健康経営のことはじめ ⑥ ミクロとマクロの両視点で、現在にも未来にも効く投資計画を!
2021/01/26
健康経営のプロフェッショナルである岡田邦夫さんを迎え、今更聞けないような初歩的な内容も含めて、健康経営について教えていただく連載「健康経営のことはじめ」。第6回は、健康経営の3つの投資の中の「利益投資」がテーマです。将来への投資としてどのように健康経営にお金をかけていけばいいのか、またどのように計画を立ててるべきなのか、利益投資の考え方についてお話を伺います。健康経営の初心者であるトリクミハジメ&コトノワカバの二人と一緒に、今回も健康経営の学びを進めていきましょう!
 



まずは5年先を見据えた具体的な計画を

岡田邦夫(以下、岡田):今回のテーマは、「利益投資」です。以前、簡単に説明をしているのですが、覚えていますか?

トリクミハジメ(以下、ハジメ):はい、従業員の健康と生産性向上のために、会社の利益=お金を使うこと。インフルエンザの予防接種を受ける費用を会社が負担するのは、この利益投資でしたよね。

岡田:その通りです。利益投資は、経営者がしっかりと把握しておくべき投資です。会社の利益を使うわけですから、そのメリットとデメリットやリスクを理解して、そこに費用をかけるべきか否かをきちんと判断する必要があります。

コトノワカバ(以下、ワカバ):管理職が企画立案をする際には、経営者が判断できるようメリットとデメリットを明確にしておく必要がありますね。

岡田:利益投資をする際に、忘れてはいけないのは、あくまで従業員の健康状態を良くするもの、従業員本人のやる気や前向きな姿勢を醸成するものである、という点です。また、労働生産性を向上させるための投資であることを忘れてはいけません。リターンが見込めないものに投資はしません。

ハジメ:最初から多額の投資をするのは、非常にリスクがあると思います。お金のかけ方はどのように考えたらいいでしょうか?

岡田:まずは、「時間投資」と「環境投資」をして利益が上がる会社づくりをすることから始めましょう。そして、少額から段階を踏んで利益投資を進めていくのが正解です。例えば、始めやすいのは、インフルエンザの予防接種でしょうね。インフルエンザで会社を休む従業員がいると生産性が落ちてしまいます。しかもインフルエンザが流行る時期は、年末や年度末の忙しい時期なので、生産性を落とさないための対策は必要です。

ワカバ:直近の対策だけでなく数年先までの計画を立てながら利益投資をしていく必要があるかと思うのですが、どのくらい先まで見越しておくのがよいのでしょうか?

岡田:5年計画くらいで考えることをおすすめします。あるアメリカでの調査では、企業が5年生き残れるかどうかは、最初の1年で決まるという結果が出ています。また、人に投資している企業は5年生存率が高いとも示されています。アメリカと日本では、健康経営の考え方も少し違いますが、この結果は日本にも当てはまるでしょう。健康経営を始めようと決意したら、まずは5年というタームで従業員の健康を考えて計画を立案してみてください。

ワカバ:5年くらいだと短すぎず長すぎず、ステップアップもイメージしやすいですよね。

岡田:前にもお話ししましたが、5年後に社内の喫煙室をなくしてリフレッシュルームにする、という計画を立てた企業がありました。これは、5年後に一気に進めるのではなく、段階を踏んで5年をかけて完成に向かっていくというやり方です。
まずは、従業員に計画を発表し、喫煙者に対して禁煙外来に通う費用を2年間全額補助することを告知します。この目的は、従業員の健康ですから、ここで喫煙者をいかに減らせるかが非常に重要です。そして、一つずつ喫煙室を閉鎖して、その代わりにコーヒーサーバーを置いてリフレッシュできる環境を整えていく。こうすると、従業員の息抜きの方法がタバコからコーヒーに変わるわけです。コーヒーも飲みすぎはいけませんが、適量であればむしろ体にはいいわけです。同じリフレシュするならタバコよりコーヒーですね。

ハジメ:仕事中に行き詰った時、上手く気分転換が出来ると、労働生産性も上がりますよね。

岡田:これは、働きやすいオフィスを作るという意味での環境投資と利益投資を組み合わせて取り組んだ例でもあります。また、スキルアップのための外部研修受講制度は、時間投資と利益投資を組み合わせている事例です。何が必要か、何をしたら生産性がアップするかを考える中で、ある程度の費用が必要なものは組み合わせて考えていくのが効率的です。





長期的な目で見て健康的な習慣づけも

ハジメ:企業として取り組むべき問題を洗い出して計画を立てるときに、目の前の問題解決と、将来的な取り組みとがあると思うのですが、そのあたりのバランスを教えてください。

岡田:ハジメさんが言うように、利益投資には大きく分けて2つの視点があります。
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①直面している問題を解決するための投資
②将来の利益率向上を見据えた投資

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です。例えば、クーラーが壊れてしまって室内の温度調整ができないなど、劣悪なオフィス環境をいち早く直さなくてはならないものは①に当たります。

ワカバ:こういう問題は早く解決しないと、すぐに生産性は下がってしまいますよね。

岡田:はい、①に関しては、先延ばしにするよりも、なるべく早めに対処すべきでしょう。②に関しては、もっと先々の目標に向けてある程度の時間をかけて取り組むべきものです。先ほどお話した喫煙室をなくすというのも、こちらにあたります。

ハジメ:禁煙者にとっては、喫煙室がなくなることによって、受動喫煙のリスクが確実に減るわけですから、直近の問題解決という意味合いもあるのかもしれませんね。

岡田:タバコを吸った後30分程度は、息に有害成分が含まれていると言われていますし、内容によっては①と②を兼ねた対策になるものも多くありますよ。
インフルエンザの予防接種が始めやすいという話は先程ご説明しましたが、従業員が予防接種を受けることによって、インフルエンザにかかるリスクを抑え生産性を維持する、という効果が期待できます。でも、長い目で見れば、費用補助がきっかけで予防接種を受けるようになった人は、習慣として予防接種を受けるようになり、歳をとっても自分の意思で健康を維持するようになるでしょう。従業員が退職後も健やかに過ごすことは、健康経営の目標のひとつでもありますから、①と②の両方を兼ね備えていると言えます。

ワカバ:会社の取り組みによって、従業員の暮らしに健康習慣が根付いていくのは、素晴らしいですね。

岡田:習慣についてもう一つご紹介したいのは、会社で朝ごはんを用意するという利益投資ですね。これは、実際にある企業が実施している健康経営の施策のひとつです。朝8時に朝食を会社で用意するというシンプルな取り組みではありますが、これは、短期的な対策でもあり、同時に長期的な習慣づけの取り組みでもあります。

ハジメ:短期という点では、朝ごはんを食べると頭が働きやすくなりますよね。

岡田:その通りです。厚生労働省の調査によると、若い人は朝食を食べないし野菜も不足している、というデータが出ていまが、朝食を食べないと午前中の仕事効率が落ちるので、その分労働生産性は低下します。朝食を会社が用意し、午前中から仕事が捗れば、残業をすることもなくなり、長時間労働が防げます。定時で仕事を終え、その後の時間でリフレッシュや自己啓発も可能です。更に、睡眠時間も確保して、良質な睡眠がとれるので、翌日のコンディションも整いますよね。
また、このサービスによって生活リズムを朝方にシフトすれば、メタボや心筋梗塞という生活習慣病のリスクも同時に防止できます。そういう意味では、将来を見据えた利益投資と言えます。

ワカバ:なるほど短期と長期の両方のメリットがあるという意味がわかりました。

岡田:こういう習慣への働きかけは、経営者でないとできません。短期的にも長期的にも利点が見込めるのであれば、積極的に具体的な計画を立ててみる価値は大きいです。





非常事態の対応力は企業の強さになる

岡田:今回の新型コロナウィルスによる働き方の変化によって、IT環境やシステムを見直し、利益投資を考えざるを得ない状況になった企業も多かったのではないでしょうか。

ハジメ:以前からテレワークを待っていた企業は別ですが、急遽、IT環境やシステムを整える必要迫られ、慌てて対応した企業も少なくないと聞いている。

岡田:IT環境が整っていた企業とそうでない企業の差は、経営者が先々の流れを読んで、そこに投資してきたか否かだと思います。先行投資は、正解のない投資です。しかし、何が起こるかわからない将来に対して、会社を存続させるためにどうしていったらいいのか、これを機に改めて考え直してみてください。今回のような感染症もそうですが、震災時の対策なども、シミュレーションして整備が必要なところを洗い出しておくと、利益投資の計画づくりにも役立ちます。

ワカバ:急にいろいろ整えるのは経済的にも物理的にも大変ですから、今まで起こった事象を元に、足りない部分を見直して、将来に向けた対策を考えておくのは大切ですね。

岡田:モバイル環境やIT環境を一度に整えることができなくても、まずは予算組みをして、何年かかけるつもりで計画を立てるところから始めてみてはいかがでしょうか。その時には、専門家の意見を聞きながら、セキュリティーの対策も含めて考えるようにすれば、企業としても強度が増すと思います。

ハジメ:こういう非常事態の際に、素早く対応している企業は、外部からのでも経営者の鋭い先見の目を感じますね。

岡田:企業として、社会的な変化にも適応できる長期的な方針を持っているかどうかは、経営者の考え方によるところが大きいですね。あとは、対応能力のひとつとして柔軟性を持つことも大切でしょう。

ワカバ:コロナウイルスの流行は常にリスクへの対策をしていかなくてはならないことを気付かせてくれました。そして、今までのやり方に囚われず、広い視野で柔軟に対応ができる企業こそが成長できる気がします。

岡田:今はどの企業も平等に、先行き不透明な激動の中にいることは確かです。だからこそ、経営者は、見えている目先の問題も、見えていない先々への対策も、両方を視野にいれて考えていかなくてはなりません。それはとても大変ですが、従業員の健康を育み、健やかに企業を成長させていくための取り組みとして考えれば、やるべき対策は見えてくると思います。

企業を成り立たせているのは、一人ひとりの従業員です。健康経営を推進している企業の離職率は、2〜3%と言われています。通常が約10%ですから、随分と低いと言えます。企業が人財を大切にすれば、従業員の企業へのロイヤリティも上がるでしょうし、定年退職後も顧客になってくれる可能性は高いわけです。退職後に働いていた企業の商品を愛用していれば、元従業員の行動は周りの人に良い企業イメージを与えます。今働いてくれている従業員をどう大切にするかは、労働生産性はもちろん、後々の広告効果にもなると思います。



 


〈プロフィール〉            

岡田邦夫
NPO法人健康経営研究会理事長
大阪府医師会健康スポーツ医学委員会委員長
平成26年度厚生労働省「ストレスチェック制度に関わる情報管理及び不利益取り扱いに関する検討会」委員をはじめとして各方面で幅広く委員を歴任。
主な著書に『健康経営のすすめ』(社会保険研究所)、『これからの人と企業を創る健康経営』(社会保険研究所)、『健康経営推進ガイドブック』(経団連出版)、『ストレスチェック導入・運用サクセスガイド』(メディカ出版)、『なぜ「健康経営」で会社が変わるのか』(共著)など多数
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