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【健康経営×喫煙対策/後編】 健康経営優良法人の認定要件が変更に! 今知っておきたい喫煙対策の成功法

健康経営優良法人の認定基準が2022年より変更となり、「喫煙率低下に向けた取り組み」が評価項目として追加されました。前編では、喫煙者と周囲の人への健康リスクについて解説。今回の後編では、健康経営に取り組む中小企業における具体的な喫煙対策・禁煙支援の進め方を日本禁煙学会専門指導者で、オンライン診療を始めとした健康管理サービスを提供している株式会社リンケージの泉水貴雄さんに伺いました。




健康経営に向けた喫煙対策の考え方

−2022年に健康経営優良法人の認定要件が変更となり、これまで以上に喫煙対策への取り組みが求められるようになりました。


そうですね。以前は、喫煙に関する評価項目は必須要件の「受動喫煙対策に関する取り組み」のみでしたが、新たに「喫煙率低下に向けた取り組み」が選択要件として追加されました。非喫煙者をタバコの健康被害から守るだけでなく、喫煙者に向けた禁煙支援が要件に加わったことで、これまで以上に継続的な喫煙対策が求められるようになったといえます。

−企業が喫煙対策を始めるにあたって、心がけるべきことはありますか。

前提として、やめられない喫煙は「ニコチン依存症」という病気であり、喫煙者は医療従事者による積極的な治療が必要な患者であると理解した上で、支援に取り組むことです。

そのためには、喫煙が引き起こす症状について、非喫煙者も正しく理解し、適切に支援することが大切です。そして、喫煙者の意識や行動の変化に合わせて、サポートしていく。禁煙を迫ったり、責めたりしない。焦らせないことが大切です。

喫煙対策の具体的な進め方


−では、具体的にどのような喫煙対策に取り組めばよいでしょうか。

まずやるべきことは、社内で喫煙対策の方針を定め、社員の前で発表することです。組織として健康経営を目指すために喫煙対策に取り組むという目的を可視化し、共有することで従業員一人ひとりに取り組みを自分ごと化してもらいます。

−このときに、気をつける点はありますか?

まず1つ目は、方針を議論・検討する段階では、非喫煙者だけでなく喫煙者も巻き込み横断的な議論の場を持つことです。どちらか一方の意見だけで進めてしまうとうまくいきません。

2つ目は、喫煙対策は長期戦になることを念頭においた上で方針を定めること。
少なくとも3年以上かけて取り組むものとして、段階的な目標を設定することをおすすめします。この2点は非常に重要なポイントですので、喫煙対策に取り組む際には心に留めておいてください。

その上で取り組むことは、「環境整備」、「従業員教育」、「禁煙サポート」の3つです。


−3つの取り組みについて、それぞれ具体的な内容を教えてください。

まず “環境整備“は、タバコを吸えない環境を物理的に作っていくことです。大切なのは、段階的に時間をかけて行うこと。オフィス内の空間分煙から始め、少しずつ喫煙所を削減し、屋内から屋外に移動させ、やがて就業時間内禁煙にする、というような流れで進めるとよいでしょう。

冒頭にも話した通り、喫煙対策は長期戦です。突然「明日から喫煙所を全て撤去します」といっても、喫煙者はすぐにタバコを止められるわけがありません。マイルストーンを見せることで喫煙者にも時間的な余裕が生まれ、禁煙対策が成功する確率が上がります。

次に、従業員教育についてです。喫煙による健康リスクや禁煙のためのサポート方法など、喫煙対策に対する正しい理解を喫煙者・非喫煙者問わず平等に促進していきます。禁煙には非喫煙者の支援が必要不可欠ですので、全社一丸となって取り組む姿勢を維持することが大切です。


最後に、禁煙サポートについて。健康保険組合や産業医などと協力しながら、喫煙者に対する継続的な支援に取り組んでいきます。私たちのように禁煙サポートプログラムを提供している専門家と一緒に進めていくことも効果的です。

組織の喫煙対策に取り組むとなると、多くの場合は環境整備だけにとどまりがちです。
しかし、喫煙所を撤去するだけでは、喫煙対策は成功しません。環境整備を喫煙者に対する“北風的”な取り組みとするなら、従業員教育や禁煙サポートは喫煙者に寄り添う“太陽的”な取り組みです。“北風と太陽”、どちらも必要であることを忘れないでくださいね。

喫煙者の行動変容ステージ

−喫煙対策は長期戦で取り組むということでしたが、どれくらいの目標を設定するといいのでしょうか。

ひとつの目安としては、2006年に厚生労働省が発表した「がん対策推進基本計画」が参考になります。ここでは、2022年までに成人喫煙率を12%にすることを目標としており、この数字には根拠があります。それは、喫煙者の「行動変容ステージ」です。


成人喫煙率12%という目標は、「がん対策推進基本計画」を策定した当時、国内の喫煙者のうち「いつかタバコをやめたいと思っている」と回答した人の割合に基づいています。
この回答をした人は、行動変容ステージで言えば「関心期」にあたります。逆にいえば、これ以下の「無関心期」の方々まで視野に入れて目標を設定してしまうと、達成のハードルはかなり厳しくなってしまうといえます。まずは、「関心期」の方の行動変容ステージを進めていく方が合理的ですし、取り組みを推進しやすいと思います。

−「無関心期」の方にアプローチする方法はないのでしょうか。

いえ、決してそんなことはありません。かなり具体的な話になりますが、まず喫煙者の方にオープンクエスチョンで「最近タバコについてはいかがですか?」と聞いてみることをおすすめしています。

そこで「特にタバコを止めるつもりはない」「やめようとは考えていない」というような返答をされる方は「無関心期」である可能性が高いです。そういう方には、「やめたいと思ったらやめる方法があります。いつでも相談してくださいね」とアナウンスし続けることが大切です。

「関心期」に変わった際に、同じ言葉でも捉え方が変わるはずです。紙巻タバコから加熱式タバコに変えた、などはわかりやすい「関心期」への行動変容ですので、見逃さないようにしてください。

−最後に、喫煙対策を始めようと考えている企業の方々にメッセージをお願いします。

喫煙対策は従業員だけでなく、家族や顧客の健康にもいい影響を与えます。日本の9割以上を占めている中小企業が喫煙対策に取り組むことで、日本がもっと健康で元気になる。そういう大きな意義があると考えています。取り組みの推進にはさまざまなサポートもありすので、ぜひ活用しながら健康経営に取り組んでいただけたらと思います。




【プロフィール】


株式会社リンケージ
禁煙エバンジェリスト
日本禁煙学会専門指導者(心理士)
健康管理士一級指導員
泉水 貴雄


新卒でワーナー・ランバート株式会社に入社。ファイザー株式会社との合併後、ディストリクトマネージャー、首都圏エリアマネジャーなどを経験。その後、遠隔診療による禁煙治療の普及に携わるために株式会社リンケージへ。禁煙指導員としてさまざまな企業へ禁煙サポートプログラムを提供し、従業員の健康増進と企業価値の向上に努めている。

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