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健康経営のことはじめ ⑤ オフィスを快適にすれば、労働生産性は自ずと上がる!

健康経営のプロフェッショナルである岡田邦夫さんを迎え、今更聞けないような初歩的な内容も含めて、健康経営について教えていただく連載「健康経営のことはじめ」。第5回は、健康経営の3つの投資の中の「空間投資」がテーマです。仕事環境といっても、対象になることが幅広いので、何から手をつけていったらいいのかわからない、という方もいらっしゃるのでは?そのあたりの優先順位も含めて、岡田さんにお話をうかがいます。健康経営の初心者であるトリクミハジメ&コトノワカバの二人と一緒に、今回も健康経営の学びを進めていきましょう!





生産性を上げる環境づくりの7つのポイント

岡田邦夫(以下、岡田):以前、健康経営には3つの投資があることをお話ししました。そして、前回は時間投資について掘り下げましたので、今回は空間投資についてお話しします。
最近は新型コロナウイルスの影響でリモートワークも加速的に進み、働く環境が見直されておりますが、まだまだオフィスを完全に手放せない職場もあるかと思います。オフィス環境と従業員の健康や労働生産性には密接な関係があるので、働きやすい環境について、7つのポイントをお伝えしながら、ご紹介しましょう。
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①快適な空間が整っている
照明や空調が適切に調整され、異臭や騒音がなく心地よい環境。
パーソナルスペースが適切に確保され、働きやすい空間。

②清潔である
常に清掃されていて、きれいに保たれている空間。
分煙、または禁煙が徹底されている。

③休憩・気分転換ができる
飲食や雑談など、息抜きできる空間。

④適切な食行動が取れる
コーヒーやお茶、軽食が仕事の合間にとれる空間。

⑤体を動かすことができる
ストレッチや体操をしてリフレッシュできるスペースの設置。
バランスボールを椅子代わりに使えたり、スタンディングワークをするデスクが用意されている。

⑥コミュニケーションが取りやすい
いろいろな人と話ができる休憩室。
上司と部下がリラックスして打ち合わせができるスペースや、挨拶をかわしたり、感謝を伝え合ったりする組織風土が醸成されている。

⑦健康意識が高まる
健康情報の閲覧や自分の健康状態をチェックすることができる。
アルコール消毒スプレーやマスクなどが完備されていて、注意喚起がされている。

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ここに挙げた7つは、オフィス環境において従業員の健康を保持・増進する行動として、経済産業省による「健康経営オフィスレポート」でも紹介されている内容に基づいたものです。健康経営としてオフィス環境をどのようにしたら良いかは、まずこれらの項目をひとつ一つ紐解いて、オフィスの問題点を洗い出すことです。

コトノワカバ(以下、ワカバ):会社として整えなくてはならないこと、従業員も一緒になって心地よさを作っていく項目とがありますね。

岡田:どの項目も、実際に心地よい環境にするために、まずは会社が空間や道具、システムなどを提供する必要があります。では、実際にどんなところから取り組んでいけばいいのかをお話ししましょう。



まずは法令遵守とお金をかけずにできることから

岡田: 最初に取り組むべきは、事務所衛生基準規則という法律で定められている内容。先程、お示しした①にあたります。この法令では、室内の明るさや温度、湿度、二酸化炭素濃度の基準値など、空間に関する条件が細かく決まっています。

トリクミハジメ(以下、ハジメ):法律で決まっているんですね。

岡田:罰則はありませんが、法律ですから守らなくてはなりません。
中でも注意が必要なのが、気積という項目。これは、一人あたりに最低限与えられる体積のことです。規則で10立方メートル/人以上、一人あたり最低2メートル×2メートル×2.5メートルの空間が与えられなくてはならないという計算です。その気積が確保されていないと窮屈で動きづらく、空間内の二酸化炭素濃度も上がってしまいます。

ワカバ:部屋の面積に合わせて、置けるだけ机を置いてはダメなんですね。

岡田:私は産業医もしているのですが、定期的に職業巡視と言って、仕事環境を見て回ります。その時に、この空間は人を詰めすぎているなと感じたら、確認をして改善勧告を出します。オフィス空間の体積を人数で割れば、適正か否かはすぐにわかります。

ハジメ:もし、規定のスペースを取らずギュウギュウのまま仕事を続けていたら、どうなるのでしょうか。

岡田:過去には、圧迫感のある環境で仕事をし続けていた人に、精神疾患が出てしまい、企業側に損害賠償が請求されたという事例があります。規則を無視した窮屈な空間によって、従業員に健康障害が出た場合は、事業主の責任になります。コロナによって、密の回避を謳われるようになりましたが、実はそもそもの法律で定められた事柄でもあったのです。

ワカバ:節約を目的に事務所のスペースを取らないと、むしろ大きな出費や損害を生む可能性が高くなるのですね。

岡田:空間投資も、まずは法令遵守からです。あと、先程の7つの中にも、お金をかけずにすぐに始められる対策があります。

ハジメ:②清潔である、などはすぐに出来ますね。

岡田:多くの企業では、整理・整頓・清掃の3Sを掲げています。フロアを掃除し、机の上の書類やチームでの共有資料の整頓は空間投資の基本です。ここに清潔、躾、習慣、作法などを加えて、7Sにしている有名企業もあります。企業ごとに掲げているSに日頃から取り組めていると、仕事もしやすくなりますし、安全性も高くなります。これらを自主的に従業員が行えるように、会社側は道具を用意したり当番を決めたりして、体制を整えていく必要はあるかもしれません。職場が清潔だと、労働意欲は高まりますから、やらない理由はありません。



プレゼンティーズムから改善策が浮かび上がる

岡田:法令遵守やお金をかけずにできることをやって、利益が出てきたら次のステップを考えましょう。どこを改善していくべきか、そのカギは従業員の心身の不調を生み出す原因の中にあります。
出社していても何らかの不調のせいで、頭や体が思いように動かず、本来発揮されるべきパフォーマンスが低下している状態をプレゼンティーズムと言いますが、アメリカのとある研究報告では、従業員の不調による損失の最大の原因はアレルギーにあると指摘しています。

ワカバ:花粉症とかハウスダストとかでしょうか。

岡田:アレルギーをお持ちの方はよくわかると思いますが、集中力は散漫になりますし、鼻水が出てくればトイレで鼻をかんで、女性であれば化粧を直して、というのを1日に何度も行いますよね。1回の時間は短くても、それが1日に数回になり、大きな企業ではそれが数万人となると、何億円という損失になってしまいます。

ハジメ:億ですか!!

岡田:そこまでいくと無視できない損失ですよね。労働損失を最小限に止めようと思ったら、どんなことができると思いますか?

ワカバ:空気清浄機の設置や、換気システムの導入などでしょうか。

岡田:そうですね。環境整備にお金がかかりますが、社員の集中力が高まれば、労働生産性は自ずとアップします。プレゼンティーズムで考えると、我が国で深刻なのは、腰痛。腰痛の原因は、椅子と机が合っていないとか、座り心地が悪いとか、座っている時間が長いというのもあるでしょう。この状況に対して、どんな対策ができると思いますか?

ハジメ:机と椅子を見直すとか、定期的に立って体をほぐすように促すとか。

岡田:他には、以前も少しお伝えした、スタンディングワークを導入する、というのもいいでしょう。従業員のプレゼンティーズムや職場の環境課題を洗い出していくと、何から改善していくべきか見えてくると思います。闇雲に行って無駄な投資にならないように、専門家に相談しながらそれぞれの企業にあった方法を考えるといいですね。

ワカバ:働く環境がよくなっていけば、従業員のモチベーションもアップしますね。

岡田:困っている事態を経営者判断で解決すると、それは従業員にとってインセンティブになります。社長は私たちのことを考えてくれているんだ、とロイヤリティも高まります。定期的に従業員とコミュニケーションを取って、困っているところをヒアリングしているという経営者もいらっしゃいます。まずは、経営者が常にアンテナを張って、職場環境の改善もトップダウンで行うのが大切です。次第に、ボトムアップで「こんなこともしたらどうですか?」と従業員から自発的にアイデアが出てくるようになったら、それは健康経営がうまくいっている証拠です。

ハジメ:打合せなどで伺う取引先のオフィス環境がすばらしいと、その企業に対するイメージもよくなりますし、社員のみなさんも生き生きと働いている気がします。

岡田:オフィス空間は企業のイメージアップと無縁ではないでしょう。しかし、仕事場の環境はイメージ先行ではなく、あくまでも労働生産性のアップを目的としてものでなければなりません。経済産業省が公開している「健康経営オフィスレポート」では、就労者に実施した調査やオリジナリティのある環境改善の事例を紹介していますので、是非参考にしてみてください。




〈プロフィール〉      


岡田邦夫
NPO法人健康経営研究会理事長
大阪府医師会健康スポーツ医学委員会委員長
平成26年度厚生労働省「ストレスチェック制度に関わる情報管理及び不利益取り扱いに関する検討会」委員をはじめとして各方面で幅広く委員を歴任。
主な著書に『健康経営のすすめ』(社会保険研究所)、『これからの人と企業を創る健康経営』(社会保険研究所)、『健康経営推進ガイドブック』(経団連出版)、『ストレスチェック導入・運用サクセスガイド』(