まずはお互いの健康について知ることが大事。 地域密着型薬剤師が考える、健康経営と働く女性の健康
「女性の健康」と聞くと、生理や更年期や妊娠といった「表立って話しにくいこと」というイメージを持っていませんか? 女性の就労率が増加する中で、経営者はどのように社員の健康と向き合うべきか、健康経営を実践される様々な企業において女性の健康に関するご講演活動を行われている薬剤師の鈴木怜那先生に、女性の健康と向き合うメリットやコツを伝授していただきました。
自分の体のことは、自分で決める
−まずは鈴木先生が薬剤師としてどのような活動をされているのか、教えていただけますか。
OGP薬局荒川店で薬剤師として勤務しながら、薬局内外で地域の女性に向けた健康講座、セミナーや講演会などを定期的に行っています。
具体的には、思春期から40代くらいの女性に向けて、子宮頸がんやHPVワクチンについて知ってもらうための『あらかわ生理部』。更年期の女性に向けて更年期障害やセルフケアに関する情報を発信している『あらかわゆらぎ部』。閉経後の女性とホルモン減少に伴う体調不良や病気のことを一緒に考える『あらかわ生き生き部』の3つをメインの活動として行っています。他にも、思春期の子どもを育てる母親向けに性教育に関する講座なども開催しています。
−とても精力的に活動をされていますが、その背景にはどんな思いがあるのでしょうか?
私自身が二度の出産を経て復職した際、ヘルスケアや性教育に関する様々な講座を受けました。その中で、海外では「ユースクリニック*」と呼ばれる若者向けのクリニックがあったり、教育機関での性教育も進んでいるのに、日本では自分の体や健康のことをフランクに相談できる機会が少ないことを実感したんです。そこで、薬局や薬剤師の存在が地域の健康をつなげる「ハブ」のようになっていけたらと考え、健康講座などの取り組みを始めました。
*ユースクリニックとは、身近な地域で若者が自身の心や体、性の悩みなどを無料で気軽に相談できる場所を指します。スウェーデンをはじめとする北欧諸国や英国などでの取り組みが進んでいます。
−確かに、病気になってから病院に行くことはあっても、日常的に自分の体調について相談できる機会はあまりないかもしれませんね。様々な取り組みを通して、鈴木先生が共通して伝えたいことは何かありますか?
SRHR(Sexual and Reproductive Health and Rights)という基本的人権の一つで、日本語では「性と生殖に関する健康と権利」と訳されています。
要するに「自分のからだはじぶんのもの。プライバシーが守られ、差別や強制、搾取や暴力を受けず自己決定が尊重される」という考えです。
とても当たり前のことのように思われますが、日本ではまだまだ浸透していません。「子どもは最低何人生むべき」とか「何歳までに結婚するべき」といったような価値観が残っています。自分の健康や性のことを、自分で考え、選び、決められる。そういう環境をつくり、広げていくことが全ての活動に共通する私の理念です。
まずは、お互いの健康について知ることから
−健康経営という観点で、鈴木先生が感じられている課題はありますか?
先ほど紹介した「SRHR」という考えを浸透させることが重要だと思うのですが、そのためには男女それぞれがお互いの体や健康について知る機会が必要です。その点では、日本はまだまだ男性主体の文化が残っているように感じます。
例えば、健康診断ではメタボリックシンドロームに着目した検診が一般的です。しかし女性においては、メタボに加えて骨粗しょう症のリスクなど骨に着目した検診も大変重要になります。検診内容も性別に合わせて「男性はメタボ検診、女性は骨の検診」というふうに選べるようにすることで、男女を超えてお互いの体や健康について知るきっかけにもなるはずです。
−なるほど。そういったことに取り組むことで得られる経営上のメリットについてはどのようにお考えでしょうか。
女性の就労率が上がり、共働き世代も増えていることからも分かるように、社会は大きな変革期に突入しています。そうした状況で、男性に対しても女性に対してもバックアップを充実させることは、非常にたくさんのメリットにつながると思います。
例えば、働く女性の健康課題に対して、経営陣や男性社員も正しく理解するための社内教育を行っている企業もありますし、生理休暇を制度化し、重い生理のときは無理して働かず病院で受診することで、生産性や業務効率が上がる。
更年期によって昇進を諦めたり、退職することのないようなサポートができれば、優秀な人材の長期的な確保や定着によって、企業の成長にもつながります
つまり、企業や経営陣が男性も女性もお互いの体のことを理解しあえる機会をつくったり、バックアップを組織として行うことにより、短期的にも長期的にも企業にメリットをもたらします。
女性だけ、男性だけでは進むことはできない
−男性も女性も、お互いの体や健康について知る機会を持つ。それが健康経営への一歩になるとのことですが、取り組みを進めるためのポイントはあるのでしょうか。
まずは、社員が自分の体調について言い出しやすいような職場環境や雰囲気を、経営陣や管理職が意識してつくることが大事です。
社員が体調不良を訴えた際に「それくらい我慢しろ」とか「病院行くほどじゃない」などと言わないことはもちろん、「どこが悪いの?」「何の病院行くの?」などと詮索しないことも大切です。
また、専門家とのつながりを設けておくことも大切です。何か健康や体調に関して悩んだときに、気軽に相談できる窓口があることで心理的な安心にもつながります。病院に行くのはハードルが高いと考える人も、専門家に背中を押してもらえれば、安心して通院することができるはずです。
そして何より大切なのは、そうした取り組みを女性だけ、男性だけで進めないことです。
性別に関係なく、ヘルスケアが大切だと考えている人はたくさんいます。「なんで男性だけ」「なんで女性だけ」と言われることのないよう、お互いが納得感を持って推進していくことで、環境にポジティブな変化をもたらしていけるのではないでしょうか。
−とても具体的な情報をありがとうございます。最後に、健康経営を推進する方々に向けたアドバイスやメッセージがあればお願いします。
企業の成長を考える上で健康経営の実践はとても重要な意味を持ちます。特に、女性の健康への取り組みが企業に与える影響を経営者が理解し、女性活躍の場を提供することは、女性の社会進出、働き方の多様化が進む現代社会においては必然的に求められるアクションだと考えます。
一方で、女性自身も実は、生理や更年期など女性の健康についてちゃんと知識を持っていない人もいるのも事実です。ですので、女性の健康について一歩踏み出してみようと考えているなら、まずは、経営者はもちろん社員のみなさんとともに、女性の健康や職場の状態について知ることから始めてみることが大切なのではと思います
女性の健康に関する勉強用動画を準備いたしましたので、お時間ある際にご視聴いただけますと幸いです(動画は会員登録した方限定コンテンツになります)。
なお、大塚製薬の下記サイトは、企業において女性の健康推進を進めるうえでとても参考になるので、是非ご覧になられてはいかがでしょうか。
勉強会動画コンテンツはこちらをチェック
動画はこちらからご利用ください。
■参考情報:大塚製薬株式会社 女性の健康推進プロジェクト
①女性の社会進出と健康経営®
■参考情報:大塚製薬株式会社 女性の健康推進プロジェクト
①女性の社会進出と健康経営®
*「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
②大塚製薬株式会社 職場の「意識と制度」診断
【プロフィール】
株式会社オージープラン
OGP薬局 荒川店 薬剤師 鈴木怜那
思春期保健相談士、スポーツファーマシスト、女性の健康アドバイザーなど多くの肩書を持つ薬剤師。調剤薬局に勤務しながら、定期的に健康講座を開催。健康経営を取り組まれている企業において、女性の健康に関する講演活動を行い、また地域住民に向けては、ライフステージごとの女性の健康に関する情報を積極的に発信している。
更に、SRHR(性と生殖に関する健康と権利)の考え方を広く浸透させることを目指し、薬剤師という職業の枠組みを超えた活動を展開。