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健康経営のことはじめ② 健康リスクが見えてくれば、将来への見通しが明るくなる!?

健康経営のプロフェッショナルである岡田邦夫さんを迎え、今更聞けないような初歩的な内容も含めて、健康経営について教えていただく連載「健康経営のことはじめ」。
第2回は、健康経営の側面から考える健康リスクとその向き合い方について。健康経営の初心者であるトリクミハジメ&コトノワカバの二人と一緒に、今回も学んで行きましょう!






健康リスクを意識すれば、企業の底力がアップする

トリクミハジメ(以下、ハジメ):前回は、健康経営の考え方と、経営者の健康に対するリテラシーが高くなれば、比例して従業員の健康意識も高まる、というお話しでしたね。

岡田邦夫(以下、岡田):今回も、はじめに健康経営の考え方について、少し触れて行きたいと思います。
今は新型コロナウイルスの影響によって、みなさん、以前よりも手洗いをきちんとするようになりましたよね。手洗いをするのはなぜでしょうか?

コトノワカバ(以下、ワカバ):ウイルスに感染するのを防ぐためです。

岡田:そうですね。それは、ウイルス感染というリスクを回避するため、とも言えますよね。実は、きちんと手洗いがされるようになったので、インフルエンザなどの感染症にかかる人数も、過去に比べて減っているんです。もし、以前から、感染症のリスク対策として、このくらい手洗いをしていたら、新型コロナウイルスの感染拡大ももう少し抑えられたのではないかと思われます。

ワカバ:リスクが明らかになっていたら、対策ができたかもしれませんよね。

岡田:はい、リスクへの意識があるかどうか、そのリスクに対して対策をしてきたかどうかで、想定されたリスクが現実化した時に受けるダメージは全く違ってきます。健康経営を行う上でも、普段からリスクがわかっていて、そのリスクへの対策に取り組むことは、企業として、リスクに対する免疫を備えているともいえます。ですから、健康リスクへの対策をやり続けることは、企業としての体力づくりとも言えますね。

ワカバ:起こりうるリスクを考え、継続的な対策の実行が、リスクが起こらないように予防することにもなりますし、たとえ起こったとしても、適切な対処ができるということですね。

岡田:そのとおりですね。何か起こってからでは手遅れになってしまう、というケースは少なくありません。目先の利益ばかりを追求し、ピンチへの備えを疎かにしていると、実際にトラブルが発生した時にどうすることもできません。普段から利益を考えつつ、ピンチの可能性も考慮しておけば、ある程度は回避できるはずです。ノーベル賞を受賞したハーバード・A・サイモンという経済学者も、「目先の利益を追いつつ、未来を考えた投資をするべきだ」と言っているんですよ。

ハジメ:将来を考えた投資=健康経営、ですね!

岡田:企業にとって最も大切なのは、何と言っても「人」です。人の知識や労働力こそ、無形財産。最近では、人材ではなく、人財と表記することも多くなりましたね。会社全体で、健康づくりの風土をつくる、元気で働ける環境をつくる、きちんと上司が部下のケアをする体制がある、一人ひとりがやりがいを持って働くことができる。それを健康という視点から考え取り組んでいくことが企業の底力になっていくんです。



健康診断結果からリスクを洗い出し、幅広い視点で原因を探る

ワカバ:実際に企業が考えるべき健康リスクには、どんなものがあるのでしょうか?

岡田:例えば、数年前には過重労働による心筋梗塞や脳卒中が注目されましたが、最近になってこれらの病気の原因が必ずしも過重労働ではないという事実がわかってきました。

ハジメ:え!何が原因なんですか?

岡田:それは、労働時間の大半を座りっぱなしでいる、ということなんです。

ワカバ:座りっぱなしがリスクに繋がっているなんて!デスクワークの職種はとても多いですよね!事務職はもちろん、IT関係のプログラマーや、デザイン関係の職種も、ほとんど1日中座って過ごしているのではないでしょうか。

岡田:要は、エコノミークラス症候群と同じというような状態ですね。仕事でパソコンを使うようになり、その傾向はさらに強くなっています。本来仕事の生産性を上げ、労働時間を短くする目的で導入されたパソコンが、かえって労働時間を長くし、健康リスクを引き起こしてしまうというのは、なんとも皮肉な話しです。この例からもわかるように、例えば循環器疾病はいままで生活習慣病と呼ばれていましたが、今では労働環境病になっています。

ハジメ:確かに、1日の多くの時間を労働に費やしているわけですから、働き方や環境が体に影響を及ぼすことは理解できます。

岡田:他にも、睡眠時間が短いと、食欲の増進に加え、疲労感が増すため身体を動かすのが億劫になり、結果肥満を招くと言われています。

ハジメ:座りっぱなしが循環器疾病に繋がったり、睡眠不足が肥満の原因になるとは意外です。

岡田:疾病や健康リスクに関する研究成果は日々更新され、様々なメディアで発信されています。ですから、経営者は常にアンテナを張って、従業員の健康に役立つ情報を収集するように心がけておくことです。

ワカバ:企業ごとに健康に関するリスクは異なると思いますが、どうやって調べたらいいのでしょうか?

岡田:いい質問ですね!それは、健康診断の結果です。これを見れば、健康上どういう問題を抱えている人がいるか、また、そのような人が従業員の中にどのくらいいるのかがすぐにわかります。あとは、特定健康診査の問診票というのがありますから、それが一番わかりやすいかもしれませんね。朝ごはんを食べているかどうか、眠る前の遅い時間に食事をしているかどうか、体重が増えてきているかどうか、など細かい結果が見えてきます。健康診断の結果や特定健康診査については、協会けんぽから経営者に結果が共有されるはずなので、その内容を確認することで、企業としての問題点は洗い出せると思いますよ。 あとは、50人以上の企業では、産業医の意見を参考にするといいでしょう。



コミュニケーションをとり、できるところから具体策を考えよう

ハジメ:企業としてのリスクが見えてきたら、次に考えるのは対策ということですか?

岡田:実は、従業員の健康リスクには、個人レベルで対策するハイリスクアプローチと、企業全体として取り組むポピュレーションアプローチの2つが存在します。健康経営の取り組みとして考えていく必要があるのは、後者の方です。まず、見えてきた企業としてのリスクから、企業全体として取り組むべき問題をピックアップします。例えば、従業員が100人の企業で肥満の人が3人という場合は、ポピュレーションアプローチとして肥満にフォーカスを当てた方が良いのか、ということです。

ワカバ:きちんと企業にとって必要なところにフォーカスを当てないと、的外れなところに投資をしてしまうということですよね。

ハジメ:確かに、それではせっかくの未来への投資が、無駄な投資になってしまいますよね。

岡田:企業として取り組むべき健康リスクが見えてきたら、リスクに対する具体策をブレイクダウンしていく作業に入っていきます。これが健康投資にあたるものとなります。企業の体力によって、内容は異なってきますから、できることからやっていくのが大切ですね。
ここで、健康経営としての投資について説明しておきましょう。投資には、3つの種類があります。
まず、どんな企業でも取り組めるのは、「時間投資」です。これは、労働時間を活用して従業員の健康啓発に対する投資ですね。労働時間の中で健康教育をするとか、健康診断を受けましょうと促すなど、新たにお金をかけずにできることもたくさんあります。
次は、「環境投資」。これは、働きやすい環境づくりのための投資で、少しだけお金がかかります。職場の環境をよくしましょうとか、体に負担のない椅子に変えていきましょうとか、温度や湿度など空調の見直しといったところもあるかもしれません。お金がかかるので、出来ないこともあるかとは思います。しかし、例えば空調を変えようと思ったとき、全館の空調を変えるのではなく、空気清浄機を導入するなど、やり方を考えれば改善できることもありますよね。
そして、お金を出す「利益投資」があります。これは、インフルエンザの予防接種は企業でお金を負担するのでみなさん受けてくださいね、というような従業員の健康づくりに対する投資です。その他、禁煙外来に行くためのお金を負担する、禁煙した人には手当を出すなどもこれに当たります。予算はかかりますが、取り組みやすいことも多くあるので、覚えておくといいでしょう。

ワカバ:未来への投資と言っても、いろいろな角度での投資が考えられるということですね。しかも、お金がかかるものだけではなく、お金をかけなくてもできることも多く存在するというのは新鮮でした。

岡田:どういう対策が必要かを、経営者は考えるべきなのですが、そのためには従業員とのコミュニケーションがとても大切なんですよ。

ハジメ:コミュニケーションの取り方ですか? 具体的に教えてください。

岡田:例えば、リスクの洗い出しをしたら、喫煙者が多いことがわかったとします。受動喫煙なども考えると、禁煙を促したい。その場合は、まず3年後には全館禁煙にするという目標を定めて、計画を従業員と共有するんです。1年目には、まず禁煙外来に行ってくださいね、1万円は補助しますよ、というように。そして2年目には喫煙室がなくなりますよ、3年目には全館禁煙になりますよ、というインフォメーションもするんです。コンセンサスを得た状態で進めるのがいいですね。

ワカバ:でも、会社を出たら喫煙してしまう従業員もいるのではないですか?

岡田:もちろん会社を出てからの行動までは制限はできません。でも、労働時間内で取り組みを促せば、従業員の健康リテラシーは上がるでしょうね。これをきっかけに禁煙してみようかな、と思う人もいるかもしれません。実際に、そういう禁煙への取り組みについて大成功をした企業もあるんですよ。その話は、またあらためてご紹介したいと思います。

ハジメ:確かに、タバコはやめるきっかけがないから吸い続けてしまう、という人もきっと多いですよね。

岡田:きっかけを与えてあげることも大切ですね。あとは、先程お話しした座りっぱなしによるリスクがありましたよね。これも、1日1時間だけスタンディイングワークをするだけで、心臓病のリスクが7%も減ったというデータがあるんです。だから、それを促すために高さの変わるデスクを導入している企業もありますし、社内ミーティングはスタンディングで行なっている企業もあります。その結果、誰も居眠りをしなくなり、いい意見が短時間で出るようになって、ミーティング自体の時間も短縮されたという話も聞きます。

ワカバ:それは一石二鳥!効率も上がって生産性の向上にも繋がってきますね。

岡田:具体策を考えるときに大切なのは、できることからはじめ、ある程度の期間を持って取り組むことです。取り組みを実践して、従業員の健康診断の結果が良くなったり、医療費の減少が実現できれば、目標が達成されたと考えられます

ワカバ:企業の問題点を洗い出してその原因を探る。そして改善するために、従業員とコミュニケーションを取りながら企業としてできることを考える、ということですね。まずは、健康診断の結果や問診票を見るところからはじめてみます!




〈プロフィール〉            


岡田邦夫
NPO法人健康経営研究会理事長
大阪府医師会健康スポーツ医学委員会委員長
平成26年度厚生労働省「ストレスチェック制度に関わる情報管理及び不利益取り扱いに関する検討会」委員をはじめとして各方面で幅広く委員を歴任。
主な著書に『健康経営のすすめ』(社会保険研究所)、『これからの人と企業を創る健康経営』(社会保険研究所)、『健康経営推進ガイドブック』(経団連出版)、『ストレスチェック導入・運用サクセスガイド』(メディカ出版)、『なぜ「健康経営」で会社が変わるのか』(共著)など多数

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