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行政機関から大学まで地域のリソースをフル活用

長野県松本市で土木工事や造園・建築・舗装工事など手がける株式会社村瀬組は1902年創業。2022年には120周年を迎える歴史ある企業です。大学との連携による健康増進策を進めるほか、県や市の行政サービスを有効活用することで、約30名の社員と社員の家族の健康にも配慮した健康経営を推進。2019年には「健康経営優良法人」の認定も受けています。
今回は、多岐にわたる取り組みについて、同社代表取締役の村瀬直美さんにお聞きしました。





「新3K」を建設業の新たなスタンダードに



― 最初に、御社が健康経営に注力されていった背景からお聞かせください。

最近、多くの日本企業が、健康経営という観点で社員の健康を意識するようになったと思います。当社も先代までは健康は度外視で、実際に健康を害して経営に支障を来たすこともありましたが、従業員の健康が企業の利益にも影響するという事実を少しずつ意識し始め、県や市の指導も仰ぎながら健康第一の取り組みを進めています。その一環で、数年前から、夏場の熱中症対策として水分補給や塩飴の摂取の徹底、十分な休憩時間を確保するなどの対策も行っております。

― その成果はどのように表れていますか?

2020年にはトップダウンではなく社員主導で会社の方針を考え、「感動を与える仕事」「希望にあふれた社員」「健康に働ける職場」がスローガンになりました。「感動」「希望」「健康」の3つのKで「新3K」と呼んでおり、ここに「健康」が入ったこと自体、健康を重視する会社の姿勢が社員に浸透してきた証だと考えています。2019年に健康経営優良企業の認定を受けることができたのも、健康重視の意識改革が達成されたからこその成果だと考えています。



― 屋外作業の多い建設業界では、特に健康には気を使われますよね?

建設業は体が資本ですので、日々の健康管理が不可欠です。近年は若者の建設業離れもあり、求人に苦労しますので、従来からの問題点を自問自答して、県や市の取り組みなども参考に勉強しました。転機は働き方改革を進めた成果として2016年に長野県の「アドバンスカンパニー」の認証を取得したことです。働き方改革が、結果的に健康経営にもつながったのではないでしょうか。

― 具体的な改善ポイントを教えてください。

就業規則を見直して完全週休2日制を導入したほか、残業時間を削減して毎日18時には退勤するよう徹底しました。当社では公共事業の受注が多いのですが、当然ながら工期が決まっています。労働時間を減らしても工期は厳守する必要がありますので、自ずと工程管理の見直しにせまられ、その結業務効率の改善につながりました。すると、2019年には松本市の2件の工事で、当社初となる「優良工事」の認定を受けたんです。社員の健康のための労働時間削減によって、建設業務の質が向上したということです。


大学との連携による科学的アプローチを推進


― 就業規則の見直しという社内制度面での改革のほかに、直接的に身体面にアプローチする取り組みなどはございますか?


松本大学の人間健康学部スポーツ健康学科からご協力をいただいて、社員に運動を促す取り組みを進めています。一人ひとりの基礎体力や柔軟性などをチェックした上で、1日の推奨徒歩数など、運動量の目標値を設定しています。松本大学に旧知の先生方がいた縁にも恵まれ、当社が健康経営に注力していくにあたって、実験と検証に事例を活用していただきました。企業規模的にもサンプルを収集するには丁度いいサイズだったのだと思います。

― 社員の方の意識や行動には何か変化が生まれましたか?

全社員に支給した歩数計で計算された歩数や消費エネルギーのデータを一覧表で見える化することで、社員間に競争意識が芽生え、刺激し合いながら意識向上と運動習慣の定着につながりました。毎日8000歩近く歩くよう生活習慣を変えた従業員もいます。と同時に、データは松本大学でも解析。運動量と体力アップの関連性などを数か月ごとに説明してもらったり、年齢別の全国平均と照らし合わせて「やや運動不足」「柔軟運動が必要」といった個別のアドバイスを受けたりしています。また、松本大学人間健康学部には健康栄養学科もありますので、今後は望ましい食生活に向けたご指導をいただく計画もあります。


社員の日常に切り込む多彩なサービスを有効活用


― 松本大学からのサポート以外で、健康経営につながっていることはありますか?

当社では「健康」や「子育て」「福祉」「防災」など、松本市が運営している150以上の出前講座を受講し、市の担当者から体操の指導から歯磨きまで様々な指導を受けているほか、当社の産業医の先生にも、健康指導をお願いしています。若い社員の中には朝食を抜く社員もいましたが、「みんな必ず朝食は食べましょう」「食事では30回噛みましょう」など、社員の生活習慣にも切り込んだ幅広い話題を提供していただいています。



― そのほかに、産業医の先生からのアドバイスはありましたか?

先生はご専門が精神科だったことから、メンタルヘルスケアについてもご尽力くださっています。パワハラやセクハラに関するセミナーの開催、全社員向けのアンケート結果に基づいた個別のアドバイスなど、上司には直接相談できないような内容についても産業医の先生が相談に乗ってくれています。さらに、その内容を産業医が集約し、経営陣が取り組むべき課題としてご指導をいただくこともあります。

― メンタルヘルスケアによって得られたメリットも実感されていますか?

感覚的ではありますが、社員の表情も社内の雰囲気も明るくなった印象があります。ただ、産業医まかせにするだけでなく、社内でも担当を決めて、パワハラやセクハラに関して相談できる仕組みをつくったり、専門家を呼んで全社員向けの講習会を実施したりと、メンタルヘルスの健全化に向けた取り組みを重視しています。建設業は男社会の雰囲気が強い業界ですが、近年は女性社員も増えていますので、しっかりと教育を行い、せっかく入社してくれた社員がネガティブな感情を抱かないよう全社員の意識付けと行動の徹底に努めています。
地域ぐるみ・家族ぐるみで無理なく楽しく健康に


― いくつものプログラムの相乗効果で社員の健康が維持されていると感じます。

社員の健康に配慮していれば、その家族にも喜ばれます。一方で、家庭内で健康上の不安要素があれば業務にも影響しますので、帰宅後のプライベートでも健康に配慮してもらいたいですし、それならば家族全員を健康にして仕事に集中できる環境を整えていこうという方針です。それも、難しいことをするのではなく、身近なところから始め、無理のない方法で楽しみながら健康になる術を実行していくことが理想です。
例えば、2020年は新型コロナウイルスの影響もあり、社員旅行は中止にせざるを得ませんでした。ただ、その分、懇意にしている地元の旅行会社が太鼓判を押す各地の特産品や、市販の健康飲料や栄養補助食品などをご家族に配布しています。社員が家族団らんの時間を楽しんでもらいたいからです。将来はご家族も一緒に楽しめるイベントを行っていきたいと思っています。

― 地元企業も大切にされていて、地域の絆を感じますね。

コロナ禍で業績が落ちているものの、松本市には浅間温泉があります。温泉は古くから湯治場として活用されてきた歴史があり、再び温泉街が活況になれば、温泉街に向かう道路の整備など、当社の事業にも好影響を及ぼします。地域全体が元気を取り戻し、地域の企業活動を後押しするカギが温泉にあるのです。
だからこそ地域密着型の企業として、楽しく健康になるための取り組みを地域ぐるみで進めるお手伝いをしながら、社内でも家族を含めた健康の維持・増進を継続させていくつもりです。そして、社員とその家族、さらには地域の皆様から「村瀬組でよかった」と思企業であり続けることが使命だと考えています。



〈 プロフィール 〉


株式会社村瀬組
代表取締役 村瀬直美
「健康経営優良法人」の認定に加え、「長野県SDGs推進企業登録制度」や「社員の子育て応援宣言」「松本市災害時サポート事業所」への登録など、地域に根差し、先進的な環境経営や社員に快適な職場環境の整備を追求。プロサッカークラブ「松本山雅FC」の公式スポンサーでもある。

https://www.murasegumi.com