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アレルギーの原因になる 「免疫の暴走」を防ぐには

免疫細胞は外敵から体を守ってくれる強い味方で、その多くは腸に存在します。しかし一方で、バランスが崩れて過剰反応すると、花粉症などのアレルギーや関節リウマチなどの自己免疫疾患を招いてしまうこともあります。最近の研究で、こうした“免疫細胞の暴走”を抑えるカギが、腸の中にあることが明らかになってきました。今回は過剰反応を抑えるカギとなる腸内細菌と、腸の健康を保つ方法についてお伝えします。





①注目の腸内細菌「クロストリジウム」

「人間の腸内には、約1,000種類、40兆個以上の腸内細菌がいるといわれていますが、その中に『クロストリジウム』という腸内細菌がいます」と理化学研究所、生命医科学研究センター粘膜システム研究チームの大野博司チームリーダーは話します。実は、このクロストリジウムの働きによって、免疫の暴走にブレーキをかける働きのある特殊な免疫細胞(制御性T細胞、『Tレグ細胞』)が腸内で作り出されることがわかってきたのです。「クロストリジウムは食物繊維を食べて『短鎖脂肪酸』といわれる物質を放出します。この物質が腸内にいる未成熟な免疫細胞を制御性T細胞(『Tレグ細胞』)に変化させるのです。その結果、過剰な免疫反応を抑えてアレルギーや炎症を低減させることがわかってきました」(大野チームリーダー)。

では、このクロストリジウムを働かせるためにはどうしたらよいのでしょうか。そのために重要なのが、まず、クロストリジウムのエサとなる食物繊維をしっかりとることです。
大野さんは次のような実験を行いました。腸内にクロストリジウムがいるマウスを2グループに分け、一方には食物繊維が少ないエサを、もう一方には食物繊維が豊富なエサを与えたところ、食物繊維が多いエサを与えたマウスでは少ないエサのマウスに比べてTレグ細胞が約2倍多かったといいます。※

現代の日本人は食物繊維の摂取量が不足しています。日本人の食事摂取基準(2015年版)の食物繊維摂取目標量は、男性で1日20g以上、女性18g以上ですが、平均摂取量は14.4g(平成29年国民健康・栄養調査)。20歳~50歳代までの人では、1日当たり5~7g足りません。そして、食物繊維には水溶性と不溶性の2種類がありますが、特に腸内細菌がエサにしやすい水溶性食物繊維を十分にとりたいものです。これは、ゴボウや大麦、納豆などに多く含まれています。
※出典:腸内細菌が作る酪酸が制御性T細胞への分化誘導のカギ | 理化学研究所ホームページ


②乳酸菌で腸内環境を整える

また、乳酸菌が腸の健康を守るために役立つことは広く知られていますが、乳酸菌の中でも免疫物質IgAを作り出す働きをもつものがあります。これは食べた乳酸菌の一部が“異物”として腸管にあるパイエル板という器官に取り込まれ、免疫細胞の働きを刺激するのです。その結果、腸内だけでなく、口、鼻、目などの粘膜でIgAが作られます。IgAは細菌やウイルスにくっついて動けなくしたり、他の免疫細胞に食べられやすくしたりするなど、粘膜免疫という役割によって外敵の侵入を防ぎます。
「加齢とともに、腸内環境は悪くなりますので、意識的に乳酸菌を含む食品を摂取するといいでしょう。ヨーグルトや納豆などの発酵食品は、乳酸菌や納豆菌などを含み、腸内環境を整える効果も期待できます」と大野さん。
また乳酸菌を摂る際には、腸内細菌のエサとなるオリゴ糖や食物繊維も一緒に摂りましょう。腸内環境は体調次第で変化しやすいため、毎日継続するよう心掛けてください。


③ストレスを減らして、自律神経のコントロールを

このほか、ストレスのコントロールも腸内環境を整えるためには大切です。
腸の働きは自律神経によって制御されています。自律神経には、活動や緊張しているときに働く交感神経と、休息・リラックスしているときに働く副交感神経があり、腸は、副交感神経が優位の時に働きが活発になります。「ストレスや加齢は、交感神経の働きを高め、副交感神経の働きを低下させるため、バランスが崩れて腸が正しく働かなくなります。これを防ぐには、規則正しい生活、適度な運動、十分な睡眠で、心と体を整えることが肝要です」と大野さんはアドバイスします。

アレルギーの原因となる免疫の暴走をコントロールするだけでなく、日々の健康のためにも、腸や便のコンディションに関心を持って過ごしましょう。




<監修者>
大野 博司 
国立研究開発法人理化学研究所 生命医科学研究センター
粘膜システム研究チーム チームリーダー

千葉大学医学部卒業。ドイツ、ケルン大学遺伝学研究所、米国国立衛生研究所などを経て、2002年より現職。M細胞の機能と分化のメカニズムや、腸内細菌叢がヒトなどの宿主に及ぼす影響について研究。