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健康経営のことはじめ①  健康意識が高い社長ほど、会社も従業員も健康になる!?

今回から1年に渡って、健康経営のプロフェッショナルである岡田邦夫さんを迎え、健康経営について語っていただく連載「健康経営のことはじめ」。今更聞けないような初歩的な内容も含めて、ここでは健康経営のいろはを丁寧にお話いただきます。第1回は、「健康経営」の考え方と最初に取り組むべきことについて。これから健康経営をはじめようとしているトリクミハジメ&コトノワカバの二人と一緒に、健康経営への一歩を踏み出しましょう。






企業が長生きするのは、従業員が健やかであってこそ

トリクミハジメ(以下、ハジメ):これから約1年間をかけて「健康経営」のファーストステージを読者のみなさんと一緒に学びながら、実践していきたいと思います!岡田さん、ご指導のほど、よろしくお願いします!

岡田さん(以下、岡田):はい、堅苦しく考えず、できるところから少しずつやっていけば、1年後にはかなりの進歩になると思いますよ。企業の成長のためにも、まずは一歩踏み出していきましょう!

ハジメ:早速お聞きしたいのですが、そもそも企業が「健康経営」に取り組む意味は、どんなところにあるのでしょうか?

岡田:まずは「健康経営」という考え方のはじまりからお話ししましょうか。
日本では平成7年に、これから極めて深刻な少子高齢化時代がやってくるということを踏まえて、「高齢社会対策基本法」というものが施行されたんですね。その前文の中で、「国及び地方公共団体はもとより、企業、地域社会、家庭及び個人が相互に協力しながらそれぞれの役割を積極的に果たしていくことが必要である。しかし国民は十分に準備をしていないし、残された時間はとても少ない。」というような内容が書かれているんです。

コトノワカバ(以下、ワカバ):少子高齢化になると働き手が少なくなる=生産性が下がってしまう、ということですよね。

岡田:当時は定年が55歳でしたが、「高齢者雇用安定法」の改正によって、これからは65歳、70歳の人も当たり前に働くようになってきます。そうなると、高齢者になっても健やかに働けるかどうか、という課題が見えてきたわけです。

ハジメ:確かに、定年が伸びて会社に残ることができても、健やかでなければ企業としては、仕事を任せられませんよね。

岡田:病気を患ったり会社を休むようになったりしてしまえば、企業としては利益損失にも繋がります。60代70代になっても、今までの経験や知識を生かして元気に働いていただきたい、企業に力を貸して欲しい。そのように願うならば、従業員が高齢になってからではなく、もっと若い段階から健やかに長く働いていただくための準備をするべきだと思いませんか?

ワカバ:健康は日頃の積み重ねですから、企業としても社員が病気にならないような取り組みが重要だということですよね。

岡田:日本はアメリカと違って、法律上、故なく社員を解雇することができませんよね。そして、病気をもっていて働くことで悪化することが誰しも予測できる人を働かせたら、経営者は罰せられてしまいます。ですから、経営という視点から見ても、雇用した従業員には、長く健やかに働いてもらわなくてはなりません。企業が積極的に従業員の健康をつくろうとしなければ、企業の存続性(サスティナビリティ)が危ぶまれることにもなる。だから、若いうちから健康づくりを進めることが大切なんです。

ハジメ:想像していたよりも、深刻な問題だなと感じました。企業の利益ばかりに目が行って従業員の健康を軽視していると、最終的には企業が存続できなくなる、というのは恐ろしいですね。

岡田:企業が健やかであり続けるための「健康経営」という考え方です。



経営者の健康意識が、従業員の意識を自然と高める

ワカバ:「健康経営」の大切さは、とてもよくわかりました。でも、何からはじめたらいいかがわからないのですが……。

岡田:まず、はじめに意識していただきたいのは、経営者ご本人の健康なんです。

ワカバ:経営者ご本人、ですか!従業員ではなくて?

岡田:経営者ご本人の健康です。中央労働災害防止協会が行なった研究の一環で、経営者に以下の質問を投げかけてみたんです。みなさんも、ぜひ一緒にチェックしてみてください。

  □健康診断を受けていますか?
  □自分の健康の気配りをしていますか?
  □食事に気を使っていますか?
  □たばこは吸いますか?
  □適度な運動を心がけていますか?

  
ハジメ:回答しやすい簡単な質問ですね!

岡田:この質問の結果と従業員の健康診断の結果をすり合わせて見たところ、「経営者の健康意識が高いと、従業員の健康意識も高い」ということがわかったんです。

ハジメ:そんなデータが!

岡田:だから、経営者のみなさんには、「ご自身は健康ですか?」「健康を意識していますか?」というところからスタートしていただけたらと思います。自分の健康診断結果のトレンドを見ていく、自分で知るということからはじめるんです。決して難しいことじゃないでしょう?

ワカバ:まず自身が健康診断に行き、診断結果をよく見ることからはじめればいいんですね。

岡田:経営者が病気で倒れてしまったら、企業は混乱してしまいますしね。自らの健康管理ができて、従業員の健康づくりへの啓発事業も行える。それでこそ、能力のある経営者ということになると思います。

ハジメ:経営者が健康に対するリテラシーを持っているか、企業として「健康経営」に取り組んでいるか否かという点は、企業としての理念にも繋がり、更には、従業員の採用にも影響があるのではないでしょうか。

岡田:そうですよ、健康経営に取り組んだ企業ほど、いい人材が集まってきます。これから、ますますそういう動きになってくると思いますね。いい人材が集まれば、自然と生産性は上がりますよね。健康経営から、いい循環が回っていく、ということなんです。
ところで、経営者と従業員、または上司と部下とが会話をするときに、共通の話題として相応しいものはなんだと思いますか?

ワカバ:やはり仕事ですかね?あとは趣味とか?

岡田:仕事だと経験値も違いますから、コミュニケーションの中に「教える/教えられる」という関係が生まれてしまいますよね。同等ではない、という意味では、共通の話題とは言えません。また、趣味だと話があうというケースは稀にあるかもしれませんが、なかなか難しいですね。同じ条件の中で話せる話題は「健康」なんです。

ハジメ:健康をテーマにコミュニケーションというと……?

岡田:例えば、上司が部下に対して、「元気?」とか「今日はちょっと顔色が悪いけど大丈夫?」とか、「健康」に関する簡単な問いを投げかけてみる。そうすると、「はい、元気です!」とか「昨夜はあまり眠れなくて」とか、おそらく何かしらの回答が返ってくる。この程度のコミュニケーションでいいんですよ。このように従業員の健康への配慮をしながら、仕事ができるようにサポートしていくという企業風土ができてくると、自然となんでも相談しやすい環境、リラックスして仕事ができる環境ができてきます。現代は、上司に相談ができなくて、メンタルヘルスを損なってしまう人も少なくありませんからね。「健康」という共通テーマを媒介にして社内コミュニケーションをより円滑にすれば、企業の基盤はより強固なものになっていくはずです。

ワカバ:経営者や上司が、従業員一人ひとりの健康を考えてくれているという環境は、安心して働ける感じがしますよね。またこのような環境であれば、余計な不安や不満が解消される分、仕事への集中力も高まるでしょうし、パフォーマンスも上がりそうです。

岡田:お、わかってきましたね!そういうことです。




まずは健康診断に注目して、今の状況を理解しよう

ハジメ:経営者が自らの健康について関心を持つということの他に、従業員へのアプローチとしてはじめられることはありますか?

岡田:最初に注目すべきは「健康診断」だと思います。健康診断は、従業員に受診させなければ経営者に罰金が科せられているのですよ 。だから、事業主としては、必ず従業員に受けさせなくてはなりません。ですから、まずは、直近の健康診断をどのくらいの割合の従業員が受けているのかを調べてみてください。

ハジメ:それなら調べればすぐにわかりそうですね。

岡田:中小企業であれば、誰が受けていないのかまでわかると思います。そして受けていない人に、なぜ受けられなかったのかをフランクに聞いてみるといいですね。「なんで受けていないの?」と。お説教モードではなく、あくまで受けなかった理由を知りたい、という風にね。

ワカバ:なるほど。威圧感を感じさせないように、ですね。

岡田:受けなかった理由が業務であれば、上司と相談をして業務をどうにかするべきだし、業務と関係ないのであれば、次回は必ず受けてもらうようによく話をすることが大切ですよね。経営者が現状を知るところからはじめて、来年の健康診断の受診率を100%にすること。まずは、全員が受診することを一つの目標にしてもいいと思います。

ワカバ:現状を知ってこそ、問題が見えてくるということですね。

岡田:健康診断を毎年受けていれば、身体に不調が起こったとしても、どこかで歯止めはかかるわけですから、毎年必ず受けてもらうというのはとても大事なことなんです。実際、健康診断だって一人辺り何万というお金がかかっていますよね。それは企業としては投資になるわけですから、無駄にするわけにはいきません。意味のある投資にしなくては。そう思いませんか?

ハジメ:健康診断を、社員の健康を見守るという将来に向けた投資と考えれば、健康経営への第一歩ととらえることができますね。。

岡田:中小企業だと、「協会けんぽ」に入っていると思います。「協会けんぽ」に依頼すれば企業全体の健康状況結果も出してもらえるはずですし、専門家が保健指導に来てくれたりもします。

ワカバ:データ作成や保健指導という部分で、協会けんぽさんの力を借りることができるんですね。サポートいただけるところがあれば、中小企業も心強いですね。

岡田:東京都なら商工会議所を通じて「健康経営アドバイザー」に相談できますし、大阪府なら「健康経営ナビゲーター」という制度があるので、その方にアドバイスをもらうこともできます。このように都道府県によって、健康経営についてサポートしてくれる機関はありますので、うまく使うといいと思いますよ。

ハジメ:ちなみに、健康経営をはじめられている企業のみなさんは、社内で委員会のような組織を設けて取り組んでいるのでしょうか?

岡田:50人以上の企業では、「衛生委員会」を作って、従業員の心身の健康を議論する会を月に一回開いているはずです。だから、健康経営に関しても、「衛生委員会」という場をうまく使うといいですね。すぐは難しいかもしれませんが、将来的には従業員の状況や求められていることなどを「衛生委員会」で意見として吸い上げ、その意見を元に健康経営の施策を考えて、トップダウンで実行していくというやり方ができるといいと思います。そうすると、企業の身の丈に合った施策ができますから。

ハジメ:「健康経営」はマニュアル通りにやるというのではなく、それぞれの企業や従業員と向き合うことが大切ということですね。まずは経営者が自分の健康について、そして従業員の健康について、きちんと知るところから、ですね!




〈プロフィール〉            


岡田邦夫
NPO法人健康経営研究会理事長
大阪府医師会健康スポーツ医学委員会委員長
平成26年度厚生労働省「ストレスチェック制度に関わる情報管理及び不利益取り扱いに関する検討会」委員をはじめとして各方面で幅広く委員を歴任。
主な著書に『健康経営のすすめ』(社会保険研究所)、『これからの人と企業を創る健康経営』(社会保険研究所)、『健康経営推進ガイドブック』(経団連出版)、『ストレスチェック導入・運用サクセスガイド』(メディカ出版)、『なぜ「健康経営」で会社が変わるのか』(共著)など多数