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健康経営のことはじめ ⑧ 持続可能な会社づくりのための健康経営運用法

健康経営のプロフェッショナルである岡田邦夫さんを迎え、今更聞けないような初歩的な内容も含めて、健康経営について教えていただく連載「健康経営のことはじめ」。最終回の第8回では、持続可能な会社づくりのために欠かせない健康経営の運用法について、健康経営の初心者であるトリクミハジメ&コトノワカバの二人と一緒に学びます。






継続の鍵は「トップダウン」と「ボトムアップ」

岡田邦夫(以下、岡田):これまで、健康経営の基本的な考え方や取り組み方についてお話ししました。今回はその一歩先、健康経営をどうやって続けたらよいかをお話ししましょう。
従業員の健康は一朝一夕では作れませんから、健康経営は続けることがとても重要です。そのために、経営者の意思を社内に浸透させる方法として「トップダウン」と「ボトムアップ」があります。

コトノワカバ(以下、ワカバ):「トップダウン」と「ボトムアップ」、よく耳にする言葉ですが、どういう意味ですか?

岡田:企業の意思決定や経営のスタイルを示すのに使われる言葉です。
「トップダウン」は、経営者の意思決定に従って従業員が動くスタイルです。つまり、経営者が「健康経営に取り組みます」と宣言し、従業員が具体的にやるべきことを提示します。
健康診断を全員受診するよう促すだけでなく、経営者自らが禁煙やマラソンに取り組む姿を示したり、従業員に「元気?」と声をかけたりと、従業員の意識を変える行動を実践するのも「トップダウン」だと言えますね。

トリクミハジメ(以下、ハジメ):なるほど! 「トップダウン」とは命令で「やらされる」ものだと思っていましたが違うのですね。

岡田:その通りです。健康経営の社内浸透においては、従業員が経営者の意思を理解し、共感できるかどうかが重要です。そのため、経営者は「なぜ健康経営に取り組むのか」を丁寧に伝える必要があります。
一方、「ボトムアップ」は、従業員の意見を吸い上げて経営者が意思決定するスタイルです。例えば、「健康診断へ行く時間がなかなか作れない」「有給休暇が取得しにくい」などの声を聞き入れ、就業時間内の健康診断受診を可能にしたり、有給休暇を取得しやすい環境を、経営者が会社として整えるのが「ボトムアップ」ですね。このような形だと従業員も実践しやすく、経営者の意思も浸透しやすくなります。

ワカバ:意見を吸い上げると言ってもなかなか難しい気がしますが。やり方のコツはあるのでしょうか?

岡田:一番いいのは、経営者が、健康経営を推進する担当者を従業員から選出し、ある程度権限を与えて任せることです。50人以上の企業では労働安全衛生法の下、衛生管理者が必ず配置されていますから、その人を中心に健康経営に取り組むチームを作りながら、経営者ともコミュニケーションを取る場を設けるとスムーズに取り組めるはずです。
従業員から思うように意見が集まらない場合は、アンケートをとったり、社内のキーマンに個別に話を聞くなどの工夫が必要になります。「トップダウン」から始め、「ボトムアップ」を同時に行うのが、健康経営を長く続ける鍵です。





健康経営を盤石にする3つの力

ワカバ:「トップダウン」でも「ボトムアップ」でも、経営者と従業員が互いに理解して協力することが重要なのですね。

岡田:そうです。一体感をもって全社的に健康経営に取り組めると、持続可能な企業基盤ができます。さらに健康経営をより盤石なものにするなら、専門的な知識を持った外部の専門家の力を借りるのもおすすめです。

ハジメ:外部の力というのは、協会けんぽのような機関ですか?

岡田:協会けんぽも外部の力として頼りがいがありますね。最近では、専門性を生かして健康経営をサポートする民間企業も増えていますが、あまり費用をかけずに利用できる外部の力を3つ紹介しましょう。

一つめは自治体です。企業の健康経営をサポートしてくれる窓口があり、活用できる制度など気軽に相談できますし、栄養士や健康運動指導士などを企業に派遣し健康講座を開いてくれたりもします。これらは、無料で利用できるものが多いので、おすすめです。

二つめの協会けんぽも無料で健康経営アドバイザーを派遣してくれます。健康経営アドバイザーは東京商工会議所が認定した資格で、健康経営を実践するための知識を持った専門家です。企業にヒアリングを行い、課題を見つけ、健康経営の取り組み方を一緒に考えてくれるので、自治体の相談窓口より一歩踏み込んだサポートを受けられます。

三つめは産業医ならびに産業保健スタッフです。健康経営アドバイザーはアドバイスまでですが、産業医は健康診断結果のチェックや職場の巡視を通じて、医者の視点から健康課題の取り組み策を提案し、一緒に実践してくれます。
産業医は、従業員50人以上の企業では設置が義務付けられていますが、50人未満の企業でも国の助成金を利用して置くことができますから、産業医に相談するのもよいでしょう。

ワカバ:外部の力を借りれば、経営者と従業員だけでは見つけられない課題も解決できますね。



持続可能な企業づくりのための選択

岡田:さて、8回にわたって健康経営についてお話ししましたが、いかがでしたか?

ハジメ:健康経営の重要性がよく分かりました。でも正直なところ、先の見えない時代に、短期にかつ直接的な利益創出ではない健康経営に踏み出すのは、勇気がいるかもしれません。

岡田:そうですね。そういう思いを抱く中小企業の経営者も多いと思います。ただ、目前に迫る2025年問題を考えると、すぐにでも健康経営をスタートしなければならないのです。

ワカバ:2025年問題とは、2025年には日本人の4人に1人が75歳以上になり、医療費などの増加で社会保障制度が崩壊するのではないかという問題ですね。健康経営と関係があるのでしょうか?

岡田:高齢化は中小企業にも影響しています。2017年の経済産業省の資料では、2025年に中小企業の経営者の5割以上が70歳を超え、廃業する企業が急増すると試算されています※1。
廃業の主な理由は後継者不足です。中小企業の廃業は、雇用の喪失や生産性低下など日本の経済にも大きな打撃を与える大問題です。2017年に中小企業庁が『経営者のための事業継承マニュアル』を作成していますが、その中で言われているのが、事業を継ぎたいと思ってもらえるよう、企業価値を高めて魅力ある会社にしようということなのです。

ワカバ:あっ、つながりました! 健康経営に取り組む会社は企業価値が上がり、いい人材が集まって来きますね。

岡田:健康経営でいい人材が集まり、会社がイキイキすれば後継者問題も解決するのではないでしょうか。
健康経営は、従業員の健康な人生を支えると同時に、持続可能な企業であるための重要な概念です。そういう意味で私は「健康経営は経営者の心」と思っています。是非、会社と従業員の未来のために、できるところから健康経営の一歩を踏み出してください。
※1:未来投資会議構造改革徹底推進会合 第1回(2017年10月12日開催)での配布資料「中小企業・小規模事業者の生産性向上について」から






<プロフィール>


岡田邦夫
NPO法人健康経営研究会理事長
大阪府医師会健康スポーツ医学委員会委員長
平成26年度厚生労働省「ストレスチェック制度に関わる情報管理及び不利益取り扱いに関する検討会」委員をはじめとして各方面で幅広く委員を歴任。
主な著書に『健康経営のすすめ』(社会保険研究所)、『これからの人と企業を創る健康経営』(社会保険研究所)、『健康経営推進ガイドブック』(経団連出版)、『ストレスチェック導入・運用サクセスガイド』(メディカ出版)、『なぜ「健康経営」で会社が変わるのか』(共著)な

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