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【健康社長特別対談】健康経営をこれからの当たり前にするために。 日本青年会議所 第71代会頭・中島土氏×日本スポーツ栄養協会理事長・鈴木志保子氏

管理栄養士・公認スポーツ栄養士として日本中へ健康に関する考え方を広めている鈴木志保子氏。そして、日本青年会議所 第71代会頭として「健康経営®」の浸透に尽力している中島土氏。日頃から健康について考え、実践している2人に、これからの「健康経営」における大切な考え方や忙しくても健康に働くための具体的なアドバイスなど、それぞれの視点から対談していただきました。

※「健康経営®」は特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標です。




目の前の経営課題だけでなく未来を見据えて健康を考える

−まず初めに、健康経営に関してどのような取り組みをされていますか?


中島 私は日本青年会議所の第71代会頭として、日本全体に若者視点でムーブメントを起こしていくことをミッションと捉えています。中でも健康経営は注力テーマのひとつです。全国の中小企業が健康経営を当たり前にできるような、そんな時代の潮目をつくっていきたいと考えています。

鈴木 少し大袈裟かもしれませんが、「栄養で国民を支えること」が自分の使命だと思っています。スポーツ栄養学というとアスリートのためのものと思われがちですが、そんなことはありません。誰しも健康だからこそあらゆる活動ができるわけで、そのために栄養は最も大切な要素です。その大前提を日本全体に広めていきたいと思っています。

中島 私自身、学生時代はボディビルに打ち込んでいたことや、妻が栄養士ということもあって、食事や健康にはかなり気を遣っているつもりです。それでも、経営という視点で一人ひとりの行動を変えたり、全体を最適化していくことには難しさを感じています。

鈴木 そうですよね。あるエビデンスでは、日本人は肥満とエネルギー不足が極端に多いことが分かっています。この現状を変えていくためには、目の前の課題だけでなく未来を見据えたアクションを仕掛けていくべきですよね。

中島 まさに社会全体の意識改革が必要ですよね。

鈴木 おっしゃる通りです。特定健診・特定保健指導の実施が義務づけられた2008年頃は、まだまだ働く人の健康に対する意識が社会全体に根付いていませんでした。そこから考えると、こうして「健康経営が大切である」という前提でお話ができることは大きな前進だと思います。このような変化をこれからどのように起こしていくのかを考えなければいけません。


長期的な視点で中小企業も健康経営を行う時代へ

−働く方々に、健康をより強く意識してもらうためにはどうしたらよいのでしょうか?



鈴木 働き盛りの時期はどうしても健康より仕事やプライベートを優先してしまいがちですよね。でも健康を後回しにし続けると、やがて自分のやりたいことができなくなってしまいます。ですから、しっかりと自分の体をマネジメントしてほしいと思います。

中島 それこそ健康診断なんかはいい機会ですよね。

鈴木 もちろんです。ただ健康診断で悪い結果が出たからではなく、健康なうちから管理栄養士を活用してほしいです。毎日の食事は健康の基本ですから。それから、経営者の方には働く人の一生につながる健康教育を導入していただきたいと強く思います。
例えば、メタボ検診(特定健康検査)は、40歳からが対象者ですが、40歳になって突然ポッコリお腹が出ることなんてないですよね。20代、30代で、きちんと健康を意識して過ごすことで、その先の40代、50代におけるメタボリックシンドロームのリスクを下げることができるのです。

中島 健康経営も長期的な目線が大事ですよね。先日、岸田首相が日本青年会議所の会合に出席してくださった際に、大企業の非財務情報について有価証券報告書への記載を義務付けると明言されました。つまり、社員の健康など非財務の部分を、経営者はこれまで以上に意識しなければいけない時代になっていくのだと捉えました。これは、大きな変化になると考えています。それに伴い、ESG投資*の考え方も変わってくるはずです。
*従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資のこと。

鈴木 働く人の健康を考えた経営をしているかどうかが、会社の重要な評価ポイントになっていきますよね。

中島 そうですね。社会を見渡してみても、新型コロナウィルスやロシアのウクライナ侵攻など、昨日までの当たり前だった日常が、突然当たり前ではなくなる時代です。失って初めて、当たり前だったことの価値が急激に浮かび上がってくる。それは健康も同じだと思います。これからの時代は「健康を意識する」という当たり前の価値にどれだけ投資していけるかが非常に重要になってくるでしょう。


「忙しい」ではなく、「自分の体を喜ばせる」ためにできること


−忙しい日々を送る働く方々が実践できる、具体的なアドバイスはありますか?

鈴木 私はよく「体を喜ばせましょう」と言っています。

中島 「体を喜ばせる」とはどういう意味でしょうか?

鈴木 遊んだり、お酒を飲んだりすることで「脳が喜ぶ」ことは、皆さん好きですよね。仕事が忙しくて大変なとき、趣味や飲酒などで、脳を喜ばせてリフレッシュする方が多いと思います。ただ、それだけでなく、きちんと栄養を摂って、体を喜ばせる食習慣を身につけなくてはいけません。体を喜ばせることを怠り続けていると、生活習慣病などの病気になってしまいます。

中島 なるほど、わかりやすいです。体を喜ばせるためには、やはり健康的な食事が基本になりますよね。



鈴木 食べることは全ての活動の原点ですからね。食べないでいると体だけでなくメンタルにも悪影響を及ぼし、悪循環に陥ってしまいます。どんなに仕事が忙しくても、しっかりと栄養のある食事を摂らなければ、いいパフォーマンスにはつながりません。
それこそ、今は大塚製薬さんをはじめ、さまざまな企業から素晴らしい栄養補助食品が販売されていますし、忙しい人はそういったものもぜひ活用して、不足しがちな栄養を補いながら食生活に気を遣ってほしいですね。

中島 本当にそうですよね。弊社は実業団のサッカークラブを有していまして、選手やコーチたちとディスカッションする機会がよくあります。5年くらいの中長期計画から逆算して毎日の行動に落とし込んでいくと、結局、何を食べるかに帰結してくるんです。食事の先に勝利があると言っても過言ではないなと。

鈴木 食事は、簡単に手を抜けてしまうものなのです。食事をサボったからといって、すぐに死んでしまうわけでもありません。その上、栄養を意識した食事をしようとすると、食材など、お金もかかります。健康的な食事を実践することに高いハードルを感じて、手軽に購入できる好きなものだけでお腹いっぱいにしたり、外食や付き合いで暴飲暴食をしてしまったりする人も多いと思います。そんな食生活を続けると、やはり健康的な体を保つことは難しくなる。そこで、健康的な食事を意識するためにおすすめの習慣が、毎朝、排尿後の体重を測ることなんです。

中島 朝がいいんですね。

鈴木 はい。朝に測ることで、前日からの体重の増減に合わせて、その日の食事をどうしようか考えられます。肥満の方が朝に体重を測ることを習慣付けただけで、1ヵ月程度で1kg体重が減るというエビデンスもあるほどです。

中島 ある意味、自分の健康の見える化ですね。コロナ禍でだいぶ機会は減りましたが、仕事をしているとどうしても付き合いで飲みに行かざるを得ないシーンなんかもありますもんね。

鈴木 そういうときは、お酒はできるだけ薄めて飲むとか、あるいはお酒と同じくらい水を飲むようにするといいです。お酒を飲まないと場が盛り下がるというようなことを気にされるのであれば、焼酎などの無色透明なお酒がおすすめです。いくら薄めようが、お酒のふりをして水を飲んでいようがバレませんから。もちろん、いくら薄めていても飲みすぎは健康によくありませんから、適量で楽しむのが何よりも大切です。

中島 すごく具体的で、実践しやすいです。

鈴木 健康に対するアドバイスは、具体的でないと伝わらないんですよ。特に食事はそうです。昨日何を食べたかを材料や量まで、ほとんどの方は覚えていていませんから。

中島 確かにそうですね。

鈴木 覚えていないことを伺っても正確な回答が得られません。そこで、管理栄養士は、実践できる行動変容を促す指導をするために、食事の写真を撮って見せてもらえると、一番簡単で確実なアドバイスができるんです。

中島 基本的な考え方かから具体的なアドバイスまで、とても勉強になりました。日々の栄養バランスの摂れた食事で、私も健康を意識していきたいと思います。




<プロフィール>


公益社団法人日本青年会議所 
第71代会頭
中島 土

1982年大分市生まれ。中央大学卒業。ジェイリース株式会社取締役副社長。2011年に一般社団法人大分青年会議所へ入会し、現在は公益社団法人日本青年会議所第71代会頭を務める。


 


一般社団法人日本スポーツ栄養協会
理事長
鈴木 志保子

東京都出身。実践女子大学卒業後、同大学院修了。東海大学大学院医学研究科を修了し、博士(医学)を取得。 神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科長。一般社団法人日本スポーツ栄養協会理事長、公益社団法人日本栄養士会副会長、日本パラリンピック委員会女性スポーツ委員会委員を兼任。
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