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【連載第16回】チームのビジョンを共有して、一体感を高める

チームもメンバーもいきいきと働くには、一体感を高めることが大切。そのためには、ビジョンの共有が重要です。そこで今回は、チームのビジョンを皆で考える方法をご紹介します。ビジョンの共有で、生産性やメンバーのモチベーションが高まり、職場の健康度向上も期待できます。

この連載では、公認心理師として多くの企業でメンタルヘルス対策のサポートをしている株式会社ハピネスワーキングの船見先生に、メンタルヘルス向上の具体策をご紹介していただきます。






ほとんどの労働者は、自分の役割がわかっていない

ストレスチェック(新職業性ストレス簡易調査票)の項目に、「役割明確さ」というものがあります。これは、「自分の職務や責任が何であるか分かっている」という質問が反映された項目です。私は数多くの組織の結果を見てきましたが、この項目が平均値よりも高く出ている組織に出会ったことが、ほとんどありません。
新職業性ストレス簡易調査票が公表されたのが2012年。ということは、約10年かけて「役割明確さ」が全国的にじわじわと下がってきているのではないか、ということが考えられます。日本の労働者たちは、職場における自分の役割があいまいなまま働いているのです。

本来チームというものは、それぞれが役割を果たしながらひとつのゴールに向かって進んでいくものです。しかしながら、日本の職場ではそのことがあまり意識されていません。
役割が明確にわかっていてこそ、主体的に仕事に臨めます。だからこそ、「役割明確さ」がストレスチェックの項目に含まれているのです。
チームワークを高めるためにも、健康度を高めるためにも、今一度、メンバーひとりひとりの役割に目を向けていただきたいと思います。

そこで大事になるのが、チームのビジョンです。ストレスチェックの結果が良好なチームのリーダーに話を聞くと、その多くはしっかりとビジョンを掲げています。単なる業務の目標ではなく、「お客様も自分たちも、笑顔日本一!」など、どんなチームでありたいかというビジョンを持っているのです。
ビジョンが明確になっていれば、メンバーはそのビジョンを達成するために自分はどんな役割を果たすべきか考えるようになります。
業務目標だけでは現実的すぎてワクワクしません。そこにビジョンが加わることで、ワクワク度が高まっていきます。
ビジョンは、できればメンバー全員で作りたいもの。なぜなら、人は自分で決めたことは実践しようとするからです。
未来の理想像を考える
私が行っている研修の中に「リチーミング」というものがあります。「解決志向」という心理療法をベースにしたチーム再構築のための研修です。
「解決志向」では、問題の原因を深堀りしません。問題が解決した暁にはどのような状態になっているのか、未来の理想像を考えます。そして、理想像に近づくために今日からできる具体策を考え実践する、という手順で行う心理療法です。
機械の故障やシステムエラーなどは、原因を究明してしっかり修正することが大事です。しかし、人の問題については、原因がはっきりしないことも多いものです。原因探しをすることで犯人探しに陥り、チームがギスギスすることだってあります。
ですから、人の問題に関しては、原因ではなく未来を見据えて行動を変えていくことが非常に有効なのです。

その手法を応用したのが「リチーミング」です。
まずはメンバー全員で、今のチームの問題を考えます。問題が明らかになったら、それが解決した未来はどうなっているかを考えていきます。
「多分こうだろう」という必然的な未来ではなく、「きっとこうなっている」というワクワクできるような未来の理想像を、イメージを膨らませながら自由に考えるのが特徴です。
この未来の理想像こそが、チームのビジョンになります。
ビジョンを共有したら、最後に、ひとりひとりが、ビジョンを達成するための自分の「役割」を考え、今日から実践できることを宣言して終了します。

「リチーミング」に取り組んでもらうと、参加者の表情がみるみる変わっていきます。

問題を挙げている最中は顔が曇り、沈んだ雰囲気になっていた人たちが、未来を考え始めると、徐々に表情が明るくなり、笑顔を見せるようになっていくのです。
終了後のアンケートでは、90%の人が「モチベーションが上がった」と回答。リーダーからは「自分ひとりではあのような未来の理想像(ビジョン)は考えつかなかったと思う」といった声もよく挙がります。

かのゲーテは、「どこに行こうとしているのかわからないのに、決して遠くまで行けるものではない」と言いました。
チームも同じです。まずは、メンバー皆でビジョンを考える時間を作ってみてはいかがでしょうか。ビジョンの共有だけでも、チームの一体感は増していくはずです。




【プロフィール】


船見敏子(ふなみ・としこ)

株式会社ハピネスワーキング代表取締役。
公認心理師、1級キャリアコンサルティング技能士、産業カウンセラー。
雑誌編集者を経て現職。産業分野を中心に、組織コンサルテーション、カウンセリング、研修などを実施し、職場のメンタルヘルス向上のサポートをしている。これまでに約1000社、10万人のメンタルケアに携わってきた。著書に『言い返せない人の聴き方・伝え方』(日本能率協会マネジメントセンター)、『幸せなチームのリーダーがしていること』(方丈社)など。

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