睡眠リズムを整えて、心も身体も健康な毎日を
日頃から睡眠が十分にとれていないと、健康に悪影響を及ぼしたり、日中の眠気による労働生産性の低下につながることも。
2024年4月1日より開始となる健康日本21第三次では、主な目標の項目として、健康経営の推進と合わせて睡眠に関する項目が追加されているように、従業員にいきいきと働いてもらうためには、企業として従業員の「休息のあり方」にも目を向けていくことも重要です。そのために意識したいのが、毎日の睡眠リズムを整えること。今回は、睡眠の大切さや、睡眠リズムの整え方などについてご紹介します。
睡眠不足が与える影響
日本人の睡眠時間は、世界各国に比べるとかなり短い傾向にあります。経済協力開発機構(OECD)が2021年に行った調査によると、日本人の1日の睡眠時間は7時間22分。全体平均の8時間28分を大きく下回り、調査を行った33ヵ国中最下位となっています。
また、男女別に見ると、日本人女性は特に、十分な睡眠時間を確保できていない人が多いことがわかります。世代別では、45歳をピークとして働く世代の慢性的な睡眠不足が指摘されています。
参照:良い目覚めは良い眠りから 知ってるようで知らない睡眠のこと|厚生労働省(PDF)
慢性的な睡眠不足が続くと、日中の眠気、意欲低下、記憶力減退などが引き起こされ、作業能力も低下します。さらに、ホルモン分泌や自律神経機能にも影響が出ることで、食行動が変化し、生活習慣病に罹りやすくなるとされています。
また、従業員の睡眠状況は、会社の事業にも影響を与える場合があります。従業員の睡眠不足が続くと、業務効率も低下してしまうことも。経済産業省が発行している『企業の「健康経営ガイドブック」~連携・協働による健康づくりのススメ~(改訂第1版:平成28年4月)』では、睡眠休養に問題があるグループは睡眠に問題がないグループと比較して、328,644円のプレゼンティーズムによる損失コストが発生してしまうと紹介されています。
※プレゼンティーズムとは、出勤しているものの、健康上の問題が理由で生産性が低下している状態のこと。
※プレゼンティーイズムは WHO-HPQ で測定しており、プレゼンティーイズム損失コスト(金額)は、プレゼンティーイズム損失割合(100%-WHO-HPQ 相 対的プレゼンティーイズム)に総報酬年額(総報酬月額×12 ヵ月+標準賞与)を乗じることにより算出。
企業の「健康経営ガイドブック」~連携・協働による健康づくりのススメ~(改訂第1版:平成28年4月)|厚生労働省(PDF)
従業員の心身の健康を守り、生産性を向上させるためにも睡眠改善に取り組んでいきましょう。
心身への影響が大きい「睡眠負債」
睡眠不足が数日続くと、脳や身体に疲れが蓄積し、さまざまな悪影響が表れます。こうした状況は、「睡眠負債」を抱えている状態です。1日夜更かししてしまったなどの単発的な睡眠不足だけではなく、継続的な睡眠不足により、注意力が低下しやすくなることがわかっています。加えて、睡眠負債は命にかかわるような病気のリスクを高める危険性がある点にも注意が必要です。
また、日頃から十分な睡眠時間を確保できているのに、日中の眠気で困ることがあるなど、時間的にはしっかり眠れていると思っている人でも、睡眠の質が低下しているかもしれません。朝目覚めた時にすっきりと起きることが出来ない、身体が休まっている感じがしないといった場合にも疲労感や眠気、記憶力の低下といった日中の症状を伴うことがあります。
「寝だめ」で睡眠負債はカバーできる?
勤務日の睡眠不足や疲れを解消するために、休日にたっぷり寝ているという人もいるかもしれません。しかし、このような「寝だめ」では、日頃の睡眠負債はカバーできません。休日にたくさん寝たからといって、普段の睡眠不足の解消には繋がらないのです。逆に、寝だめにより睡眠リズムが乱れ、休日明けの勤務日に体調が悪化することもあります。活力ある毎日を過ごすためには、一定の睡眠時間を確保するだけでなく、睡眠リズムを整えて、それをキープすることが重要です。
睡眠リズムを整えるには?
「睡眠時間が短い」だけでなく、「体内リズムの乱れ」も、睡眠問題を引き起こす原因の一つです。体内リズムとは、体内における時間的周期性のことで、昼は活動的に、夜は体を休めるモードになるという働きが備わっています。体内リズムは体温や血圧だけでなく、免疫やホルモン分泌にも影響を及ぼしています。体内リズムが乱れると、身体に様々な影響が出てしまい、夜に眠れない、朝起きるのがつらいといった問題が発生してしまう場合があります。
体内リズムを整えるためには、毎日規則正しい生活をすることが大切です。また、体内リズムは光の影響が大きいため、朝は太陽の光を浴びる、夜は照明を弱くする、寝る前にスマートフォンを見ないといった対策を心がけると良いでしょう。
気になる睡眠リズムのチェックには、「3DSS(3次元型睡眠尺度)チェックシート」を活用してみましょう。いくつかの質問に答えるだけで、睡眠の「量」「質」「位相(リズム)」をチェックできます。社内で共有し、セルフチェックを促してみてはいかがでしょうか。
リンク:3DSSチェックシートによる睡眠型診断 | 睡眠リズムラボ | 大塚製薬
休日明けのソーシャル・ジェットラグに注意!
休日前に夜更かしをしたり、勤務日のたまった疲れをとるために休日に「寝だめ」をしたりすると、次の勤務日に身体がだるくなることがあります。このように勤務日と休日の就寝時刻・起床時刻にズレが生じることで、体内リズムが乱れ、時差ぼけのような症状が表れることをソーシャル・ジェットラグ(社会的時差ぼけ)といいます。
休日に朝寝坊をした場合、翌日から翌々日は眠気や疲労感が残るという報告もあり、一度ずれてしまったリズムをもとに戻すのは容易なことではありません。よりよいパフォーマンスを発揮するためには、休日でも寝だめをせず、普段と同じような規則正しい生活を意識して、睡眠リズムをキープすることが重要です。
特に、就寝時刻と起床時刻のズレが大きいほど、ソーシャル・ジェットラグを招きやすくなります。次のような点を意識し、休日明けもすっきり過ごせるように心がけましょう。
▷休日はいつもより「遅く起きる」のではなく、前日にできるだけ「早く寝る」ようにする。
▷勤務日の睡眠時間を今より少し多くして、休日も同じ時間に寝る/起きるようにする。
▷早く寝るのが難しい場合でも起床時刻はキープし、毎日同じ時間に太陽の光を浴びるようにする。
睡眠の改善は、一人ひとりが自分の生活と向き合う必要があります。健康経営に取り組むうえでも、今回紹介した内容を、従業員にも周知してみましょう。
まとめ
▷日本は世界各国に比べて睡眠時間が短く、女性と働く世代は特にその傾向が強い。
▷慢性的な睡眠不足が続くと、健康問題を引き起こすリスクが高まるだけでなく、生産性が低下し、経済的な損失が出ることも。
▷しっかり眠れていると思っていても、気づかないうちに睡眠負債がたまっていることもある。
▷夜更かしや「寝だめ」をすると、かえって眠気や疲労感を引きずってしまうことも。
▷睡眠は「十分な時間を確保する」ことも大切だが、「睡眠リズムをキープする」ことも大切。睡眠リズムを整えるために、勤務日も休日も規則正しい生活を心がけましょう。
参考サイト:
▷睡眠と生活習慣病との深い関係 | e-ヘルスネット(厚生労働省)
▷良い目覚めは良い眠りから 知っているようで知らない睡眠のこと|厚生労働省(PDF)
▷ソーシャル・ジェットラグ(社会的時差ぼけ)とは?寝だめによる体内リズムの乱れ | 睡眠リズムラボ | 大塚製薬