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【連載第7回】ストレスチェックを活用してセルフケアの促進をdocx

健康経営を進めるうえで欠かせない取り組みのひとつが「職場のメンタルヘルス対策」です。ストレス要因が多い現代、メンタルヘルスケアは私たちの必須スキルと言っても過言ではありません。
また、組織においては、不調の早期発見・早期治療だけでなく、従業員がストレスを抱え込まず健康にイキイキと働ける環境を整える対策が非常に大切です。とはいえ、いったい何から始めればいいのかお悩みの方も少なくないでしょう。

この連載では、公認心理師として多くの企業でメンタルヘルス対策のサポートをしている株式会社ハピネスワーキングの船見先生に、メンタルヘルス向上の具体策をご紹介していただきます。
2015年12月にスタートしたストレスチェック制度。従業員50名以下の企業でも実施するところが増えています。しかしながら、実施したあとの活用方法がわからない、活用できているかどうかわからないという方も少なくないようです。そこで今回は、従業員のセルフケアを促進するためのストレスチェック活用術をお伝えします。






年に1度、健康やストレスについて話せる場をつくる

 
ストレスチェックは、メンタルヘルスの一次予防という位置づけで実施するものです。一次予防とは、未然防止のこと。労働者が健康を維持しながら働けるよう、さまざまな施策を進めることを指します。

そのために大事なことがふたつあります。ひとつは、従業員が自分のストレスに気づき、積極的にセルフケアを行ってより健康を保つこと。もうひとつは、職場のストレス要因を減らし、働きやすい職場を作っていくことです。個人のケアと組織環境改善。そのふたつが揃ってこそ、健康経営が動き出します。

個人と組織、両方に働きかけることができるのが、ストレスチェックです。
組織全体の状態を示す「集団分析」については、既に活用している企業は多いと思います。結果を読み込んで従業員のストレス要因がどこにあるのかを分析し、改善策を考えて実践することで、健康な組織環境が育まれます。

一方で、個人結果の活用法については、難しいと感じている経営者や人事担当者も多いようです。企業で話を伺うと、高ストレス者に医師面接を勧奨しても、実際に面接を受ける人は10%程度だと言います。従業員にしても、結果を受け取って「まあ、こんなものか」程度の感想を抱くだけで終わってしまいがちです。

そこでおすすめしたいのが、ストレスチェック後全員面談です。
健康診断のあとに、保健師が結果を踏まえて指導をしてくれますね。それと同様に、ストレスチェックの結果を見ながら、健康向上のための個人面談を行うのです。

チェックには表れない悩みを話す人も

ストレスチェックの個人結果を見られるのは、本人と実施者のみです。実施者とは、ストレスチェックを企画し、実施し、結果の評価を行う者のこと。医師、保健師のほか、研修を受講した看護師、精神保健福祉士、公認心理師から選定されます。メンタルヘルス専門会社など外部機関に委託することも可能です。

面談は、実施者が従業員と1対1で行います。ストレスチェック結果を見ながら、課題のある項目についてお話をし、健康向上のためのアドバイスをします。私も10年以上前から、ストレスチェック結果に基づいた個人面談をしてきましたが、とても有用だと感じています。というのも、結果について話をすることで、従業員ご本人のセルフケア意識が高まるからです。

ただ結果を受け取るだけではさっと見るだけで終わってしまいますが、ポイントを絞り込んでそこに対する改善策を話し合うことで、ご本人が何をしたらいいのかがわかるためセルフケアの実践につながりやすくなるのです。

また、チェックをつける際に疲労がたまっていたり多忙だったりすると、結果が低く出ることもあります。また、チェック結果には反映されない悩みを抱えていることもあります。さらに、本当はストレスを感じているのに、結果が悪く出ることを恐れてポジティブな回答をする人も、ごく少数ですが存在します。
多くの場合、チェック結果はその人のその時の状況を反映していますが、そうではなく、よりきめ細やかな対応が求められる場面もあるのです。これは、面談をしなければわからないことです。
そのような実情を踏まえた上で面談をすることで、ストレスを抱えた人の早期発見につながることもあります。

最近は、上司と部下の1on1面談を実施する企業も増えてきました。しかし、上司には言えない悩みを抱えている等、上司そのものがストレスになっている場合もあるため、第三者であるストレスチェック実施者であれば、安心して悩みを話せるかもしれません。

従業員数が多い場合、面談実施は大変かもしれませんが、ひとりあたり15~20分程度の時間であれば負担はさほど多くはないかと思います。
ストレスチェックのタイミングで年に1度、健康やストレスに関する話ができる場を設けてはいかがでしょうか。




【プロフィール】



船見敏子(ふなみ・としこ)
株式会社ハピネスワーキング代表取締役。
公認心理師、1級キャリアコンサルティング技能士、産業カウンセラー。
雑誌編集者を経て現職。産業分野を中心に、組織コンサルテーション、カウンセリング、研修などを実施し、職場のメンタルヘルス向上のサポートをしている。これまでに約1000社、10万人のメンタルケアに携わってきた。著書に『言い返せない人の聴き方・伝え方』(日本能率協会マネジメントセンター)、『幸せなチームのリーダーがしていること』(方丈社)など。