見出し画像

仕事のパフォーマンスを上げる、「コンディショニング」のすすめ

筋力アップやダイエット目的ではなく、体が本来持っている機能を元に戻して整える。鈴木岳.さんが運営するスポーツ運動療法施設「R-BODY CONDITIONING ACADEMY」が提唱しているのが「コンディショニング」です。プロのアスリートだけではなく、一般の老若男女が取り入れることで生活の質も仕事のパフォーマンスも上がるそう。その理由をコンディショニングトレーニングのメソッドとともに、提唱者の鈴木岳.さんに伺いました。




アスリートも働く人も整えるための視点は同じ

― 鈴木さんが提唱されているコンディショニングとはそもそも何でしょうか?

体をただ鍛えるのではなく「調子を整える」ことを目的にしたエクササイズプログラムです。私たちの体は、長年使い続けるとどこかに不調が出てきます。そんな時、大抵の人は病院に行って医療の力を借りますよね? 特に日本の医療技術はすばらしいので、治療によって不調は緩和できるでしょう。しかし、不調には根本的な原因があり、その原因を改善しなければまた同じ不調が現れる可能性は高くなってしまいます。


そこで我々は最初に「体のチェックを入念に行う」といったアスリート向けに実践してきたメソッドを活かして、コンディショニングを提案しています。
例えば、腰痛がひどいバレーボール選手がいたとします。私たちは、すぐに患部である腰部の痛みを緩和するマッサージやトレーニングをアスリートに提案しません。何をするのかというと、その選手の“腰痛の原因”から探るのです。具体的には、実際に試合でどんな動きをするのかをチェックします。すると、アタックを打つ時に腕が本来の機能通りに上がっておらず、無理に背中を反らすなどその人の癖が分かります。

― 背中を反らすと、腰に余計な負荷がかかってきそうですね。

そうなんです。その選手は腰痛として症状が出ていますが、腰痛の原因は、腕が思ったより伸びていないことになるわけです。このように“根本の原因”を探れば、その選手に施すべきは「腕が本来の機能通りに上がるためのトレーニング」です。腕がしっかりと上がるようになれば、腰痛は改善されていきます。怪我の度合いもあるので治療面はもちろん医師と連携しつつ、その一方で我々のトレーニングを通して怪我をしにくい体づくりを身につけてもらいます。

― アスリート以外にも有効なのでしょうか。

そうですね。私たちの日常生活でも同じようなことはあります。例えば、いつも使う資料がオフィスの棚の一番上にあり、日常的に高い所に手を上げる動作をする事務職の方がいたとします。そのような方もバレーボール選手と同様に「腕が思ったよりも伸びきっていないまま、その作業をしている」ことがままあります。無理に高い場所に手を伸ばすため、ぐっと背中を反らしてしまう。日々気づかないうちに腰に負荷が積み重なってしまうのです。



― その場合も、アスリート同様に腰ではなく肩や腕に対してトレーニングを施すわけですね。

その通りです。痛めている腰からではなく、まずは根本の原因である部位にアプローチしながら腰などの体幹も整えていきます。このようにスポーツでも仕事でも同じ視点で考えていきます。こうしたコンディショニングの理論は、以下の三層に分かれた「ヘルス&ウェルネスピラミッド」で表せます。


一層目のスポーツは、言うまでもなくアスリートを頂点としたスポーツの領域です。二層目のライフは、仕事をふくめた日常生活のこと。バリバリ仕事をする、旅行に行く、趣味を楽しむ、料理をする。こうしたあらゆる生活とその生活を豊かにすることは人それぞれです。
ただこの一層目と二層目も、すべて三層目の「コンディショニング」の下支えがなければ楽しめません。体の調子が悪ければ、スポーツも仕事もパフォーマンスが上がらない。裏を返せば、コンディションが整っていれば仕事でもスポーツでも自分が持てる最高の力を存分に発揮できます。

― このピラミッドは、健康経営にもそのまま当てはまりそうですね。


健康経営を実践する企業が注力している「プレゼンティーイズム(心身の不調を感じながら働くため、生産性が低下すること)」にも直結しますね。加えて、いわゆるビジネスパーソンや経営者の方ほどコンディショニングは親和性が高いと実感しています。

― 親和性が高い理由は何でしょうか?

先程述べた腰痛が起こる因果関係のように、感覚的ではなく“なぜならば”を理解してトレーニングをするからです。スポーツ医学の知見に基づいて体の可動性と現在の不調の関連を説明し、課題解決の方法=エクササイズへと落としていく。そんな論理的な考え方が、普段ビジネスをしている人にとって理解しやすいのだと思います。


予防意識が高いアメリカと、低い日本から生まれる健康意識の差

― コンディショニングのメソッドは、鈴木さんがアメリカで学んだことがヒントになっているそうですね。

はい。アスレティックトレーニングが基礎になっています。私は大学卒業後にワシントン州立大学に留学し、全米公認アスレティックトレーナー(ATC)の資格を取りました。その頃に職場として触れたスポーツクリニックの存在が、現在の「R-body」に繋がっています。
アメリカでは、スポーツに詳しい専門のスポーツドクターが在籍するスポーツクリニックが至る所にあるんです。アスリートは練習中に怪我をしたり体の不調を感じたりすると訪れて、スポーツドクターが怪我や不調の原因を診察。根本の原因を見つけ出し、治療を行いながら痛みや不調を改善させるトレーニングや連携したジムの紹介までしっかりと面倒を見るんです。


― 日本ではあまり見かけないスタイルですね。

日本の場合、整形外科病院に行き、そこにあるリハビリ施設に通うスタイルがほとんどです。またジムはたくさんありますが体を鍛えることに主眼を置いていて、怪我をしにくい体をつくったり体を整えたりすることを教える場ではありません。そこで帰国後、2003年に運動や生活の基礎となるコンディショニング(体の調子を整える)を伝えるために、R-bodyを立ち上げました。

― どうしてアメリカで一般的なスポーツクリニックやコンディショニングに主眼を置くジムが、日本には少なかったのでしょうか?

日本の公的医療保険制度が世界有数の充実したサービスだからだと思います。日本は国民皆保険制度があり、医療費の負担は3割です。さらに医療の質も良いという安心感から怪我や病気への予防意識が根付きにくく、病気になってからでも良くなるといった意識が強いのだと思います。

― アメリカは医療費の個人負担額が高いからこそ、予防の意識も日本よりずっと高いわけですね。

そうです。留学時代、忘れられない光景があります。学生寮にいたのですが、食事を終えると学生たちが一斉に洗面所でデンタルフロスを使って丁寧に歯を磨いていたんです。18歳くらいの男子学生がですよ?「アメリカ人はそこまで白い歯にこだわるのか…」と驚いたのですが、実は違った。要はアメリカで歯科医療費がとても高額だったからなんですよね。

― 日本でも高まり続けている医療費が社会問題になっています。

そうですね。体を整え予防に対する意識を持つコンディショニングの存在意義は、その面でも大きいと感じています。一人ひとりの体が整うことは、その人が属している街や国のパフォーマンスのアップに繋がります。そして、その人が属している企業のパフォーマンスが上がることにも当然繋がっていきます。

― 今回はその足がかりとして、オフィスでできるエクササイズ動画をご提案いただきました。会社で取り入れる時のアドバイスをお願いします。

誰よりもまずは、経営者自身に実践していただきたいですね。そして「体調が良くなったな」や「腰のだるさが消えた」などの実感を従業員の皆さんに伝えてもらいたいです。やっていない人から押し付けられても、人は動きません。でも、やる気のある人が横で楽しそうに結果を出し続けていると「いいな、自分もそうなりたいな」と伝播して自然と火はつくはずです。



【プロフィール】



株式会社R-body
代表取締役 鈴木岳.


博士(スポーツ医学)/  コンディショニングコーチ
ワシントン州立大学を卒業後、全米公認アスレティックトレーナー(ATC)の資格を取得。
帰国後、1998年より全日本スキー連盟専属トレーナーとなり、ソルトレイク・トリノ・バンクーバー・ソチオリンピックにてアスリートの活躍を支える。
2003年、株式会社R-body projectを設立。同時に筑波大学大学院にて「トップアスリートのコンディショニング」を専門領域とした研究にも従事し、2008年に博士(スポーツ医学)号を取得。独立行政法人日本スポーツ振興センター ハイパフォーマンススポーツセンターアドバイザー。
2012年ロンドン、2016年リオデジャネイロオリンピックでは日本オリンピック委員会(JOC)の本部メディカルスタッフ。
2021年、東京オリンピック・パラリンピック大会においては、選手村内フィットネスセンターのマネージャー / チーフトレーナーを務める。

 

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!