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【連載第5回】週1回の会議で残業が激減⁉ 「話す」ことで助け合いのしくみを作る

健康経営を進めるうえで欠かせない取り組みのひとつが「職場のメンタルヘルス対策」です。ストレス要因が多い現代、メンタルヘルスケアは私たちの必須スキルと言っても過言ではありません。
また、組織においては、不調の早期発見・早期治療だけでなく、従業員がストレスを抱え込まず健康にイキイキと働ける環境を整える対策が非常に大切です。とはいえ、いったい何から始めればいいのかお悩みの方も少なくないでしょう。

この連載では、公認心理師として多くの企業でメンタルヘルス対策のサポートをしている株式会社ハピネスワーキングの船見先生に、メンタルヘルス向上の具体策をご紹介していただきます。
働き方改革を進める中で、企業はそれぞれに残業削減の工夫をしています。健康経営でも「適切な働き方実現に向けた取り組み」は重要なテーマです。今回は、意外な作戦で残業を激減したケースをご紹介します。






残業削減のカギは、会議での情報共有

健康経営に注目が集まるようになった背景にはいくつかの理由がありますが、そのひとつが働き方改革。日本は長年、長時間労働という問題を抱え、体だけでなくココロの健康を崩す人が後を絶たない状況が続いていました。働き方改革の大きな柱は、長時間労働の是正でした。

労働基準法の改正によって、残業時間の上限は月45時間、年360時間と定められました。これにより、働く人は健康になる……はずでした。しかし、思ったようにはなかなかいかないようで、こっそり残業している人がいたり、部下に残業させられない管理職が部下の分まで仕事をし、とても疲れているという実態も見聞きしています。
人手不足の職場が多い中、限られた人員・限られた時間で仕事を回していくにはどうしたらいいのか。そのカギになるのが、互いにサポートしあう体制づくりです。

ある職場はかなり多忙で、メンバーの多数が月に80時間超の残業をしていました。そこに異動になった課長は、職場に足を踏み入れて愕然としました。メンバーたちは疲労感に満ちた表情で黙々と仕事をしています。たくさん人がいるにもかかわらず話をする人はほとんどおらず、職場はシーンと静まり返っています。殺伐とした雰囲気が漂っていました。
しばらく状況を観察したところ、仕事が属人化し、一匹狼のような働き方をしている人が多いことがわかりました。チームなのにチームとして機能していなかったのです。
なんとかしなければと考えた課長はあることを始めました。それは、毎週の会議で情報共有をするということでした。会議で、メンバーそれぞれに、自身の状況について発表をしてもらうことにしたのです。

「自分は今、この仕事をしていて、ここまで進んでいます」
「こんなことで困っています」
「手を貸してほしいです」
「一緒に考えてほしいことがあります」
どんな些細なことでもいいので、自分の状況を自分の口から発表してもらうよう、課長は促し続けました。はじめは驚き抵抗したメンバーもいたそうですが、それでも課長はその時間を取り続けました。

すると、変化が起こりました。メンバーが互いに声をかけあい、手助けをしあうようになっていったのです。気づけば、職場には話し声が響き、和やかなムードになっていました。そして少しずつ、メンバーの残業が減っていき、1年後にはなんと年間2000万円もの残業代が削減できたといいます。
したことは、情報共有のみ。難しいことはしていません。

仕事が属人化していて、手助けができないという話はよく耳にします。それだけでなく、コミュニケーション不足ゆえ誰にも相談できず悩みを抱え込んで残業している人は思いのほかたくさんいます。テレワークが拡大し、その数はさらに増えていると思われます。
組織のいちばんのメリットは、助け合いができるということです。日本人は本来、助け合いが得意なはずですが、効率化の波に飲み込まれいつの間にかその文化が失われつつあります。結果的にひとりで黙々と仕事をし、ついつい長時間労働になってしまう、という現実があるのではないでしょうか。

話すことが、助け合いのきっかけを作ります。
コロナ禍で対面での会話が難しくなってきていますが、メールやチャットなど現代ならではの便利なツールを駆使し、コミュニケーションを活性化させていきたいものですね。互いの仕事や状況をオープンに伝えあい、支えあって健康に働く環境づくりを進めていただきたいと思います。



【プロフィール】


船見敏子(ふなみ・としこ)

株式会社ハピネスワーキング代表取締役。
公認心理師、1級キャリアコンサルティング技能士、産業カウンセラー。
雑誌編集者を経て現職。産業分野を中心に、組織コンサルテーション、カウンセリング、研修などを実施し、職場のメンタルヘルス向上のサポートをしている。これまでに約1000社、10万人のメンタルケアに携わってきた。著書に『幸せなチームのリーダーがしていること』(方丈社)など。