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健康経営ことはじめ③ メンタルヘルス不調を防ぐ極意は、適切なコミュニケーションにア リ!

健康経営のプロフェッショナルである岡田邦夫さんを迎え、今更聞けないような初歩的な内容も含めて、健康経営について教えていただく連載「健康経営のことはじめ」。第3回は、メンタルヘルス不調のリスクを減らすために知っておくべきコミュニケーション術について。健康経営の初心者であるトリクミハジメ&コトノワカバの二人と一緒に、今回も健康経営の学びを進めていきましょう!






良質な社内コミュニケーションは、毎日の挨拶から

岡田邦夫(以下、岡田):みなさんは、「メンタルヘルス不調」という言葉を聞いたことがありますか?

トリクミハジメ(以下、ハジメ):はい、「メンタルヘルス」や「メンタル不調」というワードは、ここ数年でよく聞きますね。

岡田: そうですよね。メンタルヘルス不調とは、言葉の通り心理的、精神的な不調を指しますが、昨今では、職場においてこのメンタルヘルスを崩してしまう人も多いと言われています。

コトノワカバ(以下、ワカバ): 病は気からと言いますから、心の不調が引き金となって、体の不調も引き起こしてしまう可能性がありますよね。

岡田:そうですね!従業員に、高いパフォーマンスを発揮して長く働いて欲しいと願うならば、メンタルヘルスもきちんとケアしていく必要があります。
若い方は、仕事がうまくいかないことや職場での人間関係が、メンタルヘルス不調の主な原因になっているケースが多いようですね。実は、ここに大きく関わっているのは、社内での「コミュニケーション」なのです。

ハジメ:社内でのコミュニケーションというと、どういうことでしょうか?

岡田:いろいろなコミュニケーションが考えられると思いますが、ここでは上司と部下のコミュニケーションに注目してみましょう。
ある企業で産業医をしていた時に、若い方が「仕事でわからない問題が出てきた時に、上司に聞くことができない」と悩んでいました。より深く話を聞いてみると、上司が父親くらいの年代で話がしづらい、と言うのですね。「ところで、お父さんとは話しをするの?」と私が質問すると、「ほとんど話さない」と言います。要は、親くらいの年代の人とどうやってコミュニケーションを取ったらいいのかが、わからなかったわけです。これは、その方だけではなく、多く見られる傾向だと思います。
一方で、その上司の方に「若い人と挨拶を交わしたりしていますか?」と訊ねてみると、「挨拶は若い人からするものだろう」と言います。これでは、良好なコミュニケーションは生まれませんよね。

ワカバ: 確かに、挨拶ってコミュニケーションの第一歩ですもんね。挨拶すらできない雰囲気では、相談は到底無理ですね。

岡田:私が上司の方にお話させていただいたのは、「これからの時代は、上司から若い人に「おはよう!」と挨拶をして、顔色を見たり反応で部下の体調や心のコンディションをチェックしたりするんですよ」という重要なポイントでした。体の不調は、心の不調のシグナルでもありますから、どんな些細な変化も見逃さないようにしなくてはなりません。

ハジメ:アンテナを張り巡らして、表情や声からも部下のコンディションをチェックしておくことが大事なんです。

岡田:はい、でも普段の元気さがわからなければ、「〇〇くん、今日は元気がないね」とは言えないですよね。だから、普段からヘルスコミュニケーション、つまり健康を軸にしたコミュニケーションを取っておく必要があります。

ワカバ:本当に体調がよくない時に、上司から「今日は元気がないね」と声をかけられたら、自分のことを普段からよく見てくれているんだな、気にかけてくれているんだな、とうれしく感じるのではないでしょうか。

岡田:このような相互理解によって信頼関係ができてくると、仕事の相談もしやすくなるでしょうね。いつもと違う部下をいかに早くキャッチするかが管理職の能力です。体や心の不調を10段階評定にして元気な状態を10とするならば、完全に元気のない0の状態になってから気づくのでは手遅れです。早くみつけるということが大切。そのためには、普段から部下とのコミュニケーションがあってこそなんです。



部下にとって必要な問題解決を考え、適切な言葉を

岡田: 先程は「コミュニケーション不足」に触れましたが、「誤ったコミュニケーション」というのも実はメンタルヘルス不調の原因になります。
例えば、部下が上司に「今抱えている仕事がハードで、つらいです」と弱音を漏らしたとします。そこで、上司が「そんなことでつらいのか。俺も若い時は同じようにつらかったぞ」と答えたら、部下はどんなふうに思うでしょう?

ワカバ: この上司はわかってくれないなとか、相談はできないな、と思います。

岡田: この答えのいけないところは、まず否定から入っていること。そして、自分を軸にした答えを返しているところです。部下とのコミュニケーションにおいて、“NO”と“I”はNGワードだと覚えておきましょう。
では、どういう返答がよかったのかというと、「そうか、私もこの手の仕事はつらかったよ。ところで体調は大丈夫か?」と、まず“YES”で一度受け入れてから“YOU”を主語にしたヘルスコミュニケーションにシフトするのがいいですね。

ハジメ:確かに、一旦受け入れてもらえると、安心感や信頼感が増しますし、抱えている仕事の悩みについても相談する気になります。

岡田:例えば、部下が風邪を長引かせていたり、頻繁に熱を出したりしているような時にも、「最近よく風邪ひいているじゃないか、何をやっているんだ」と言うと、これはハラスメントに繋がってしまいます。こういう時は、「最近よく風邪をひいているようだけど、どうしたんだ?」と問いかけてみるといいですね。その時に、「仕事が忙しくて睡眠不足が続いていました」とか、なにかしら仕事に関係する回答が返ってくれば、それは仕事が原因で体調を崩したと理解しなくてはいけません。それができなければ、若い人たちは誰もついてきてはくれません。

ワカバ:ちょっとした声の掛け方に、上司のスタンスが如実に現れますね。

岡田:普段から部下の健康を考えているかどうかが、こういうちょっとしたコミュニケーションに出てしまいます。

ハジメ:経営者ばかりでなく従業員と普段密接に関わる管理職においても、健康経営への理解が求められている訳ですね。

岡田:その通りです。若い社員が心のバランスを崩す原因には、仕事に対するやりがいやおもしろみを感じられない、というのもあります。これは、わからないからできない、できないからやりがいやおもしろみを感じられない、という負のスパイラルに陥っているケースが多いようです。ですから、きちんと、部下に対して、計画性をもってタスク管理するような仕事のやり方を指導したり、わからない部分をケアしながら自分の仕事が重要な役割を担っていることを理解してもらう必要があります。これは、新入社員に限らず、即戦力として入社した中途採用の社員に対しても同様です。丁寧に本人を伸ばすための配慮をしていけば、その社員は長くその企業の中で力を発揮してくれるはずです。

ワカバ:仕事のやり方を適切に指導しフォローするということも、メンタルヘルスという視点で見ると健康経営の重要な取り組みになりますね。

岡田:部下への指導も、先程からお話ししている「コミュニケーション」が適切か否かというところが、とても重要になってきます。例えば、仕事に悩んでいる部下を見たときに、どちらの誘いが正しいと思いますか?

 A:「仕事で悩んでいるようだから、一杯飲みに行かないか?」
 B:「仕事のどこがわからないんだ?具体的に話してごらん?」


ハジメ:Aは気持ちを楽にしようと配慮しているようにも感じますが、根本的な解決を考えるとBの方がいいのではないでしょうか。

岡田:正解です! こういうときには、具体的にわからない点を指導して、その上で「この仕事が終わったら飲みに行こうか!」と誘うのが理想的ですね。

上司と部下の間に起こりうるコミュニケーションには、3つあります。
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①ワークコミュニケーション:仕事の状況を把握し、サポートするようなコミュニケーション

②ヘルスコミュニケーション:部下の心身の体調を気遣うコミュニケーション

③プライベートコニュニケーション:飲みに行くなど、仕事以外の部分で行われるコミュニケーション

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この3つのコミュニケーションを使い分けられる人は、優秀な上司と言えますね。先程のAの回答のように、この順番を間違えるとよくありません。



意識的に従業員の声に耳を傾け、状況を肌で感じよう

ワカバ: メンタルヘルス不調のリスクは、若い方ばかりではありませんよね?

岡田:その通り。最近は、中高年の方のメンタルヘルス不調が増えています。

ハジメ:中高年ということは、ベテランの方ですよね。そういう方が心に不調を抱えてしまう原因は、どこにあるのでしょうか。

岡田:多く見られるのは「職務適性」ですね。自分の経験や能力、資格などを生かせる仕事ができていればストレスはほとんどありませんが、異動などをきっかけに、業務内容や環境が変わることで大きな不安や精神的な負担を抱えてしまうという人が少なくありません。実は、仕事の適性というのは、年齢に関係なくメンタル不調の原因になりやすいのです。だから、会社としては、いかに職務適性を考慮した適正配置をするかというのも重要なポイントになってきます。

ワカバ: 適正な配置は、どのようにするといいのでしょうか?

岡田:上司が部下をきちんと見ること、そして話を聞くことですね。部下の仕事の進捗状況を常に把握していれば、現在の職務が適正かどうかは一目瞭然です。適性のない場合は、「この仕事が合っていないよね」と声をかけてあげるといいですよ。

ワカバ:合っていない、という事実を本人に伝えるのですね。

岡田:仕事が思うように進んでいない時は、本人も何かしら悩みは抱えているでしょうから、先に「合っていない」と伝えてあげると、本人はとても楽になりますよね。能力がないから仕事ができないのではなく、適性がないからできないと認めてもらうことで、かなり精神的な負担は軽くなると思います。逆に、「何を言っているんだ、甘いことを言っていないでこの部署での仕事を全うしなさい」では、ハラスメントになってしまいます。社員一人ひとりを得意部門に配置して、伸ばしていくのは、管理職の重要な仕事なのです。

ハジメ: 社員一人ひとりをよく見ていないと労働適性は見極められないでしょうから、先程のお話でもキーワードになっていた「コミュニケーション」がやはりとても大事になりますよね。

岡田:シンプルに話しをするのも大切ですが、特に重要なのは、意識的に社員の話に耳を傾けることです。私も、大学で若い方に向けて講義をする機会がありますが、コミュニケーションを取ると、若い彼らには彼らなりの考え方があるなぁ、と感じます。それは、私たちの世代とは少し違う考え方だったりするのですが、どちらが正しいとか間違っているとかではありません。それぞれの価値観なのです。だから、経営者や管理職のみなさんも、自分たちの価値観を押し付けるのではなく、フラットに社員一人ひとりに労働観などをヒアリングしてみるといいでしょう。話を聞いた上で、仕事の指導の仕方や配置なども考えていく。更に、上司に話を聞いてもらうことは、それだけでもモチベーションに繋がると言われています。

ワカバ:社員へのヒアリングの機会といっても、なかなか難しいのではないでしょうか? 

岡田:経営者と新入社員がフランクに話ができるような、カジュアルなランチ会を開催している企業は増えてきています。昔は、会社のトップと直接話しをする機会は、あまりなかったかもしれませんが、こういう機会を持つことは経営者にとっても社員の生の声を聞くという意味でとても重要ですし、また社員にとってのエンパワーメントとしても大切です。

ハジメ:「経営者と新入社員」に限らず、「経営者と管理職」や「管理職と社員」など、様々な組み合わせでコミュニケーションを活性化する機会を作るとよさそうですね!

岡田:経営者が部長だけ集めてランチをするというのもいいでしょうし、いくつか事業所がある会社であれば、社長が定期的に足を運んで定点観測をしながら従業員の状況をキャッチするというのもいいでしょう。大切なのは、〝肌で感じる〟ということ。鋭い感受性でリスクをいち早くキャッチして、素早く的確に手を打つというのが、経営者の重要な能力だと思います。






〈プロフィール〉

            
岡田邦夫
NPO法人健康経営研究会理事長
大阪府医師会健康スポーツ医学委員会委員長
平成26年度厚生労働省「ストレスチェック制度に関わる情報管理及び不利益取り扱いに関する検討会」委員をはじめとして各方面で幅広く委員を歴任。
主な著書に『健康経営のすすめ』(社会保険研究所)、『これからの人と企業を創る健康経営』(社会保険研究所)、『健康経営推進ガイドブック』(経団連出版)、『ストレスチェック導入・運用サクセスガイド』(メディカ出版)、『なぜ「健康経営」で会社

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