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運輸業界の健康課題を考える

「健康経営」の理解を深めていただくため、全国各地では様々な角度から健康経営を考えるセミナーやワークショップが開催されています。ここでは、そんなイベントに編集部がおじゃまし、その様子をお伝えします。

今回おじゃましたのは、広島市で開催されたタクシー会社や配送業社を対象とした、「運輸業界の健康問題を考える 〜課題解決型セミナー 〜」。第一部は、良質な睡眠についての講演、第二部は、座りながらでもできるストレッチや運動のレクチャーと、運輸業界の仕事のパフォーマンスを上げるためのコツやヒントを伝授するような内容となりました。




「運輸」は、経済を支える重要な業種のひとつ。しかしながら、昨今、ドライバーの高齢化や人手不足による人員の確保といった課題や、それに起因する勤務状況から、睡眠不足や長時間の運転姿勢による健康悪化などが経営上の問題となりつつあります。そこで今回取り上げられた課題解決へのテーマが睡眠と運動です。

睡眠を知り、仮眠をうまく使う    

第一部は、睡眠健康指導士として年間100本近くの講演を行なっているという、マイライフ株式会社 平野清子さんによる講演「快眠ドライブのための睡眠力アップセミナー 〜まずは眠りのしくみを知ろう〜」。
まず、平野さんがお話しくださったのは、睡眠不足のリスクについて。


「極端に睡眠時間が短くなくても、わずかな睡眠不足は積み重なってきます。これを、「睡眠負債」と言うのですが、その名の通り、借金のように私たちの身体にのしかかってきます。「睡眠負債」を抱え込むと、疲労感や仕事の効率低下だけでなく、肥満や糖尿病、高血圧、心筋梗塞、脳卒中など、様々な健康リスクが上がってしまいます。困ったことに、この「睡眠負債」は、寝だめをしても解消はされないんです」(平野さん)

目覚まし時計をセットせずに眠って、いつもの起床時間を2時間以上オーバーしている人は、「睡眠負債」を抱えている可能性がある、とのこと。



でも、睡眠時間が長ければいいというものでもないようです。

「寝つきがいい、朝スッキリ目覚められる、午前中に眠気がこない。そういう状況であれば、睡眠時間は足りていると考えられます。睡眠時間は個人差がありますから、まずは自分の身体にあった睡眠時間を見つけることも大事。寝付いて3時間程度は成長ホルモンが多く分泌されて、骨や筋肉を成長させたり、疲労回復や免疫力を強化したり、肌を修復する働きがあるので、子どもだけでなく大人にとっても大切。だから、3時間以上の睡眠時間の確保は必要ですよ」(平野さん)

夜にきちんと眠ることができれば、疲れが取れ体調も維持できるでしょう。しかし、夜中も運転し続けなくてはならないタクシードライバーやトラック運転手は、ちょっとした眠気でも、交通事故に直結してしまう恐れがあるのです。そのような危険を回避するためには、計画的な仮眠が有効だと、平野さんは言います。

「仮眠は、頭をスッキリさせたり、作業効率のアップにも有効です。食後に仮眠を推奨している大企業もあるくらいですよ。カフェインの利用も効果的です。カフェインは、摂取後30分後くらいから眠気をじゃまする効果を発揮します。仮眠前にコーヒーなどでカフェインを摂ると、スッキリ目覚められると思います」(平野さん)

睡眠は人間の生命維持システムの一つ。だからこそ、眠りの仕組みを知って、日頃の睡眠の質を高めると共に、勤務時間が深夜に及ぶ時は仮眠を取り入れることでパフォーマンスを上げていく工夫が大切です。


運動のハードルを下げ、日常に取り入れる

第二部は、ボディメイキングや健康づくりの指導、スポーツ選手へのトレーニング指導などなどを行なっている、株式会社ATHER 米澤和洋さんによる「車内で出来る腰痛対策ストレッチングと健康経営について」の講演。誰でもすぐに実践できる簡単なトレーニングを体感しながら、勤務中こそ意図的に身体を動かす大切さを学びました。



講演は全員が席を立ち、米澤さんの誘導で身体を動かすことからスタート。首の可動域を確認し、柔らかさを測るといった簡単なストレッチで、多くの参加者が、自分の身体が凝り固まっているな、と感じたようです。

そして、米澤さんは、こう話します。

「『座ることは新しい喫煙である』。これはジェームズ・A・レヴァン博士というハーバード大学の先生の言葉です。これは、座り続けていることが、喫煙と同じくらい身体によくない、ということを意味しています。実際、座っている時間が8時間以上だと、喫煙での死亡率の2倍以上となるという研究結果*1もあるんです」(米澤さん)
*1:書籍「ケリー・スターレット式 「座りすぎ」ケア完全マニュアル 姿勢・バイオメカニクス・メンテナンスで健康を守る」より
 
様々な企業でも、身体を動かすことの重要性とその方法を指導している米澤さんは、ある会社での事例をこう話します。

「運動の前と後で3つの質問をして、5段階で回答してもらったんです。その問いは、(1)今日は気分がいい (2)今日は疲れている (3)明日は楽しい 。すると、運動後の回答で、約8割が前向きな回答となりました」(米澤さん)

実践した簡単な運動を、試しに参加者とやってみました。それは、意外にも「ジャンケン」。しかし、ただのジャンケンではなく、「後出しジャンケンで勝ってください」「次は、右手で勝って、左手で負けてください」など。頭で情報処理をしつつ、身体でアウトプットする。これも、立派な運動だと米澤さん。

 



「身体を動かすというと、スポーツのイメージを持つ方が多いのですが、ジャンケンや肩回しでも構いません。掃除や洗車だって立派な運動です。ぜひ運動へのハードルを下げて、少しでも身体を動かす機会を作っていただけたらと思います」(米澤さん)

その後は、腰痛対策として、テニスボールを使って座ったままの状態で簡単にできる「筋膜リリース」を数パターンご紹介していただきました。筋膜リリースとは、筋肉を覆う膜をストレッチで伸ばし、身体の動きやすさを改善するというもの。参加者のみなさんも、時に「痛い!痛い!」などと声を出しながら、笑顔で楽しく取り組んでいました。



【筋膜リリースストレッチ例】
テニスボールで手軽に筋膜リリースをすることができます。太ももやお尻、首のまわりや足の裏などにボールを当て、強すぎない程度に圧がかかるようにして狭い範囲をコロコロと転がしましょう。1箇所につき30秒程度が目安です。同じところを1分以上行わないようにしましょう。


そして最後に、この講演の冒頭で行ったのと同じように、屈伸をしてみると、手がつま先につくようになった、身体が曲げやすくなった、という声があちらこちらから。身体を動かすことのメリットを、実際に体験した参加者のみなさんは、例外なくすっきりした表情をされていたのが印象的でした。
 
参加者の方に、感想をお聞きしました。


「健康上の理由で毎年一定数は退職してしまうので、健康で長く勤めて欲しいなと思っています。そのためには、会社として健康管理をしていくのは大切ですね。今回、お聞きした睡眠のお話は、無呼吸症候群や居眠り運転など、乗務員たちにも関係してくるものだと思いました。睡眠というのは業務外の時間の話になるので言いづらいところではありますが、うまく情報提供できたらと思っています」
(中国タクシー 株式会社/代表取締役 達川信二さん)



「サービスを向上させたり、乗務員の意欲を高めたりするにも、社員の健康管理はとても大切ですね。少しの運動でも、身体の可動域が広がったのを実感できたのは、おもしろかったです。身体を動かすと眠気もなくなりますし、気持ちも前向きになれますし、お聞きしたことを社内で共有したいと思います。健康経営に取り組むに当たっての、サポート体制や情報を得ることができたのもよかったです」
(有限会社 西条タクシー/取締役営業部長 上田俊介さん)

「仮眠」や「運動」といった仕事と離れる時間こそが、運輸業界が抱える課題を解決し、生産性の向上につながっていく。今回のセミナーで学んだキーワード「健康経営」の施策を考える上でも、大きなヒントになったことでしょう。




共催:広島市、大塚製薬株式会社 ニュートラシューティカルズ事業部
後援:中国運輸局広島運輸支局
協力:広島県