生産性向上とチームビルディングに役立つ。 マインドフルネスのすごい力
ストレスフルな今の時代、従業員の心をケアする「マインドフルネス」が、GAFA(※)をはじめとした世界中の企業で取り入れられています。従業員のメンタルを整えることで集中力がアップし、アンガーマネジメントなどにも効果があり、さらにはチームビルディングにまで役立つと言われます。そのメカニズムをマインドフルネスサロン「MELON」を運営する橋本大佑さんに聞きました。
※GAFA(世界を牽引する米国の巨大IT企業Google、Amazon、Facebook、Appleの4社のことを指す)
ハードワークの中で見出したマインドフルネスの必要性
―マインドフルネスサロンを開く前は、金融業界で働いていたそうですね。
はい。投資銀行とヘッジファンドで15年ほど働いていました。実はこのときの経験が、マインドフルネス事業を起業するきっかけになりました。
―何があったのでしょうか?
当時の仕事は極めてハードワークでした。そんな中、ある日突然、PCの画面を見つめても、何も頭に入ってこない、やる気が起きない状態になってしまったのです。
心療内科に行くと、「軽度のうつ病」と診断されました。病院で治療してもらいましたが「病院に行く前に日常の中で何か対策できることはないか?」と考えるようになりました。そして、周りを見渡すと、私と同じように心を病んでいるビジネスパーソンが、たくさんいることに気付いたのです。
出典:平成30年度版厚生労働白書-障害や病気などと向き合い、全ての人が活躍できる社会に-
実際、厚生労働省のデータからもわかるように、気分障害患者、いわゆるうつ病の患者数は増え続けています。例えば、1996年には43.3万人だったのが、2017年には127.6万人と3倍弱と右肩上がりです。
―そこで、マインドフルネスを広める今の事業をはじめようと考えたのですね。
そうです。多くの文献を読み、ヨガなども試してみる中で、マインドフルネスに出会いました。講習を受けて、マインドフルネスに沿った瞑想を続けると、これまで抱えていた心の不安や、仕事のプレッシャーがフッと軽くなったんです。
そこで、心と脳を整えるマインドフルネスは、ストレスがまん延する日本では、今後必要になるはずだと「MELON」を立ち上げました。
―具体的に、マインドフルネスとはなんでしょうか?
マインドフルネスは、瞑想を通して、いま、この瞬間、自分の心の状態に気付く「マインドフル」な状態を意識的に作り出すトレーニングです。
瞑想というと仏教の修行法と思われる人もいますが、これを宗教と関係なく、誰にでも取り組みやすくしたのが、マサチューセッツ大学医学部医学部のジョン・カバット・ジン博士です。1979年に「マインドフルネス」という考えを提唱しました。当初は医療の臨床現場で、ストレス症状を和らげるための治療として取り入れられていました。
人は、不安や焦りを感じるのは、頭で考えていることに起因します。
「今日のプレゼンはうまくいくだろうか」「あの仕事の進捗は大丈夫だろうか」「いまスマホの着信があったが、嫌な連絡ではないだろうか」など、頭の中で意識的にも無意識的にも、人は何かを常に考えていて、いつも何かに追われたような焦燥感を感じています。
それを、目を閉じて自分と向き合う瞑想を通して、「あっ、今自分は仕事の進捗が気になっている」ことを感じ、とどめておく。つまり、自分の状態に「気付くこと」が、気持ちを整えることにつながるのです。
―“考えること”は、マインドフルネスにおいてよくないことなのでしょうか?
考えること自体は、課題を解決するためには、重要なプロセスですし、脳内のエネルギーの約8割は、考えることに費やされていると言われています。
ただ、現代人は、人間関係や日々の忙しさの中で、仕事やプライベートなど色々考えて、
ネガティブな感情と紐付けてしまう場合がある。そのため、過度に脳を疲れさせてしまい、ストレスにつながるのです。
例えば、雨が降っていると、「雨か、嫌だな」と多くの人は思うのではないでしょうか。「雨=嫌だ」と、ネガティブな気持ちと結びつけると、それが小さなストレスになる。そもそも雨自体、「良い」も「悪い」も意味を持ちません。ただ、「雨が降っている」ことを客観的に感じる習慣を身に付ける。マインドフルネスは、そういった過度な思考によって、疲れてしまう脳を休ませてあげるのです。
―脳を休ませるというのは、プレッシャーを感じる働く人たちにこそ必要なことに感じます。
そうですね。実際、実証実験結果も2020年3月に発表されています。ハイデルベルグ大学のRuben Vonderlinらによる研究によると、職場におけるマインドフルネスが、ストレスや燃え尽き症候群、精神的苦痛などを効果的に軽減することが証明されています。
また「今への集中力、幸福、思いやり、および仕事の満足感を改善する」こともこの実証実験から確認されています。マインドフルネスは、単なる概念ではないということなのです。
中小企業が、健康経営にマインドフルネスを取り入れる効果とは
―実際にマインドフルネスを取り入れる企業はあるのでしょうか。
はい。「MELON」では、法人向けのマインドフルネスプログラムがあるのですが、特にコロナ禍で、働く人の心のケアの必要性を感じた経営者が、企業として申し込むことが増えていていますね。
―企業経営にマインドフルネスは親和性があるということですか?
はい。実は、日本人の40人に1人にあたる323万人が心の不調を抱えるなど、生涯を通じれば、5人に1人が心の病気にかかると言われています。そんなデータからも、メンタルヘルスに不調をきたしている従業員、あるいはその予備軍ともいえる従業員が、企業には多くいると考えられます。ある意味、心の病気は他人事ではないのです。
心身ともに健康に働ける従業員がいることは、企業にとっては重要なことです。
―企業が、健康経営で従業員のメンタルヘルスに取り組む必要性とはどんなところにありますか?
例えば、従業員が心の病気で通院、仕事を休むとなった場合、経営側にしてみると、人員補充や採用コストに直結します。
また、メンタルヘルスの不調の予備軍は、症状の傾向として、仕事中の判断力や集中力の低下、ケアレスミスの増加がみられます。これは、体調不良を抱えながら就業することで、本来のパフォーマンスが発揮できず、生産性が低下する「プレゼンティーズム」につながるのです。
健康経営の認定基準にも「メンタルヘルス不調者への対応に関する取り組み」という項目があるため、従業員の心の不調が起こる前に対処する、もしくは、予防するといった意識を、企業が持つようになってきています。
―マインドフルネスを取り入れることで、従業員のパフォーマンスを上げ、経営の成果につながるのでしょうか?
そうですね。実際、米国にある企業・エトナ社では、マインドフルネスを研修に取り入れたことで、従業員のストレスが約30%減少したという事例があります(※1)。また、同じく、米国の研究チームによると、生産性が「62分/週、年間3000ドル相当向上」し、「集中力が20%アップし、マルチタスク能力が向上」といった効果も確認されています(※2)。
考えすぎて感情にとらわれないスキルを身に付けられれば、心が整います。余計なストレスから開放されると、従業員が元々持っている能力やポテンシャルが、仕事においてフルに発揮できる。また、個人の生産性が向上するだけではなく、マインドフルネスを取り入れることで、チーム全体の仕事の質はもちろん、雰囲気も良い方向に変わるなどの効果もあるのです。
※1 Gelles, David. “At Aetna, a C.E.O.’s Management by Mantra.” The New York Times (2015)
※2 Levy, David M. et al. ”The Effects of Mindfulness Meditation Training on Multitasking in a High-Stress Information Environment”
―チームにも良い影響があるというのは、どういうことでしょうか?
マインドフルネスのトレーニングを続けると、自分の心、感情を客観的に理解できるようになります。今の自分の感情がどのような状態なのか、自ら気付けると同僚や取引先など仕事に関わる人の気持ちの変化にも気付きやすくなり、相手に寄り添うことができます。
すると、人と接する時、不快なこと、理解できないことが起きても、感情を適切にコントロールでき、良い人間関係が築けます。
―結果として、よいチームビルディングや顧客との良好な関係性が構築できるのですね。
はい。だからこそ、GAFAをはじめ西海岸のIT系企業を中心に、福利厚生として取り入れられ始めています。特に、シリコンバレーの企業は、国籍、年齢、文化などが多種多様な人が集まっています。自己肯定感を高め、相手を受け入れる気持ちが育めると、多彩な個性を活かした経営ができます。
これは大企業に限ったことではなく、健康経営を実践する中小企業においても、同様だと感じます。自己肯定感を高め、受け入れる心を、マインドフルネスを通して養うことは、企業の雰囲気、チームの関係性を向上させるはずです。
歯磨き習慣のようにマインドフルネスも日常習慣に
―これから企業がマインドフルネスを取り入れるとしたら、どのようにすれば良いでしょうか?
まずは従業員の方々に、今回紹介するマインドフルネスの動画を見ながら、体験してもらったり、我々のようなオンラインサロンなどを活用していただけたら良いと思います。
瞑想でマインドフルネスを実践する……というと、なにかとても難しいことのように聞こえるかもしれませんが、正しいやり方を身に付けて、習慣化することで、どこにいても実践できるのがマインドフルネスのいいところですから。
その意味でも、私はよく「マインドフルネスは歯磨きのようなものだ」と説明しています。
―「歯磨き」とは、どういうことでしょうか?
例えば、食後に歯磨きをされますよね?
歯磨きは、小さな子どもから大人まで実践している歯を健康に保つための習慣です。歯磨きを怠れば、健康だった歯は虫歯になり、歯科医で治療を受けなくてはならなくなる。
正しい歯磨きの仕方を身に付け、毎日行えば、虫歯になる確率は下がります。
マインドフルネスも同じことです。自分でも行えるマインドフルネスは、正しいやり方を身に付けることで、メンタルが不調になるまで放っておくことを予防し、心を健やかに保つことができる。自分の心をコントロールできると、会社や家庭にも良い影響が生まれていきます。
―今回動画を見ながらマインドフルネスを実践する際のアドバイスを教えてください。
心の健康は、体の健康以上に外からは見えにくく、自分でも気づかないことが多いです。心にプレッシャーを感じているのは、従業員よりも、経営者の方ほど多く、私のサロンにもよくいらっしゃいます。
だからこそ、日頃から歯磨きのように、当たり前に心の健康に気を配ることが大切です。まずは、そんな意識を持って、経営者が率先して、動画を見ながら実践していただきたき、良かったら従業員の皆さんにも広めてもらいたいですね。
週2~3回、2カ月ほど継続するとあきらかに変わる自分に気付きます。過度のストレスから解き放たれて、集中力が前より上がる、人の気持ちを慮れるようになる。そして自分が変われば、周りが変わり、組織そのものが変わっていくはずです。
マインドフルネスを試してみるならまずはこちらをチェック
動画はこちらからご利用ください。
【プロフィール】
株式会社Melon
代表取締役CEO
橋本大佑(はしもと・だいすけ)
早稲田大学卒業後、シティグループ証券投資銀行本部を経て、米系資産運用会社、オークツリー・キャピタル・マネジメントで日本株運用に携わる。15年間の外資金融でのキャリアの中で、マインドフルネス瞑想を継続し効果を実感。2019年に株式会社Melonを設立し、日本初のオンライン・マインドフルネスのプラットフォーム「MELONオンライン」をスタート。法人向けのマインドフルネス研修やイベント登壇、個人向けの講演など各方面でマインドフルネスを広める活動を継続中。一般社団法人マインドフルネス瞑想協会理事。
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