組みは、すぐに効果がでるものでありませんが、健康について意識してもらう機会としては不可欠です。こういう企画を積み重ねて、少しずつ会社としても変わっていけるといいですよね。

星野:ありがたいです。実際、イベントをきっかけに、従業員の「健康に気をつけたい」という潜在意識を認識できました。加えて、イベントの後、従業員の方から「今後もこういうセミナーをやってほしい」「ストレスチェックを実施してほしい」という声も挙がってくるようになったんです。



- 従業員の方から、そういうリクエストがあるのは素晴らしいですね

星野:ストレスチェックは、通常、労働安全衛生法で従業員50名以上から実施するものなのですが、義務的なものと捉えず、従業員が望んでいるのなら実施しても良いのではないかと前向きに検討しています。従業員の心や体の状態を知り適切に対応するきっかけにできればと考えています。



中小企業だからこそ、「健康経営」が強みになる

ー環境テクノさんは、「健康経営」に取り組んでみて、どんな手応えを感じていらっしゃいますか?


星野:実際に取り組んでみて、あらためて「健康経営」は、中小企業にこそ、とてもメリットがあるものだと感じています。というのも、就職を考える時に、小規模企業を自ら選択する人は少ないかもしれせんが、健康への取り組みを意識しているという点は、福利厚生の充実や定着率の高さに並ぶ企業アピールに繋がり、採用にもプラスに働きます。

ーそうですよね。御社のように、健康経営という切り口で、規模感ではない企業の〝強さ〟みたいなものが伝わると、小さくとも魅力のある会社として評価される気がします。

星野:そうですね。大手企業は、どちらかというと国と行政が義務感を持って「健康経営」を推進していますが、我々のような小規模な企業でも、「健康経営」としてできることはまだまだありますし、やる価値は確実にあると思っています。私自身「健康経営」の意義を存分に感じているので、ぜひ、世の中の中小企業のみなさんにもオススメしたいです。

平内:そう言っていただけると、伴走者冥利につきますね(笑)大塚製薬でも、今後、環境テクノさんのように「健康経営」に興味を持ってくださった企業に対し、実践セミナーを行ったり、認定取得の活動支援など、様々な角度から「健康経営」へのお手伝いを行っていくつもりです。環境テクノさんの取り組みをモデルケースに、より具体性のあるアドバイスをしていけたらと思っています。

横田:まさに、そうですね。とはいえ、まだ認定制度自体は、あまり知られていないのも事実です。埼玉県では、「健康経営」を一生懸命やっている企業への評価がより一層高まるように、認定制度の認知度を上げ普及していけるよう、情報発信に力を入れていく予定です。


ー最後に、これから健康経営への取り組みを考えられている方々へメッセージをお願いします。

星野:「健康経営」を企業として宣言した結果、従業員の健康意識は確実に高まったと感じています。ここから次のステップに行くには、経営側が従業員の求めていることに耳を傾けたり、従業員の健康を長期的にサポートする必要があると思っています。でも、考えること自体に時間をかけすぎるのではなく、まずは一歩踏み出すことが大切。その上で次の一歩へレベルアップしたいですね。

ー確かに、環境テクノさんは、オフィスのレイアウトを見直すという一歩から始まりましたね。

星野:はい。動き出すと、次の一歩が出やすいというのは、取り組んでみてわかりました。従業員の満足度が高まると、仕事へのモチベーションが上がります。そして、それが自動的に生産性向上に繋がれば、企業に利益が生まれる。そういうサービスプロフィットチェーンを起こしていかなければと思います。


ー 従業員のためにも、そして企業利益としてもプラスになるような経営こそが、真の「健康経営」ですね。本日は貴重なお話をいただき、ありがとうございました。
 


<プロフィール> 

株式会社環境テクノ
代表取締役社長 星野 宗義

埼玉県を中心に関東一円で環境計量、作業環境測定や調査・分析を行い、環境リスク低減のためのトータルソリューションを提供。
https://www.kankyoutekuno.co.jp


埼玉県 保健医療部 健康長寿課
課長 横田 淳一
(埼玉県健康経営認定制度について)
埼玉県ホームページ

http://www.pref.saitama.lg.jp/a0704/kenkochoju/kenkokeiei.html


大塚製薬株式会社 大宮支店
支店長 平内 秀司

 
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