見出し画像

なぜ日本青年会議所 近畿地区滋賀ブロック協議会は健康経営に踏み出せたのか?成功を収めた「健康経営推進セミナー」の舞台裏

全国にある青年会議所の中で、いち早く「健康経営®」を事業テーマに設定し、2021年4月には健康経営推進セミナーを開催。健康経営推進企業を大幅に増やしたのが近畿地区滋賀ブロック協議会です。滋賀ブロック協議会はどのようにして健康経営へとスムーズに踏み出せたのか? 3人のキーパーソンにその裏側を伺いました。

※「健康経営®」は特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標です。




【3人のキーパーソンを紹介】



中島吉浩(なかじま・よしひろ)
2021年度JCI日本 近畿地区滋賀ブロック協議会 会長(公益社団法人草津青年会議所に所属)。1982年生まれ。東京で働いた後、実家・滋賀県草津市の不動産管理会社に入社。2021年度は「健康経営」をテーマに滋賀ブロック事業を推進。今回のセミナーの発起人。



江竜拓児(えりゅう・たくじ)
2021年度JCI日本 近畿地区滋賀ブロック協議会 JC運動推進委員会 委員長(一般社団法人長浜青年会議所に所属)。1989年生まれ。米原市で110年以上続く老舗醤油店「醤油屋喜代治商店」の5代目。現在は「金沢でかねた寿司長浜店」の代表兼店長。今回のセミナーでは企画、実施、報告までを担当。



押谷優助(おしたに・ゆうすけ)
一般社団法人長浜青年会議所 2021年度副理事長。1988年生まれ。明治28年創業のもぐさなど鍼灸の材料を扱う専門メーカー、株式会社山正の専務取締役。「健康経営」の取り組みを始めたモデル企業としてセミナーでリアルな声を届けた。

【はじめに】滋賀県の健康意識

滋賀県は男性の平均寿命が81.78歳と全国1位。女性の平均寿命は87.57歳と前回の12位から4位に。滋賀県は県民の健康づくりを推進するために企業やNPO法人などの団体と連携して取り組みを行う「健康しが」を掲げ、さまざまな施策を実施する“超健康優良”県です。
面積のおよそ6分の1を琵琶湖が占め、湖を中心に地域が分かれているのが特徴です。そのためエリアによって文化も異なります。滋賀ブロック協議会は、11の各地域が一丸となって推進できる事業の立案を模索していました

【健康経営推進セミナー実施の背景】健康に不満を言う人は少ない



―健康経営に取り組んだきっかけを教えてください。

中島 
2020年9月に日本青年会議所から「2021年度の事業の一つとして、一緒に健康経営に取り組みませんか?」とお誘いをいただいたことです。
当時、コロナ禍の影響で滋賀ブロック協議会のメンバーからも「生活のリズムが変り、心身への影響が心配だ」という声があがっていました。そのため従業員の健康に留意する健康経営の考えはすんなり受け入れられました。

―それまでは健康について強く意識することはなかったのでしょうか?

中島 そうですね。私も含めて、滋賀ブロック協議会のメンバーの多くが健康を気にしないタイプだったので(笑)。

江竜 しかし、多くの方がコロナ禍によってごく当たり前に健康意識が芽生えていました。そうした背景から「健康経営」という考え方は多くのメンバーにとって受け入れやすいタイミングだったと思います。実はこれまで滋賀ブロック協議会の事業テーマを決めるのは難航しがちだったのです。

―これまで事業テーマの決定が難航した理由は何だったのでしょうか?

中島 地域によって抱える課題が大きく違っていたからです。滋賀県は真ん中に琵琶湖があるため、地域ごとに文化や気質が異なります。そのため地域が抱える社会課題も千差万別です。以前、琵琶湖の水を事業テーマにすることがあったのですが、琵琶湖に面していない地域からするとやはり共感しにくいテーマになります。

江竜 ですが、「従業員を健康にしたくない」「健康は自分に関係ない」と思う経営者はまずいません。それに個人的には、健康経営が世代や立場を超えたフラットなコミュニケーションツールになるだろうと考えています。

私は本業で回転寿司の店長をしていてパート従業員と話す機会が多いのですが、上下関係の壁が生まれがちでした。しかし「体の調子はどう?」「夜、眠れている?」と健康を切り口にした会話は立場を超えて共有できる話題だと感じています。


―具体的な事業は2021年4月に開催した「健康経営推進セミナー」でしたね。

中島 はい。日本青年会議所の本部から大塚製薬を紹介してもらい、プログラムの組み立てから手伝ってもらいました。とても心強かったですね。

江竜 確かに心強かったです。プログラムを考える時に我々が気をつけたのは、上から目線ではなく、横から目線を意識した点です。健康経営は上からやれやれと強制するのではなく「健康経営を一緒にやりませんか」とフラットに伝えることが大切です。やらされているのではなく、自ら「やりたい!」と思ってもらわなくては、実行し、続けることはできません。

中島 ですから、「僕らのような極めて不健康な人間でも変われました」と伝えるセミナーにしました。

江竜 セミナーでは中島会長と大塚製薬の健康経営アドバイザーである社員さんとの対談を実施して、リアルな経営者の疑問をぶつけて答えてもらうことを意識しました。
さらに、健康経営の取り組みを始めていた、日本青年会議所の会員で株式会社山正の専務である押谷さんには健康経営を導入した経緯などを話していただくことにしました。

日本青年会議所のメンバーだけではなく一般企業の経営者も参加

―健康経営推進セミナーは、2021年4月24日に長浜商工会議所で開催。オフラインとオンラインでの実施だったそうですね。


江竜 はい。会場には30人の会員の方が、オンラインでは40人以上の経営者が参加しました。会員だけでなく、一般企業の経営者のオンラインでの参加も可能にして、実際に多くの方が健康経営や健康に興味を持っているのだと実感しました。

中島 そうですね。手応えはありましたね。セミナーの開催前に、江竜さんには滋賀ブロック協議会の会員に健康意識についてのアンケートを取ってもらったのも功を奏したと思います。アンケートの結果を見ると、「喫煙率が高いこと」や「健康経営に興味はあっても何から始めていいのか分からない」など会員の健康や健康経営に対する課題が分かりました。対談では大塚製薬の方にそれらアンケートの質問に対して直接アドバイスをいただきました。参加者にも興味を持っていただけたのだと思います。

―参加者の方からの反応にはどのようなものがありましたか?

江竜 セミナーは対談だけでなく、協会けんぽの「健康アクション宣言(※)」の資料を配布して説明を実施したところ、セミナー後にアクション宣言をした企業が複数社ありました。さらに参加された中で26名の方が大塚製薬の健康経営のWebサイト『健康社長』に会員登録し、現在登録者は45名に増えています。

(※)協会けんぽ滋賀支部が実施する施策。専用のエントリシートに記して「健康アクション宣言」事業所になると、事業所カルテの定期送付など、健康経営への取り組みに対して協会けんぽ滋賀支部から様々なサポートを受けられる。また日本健康会議による「健康経営優良法人」制度の認定を受ける条件にもなっている。

中島 日本青年会議所のメンバー内での日常会話が変わったのも印象的でしたね。「どうやって健康経営を取り入れている?」と聞かれることが増えました。タバコをやめた人も多い。私も一念発起してボルタリングジムに通い始めました。

―今後、日本青年会議所においてどのように健康経営を進めたいと考えていますか?


中島 滋賀ブロック協議会のメンバーには自社にどんどん健康経営の取り組みを広げてもらいたいですし、他県にも滋賀の試みを取り入れてもらえたら嬉しいですね。

江竜 そうですね。また今回のセミナーは、大塚製薬や協会けんぽなど他団体とコラボレーションしたのも大きな成果だと感じています。今後は、県が実施している「健康しが」の取り組みと具体的なコラボレーションができたらいいなと考えています。今回のことをきっかけに健康経営の輪をさらに大きく広げていきたいです。

【健康経営に取り組む企業の声】セミナーを経て「ブライト500」を目指す

健康経営を先駆けて実践し、セミナーをきっかけにさらに健康経営の取り組みを加速させた株式会社山正の押谷さんにもお話を伺いました。



―自社で健康経営を導入した経緯を教えてください。

押谷 以前、江竜さんと健康経営を事業テーマに考えている話をして「おもしろそうやな」と興味を持ったのが最初です。
弊社は明治28年に創業した鍼灸の材料を扱うメーカーなので、健康産業に従事している我が社にとって健康経営は親和性が高いと考えました。「健康アクション宣言」をして社内外に健康への取り組みをアピールできるメリットも感じました。

―どのように健康経営を導入しましたか?

押谷 2021年3月に大塚製薬に依頼し、社員向けの健康経営セミナーを実施しました。「健康経営とは何か」というのはもちろん、社員の健康リテラシーの向上に繋がるお話しもしていただきました。健康の維持や日々の体調管理に何が必要かなど、製薬会社ならではのエビデンスに基づいたお話はメモをとる社員が多かったですね。

―セミナーの開催後に社員の方々の意識は変わりましたか?

押谷 変わりました。社内制度も健康経営に沿って変えていきました。例えば、社員の健康に繋がる部活動には積極的に会社から部費を出すようにしました。また体調維持に役立ててもらおうと大塚製薬の「ボディメンテ」も会社で購入して社員に配っています。かなり好評で家族にも飲ませたいと持って帰る社員もいるほどです。実は、私もそのひとりなのですが(笑)。

――押谷さんも、セミナーの実施後に10kgほどダイエットに成功されたそうですね。

押谷 はい。「健康になろう」と言っている人が不健康なのはどうなのかという危機感もありまして、食事制限や運動などに励みました。健康経営の意識が高まると自然と自身の健康にも目が向くようになり、健康的な生活にシフトしていく人が増えていると感じています。なので、自分も自然とダイエットに取り組めました。

―今後はどのようなビジョンを描いていますか?

押谷 健康経営を推進する側に回りたいです。それに加えて、健康経営優良法人の上位500社が選ばれる「ブライト500」の取得を目指そうと準備を進めています。
私個人としては、父に代わって代表になるタイミングが近づいています。それに合わせて、新たな取り組みとして健康経営を進めたいです。弊社がもう一段成長する起点になると期待しています。
​​​​​

#interview