【後編/実践編】良い睡眠のために今日からできること
睡眠不足や良い睡眠がとれていないと心身の健康を損なうだけでなく生産性の低下につながります。そこで取り入れたいのが、現在の自分の睡眠がどのような状態にあるのかを簡単にチェックできる「3DSS(3次元型睡眠尺度)チェックシート」。後編では、その3DSS(3次元型睡眠尺度)の開発に携わった日本大学医学部社会医学系公衆衛生学分野・助教 松本悠貴先生に、チェックシートの活用方法や良い睡眠のために今日から始められる日々の習慣について伺いました。
まずは自分の睡眠パターンを知る
- 自分の睡眠の良し悪しをチェックすることはできるのでしょうか?
一人で手軽に出来るものとしましては、睡眠尺度(睡眠の評価)を用いる方法があります。睡眠尺度といえば、不眠症かどうかを判断する「ピッツバーグ睡眠質問票」や「アテネ不眠尺度」がありますが、私が開発しました3DSS(3次元型睡眠尺度)は自分の睡眠の質や量、リズムがどういう状態なのかが把握できるため、特に不規則で夜型生活の多い、働く現代人のための睡眠チェックとしておすすめです。
- それは具体的にどのように判断するのでしょうか?
睡眠に関する3つの項目で判断します。具体的には、位相(リズム)・質・量の3項目です。
位相(リズム)は、睡眠習慣のリズム(規則正しさ)や、朝型・夜型かをチェックするもの。質は、寝つきの良さや途中で目覚めたりしないかなど、良質な睡眠がとれているかをみるもの。そして量は、自分に合った十分な睡眠時間を確保できているかをみるものです。
良い睡眠がとれていない人や心身に不調を抱えている人は、問題点がどこにあるのかを探るためにも、まずは自分の睡眠状態を知ることが大切です。自分で簡単にチェックできる3DSS(3次元型睡眠尺度)チェックシート(https://www.otsuka.co.jp/suimin/awake/)をぜひ活用してみてください。
経営者の方が社員に対して使う場合は、個人情報の問題もあるので、個々でチェックしてもらうのがいいでしょう。また例えば、睡眠に関する勉強会やセミナーを会社で開催する際に、社員に前もって自分の睡眠のどこに問題があるのかを把握してもらうこともできます。
3DSS(3次元型睡眠尺度)チェックシートで自分の睡眠型を知る
- 3DSSで評価される睡眠のタイプは全部でいくつありますか?
位相(リズム)、質、量の評価によって、8パターンに分かれます。
1.位相、質、量いずれも良い睡眠がとれている「良好型」
2.位相が乱れている「不規則型」
3.質が低下している「質低下型」
4.量が少ない「短眠型」
5.位相が乱れて質が低下している「不規則・質低下型」
6.位相が乱れて量が少ない「不規則・短眠型」
7.質が低下していて量が少ない「質低下・短眠型」
8.位相、質、量いずれも良い睡眠がとれていない「不良型」
に分けられます。
3項目がそれぞれ点数化されるので、どの項目がネックになっているのかも一目瞭然です。
- 現代人に多いタイプはどのタイプでしょうか?
夜更かしが好き、あるいは長時間労働の現代人に多いのは、不規則・短眠型ですね。質はいいけれど、睡眠リズムが乱れていて量が足りていないパターンです。具体的には、仕事がある平日の睡眠不足を、休日に寝だめをして取り返そうとするような生活をしている人は、この睡眠パターンになります。
これはまさに忙しく働く人に多いタイプですね。もちろん、睡眠を貯めることは出来ませんよ(笑)。夜更かしをせず、毎日コンスタントに睡眠時間を確保することが基本です。どうしても休日にたくさん寝たい時、例えば平日より2時間多く寝たいと思った時は、普段より1時間早く寝て1時間遅く起きるといった、睡眠中央値(就寝時刻と起床時刻の真ん中の時間)をずらさない形で寝ると、体内リズムを大きく乱すことなく睡眠時間を確保することが出来ます。
- やはり睡眠は働く環境に大きく左右されるのですね。
働く環境以外にも、家庭環境に左右される場合があります。例えばお子さんをお持ちの働く女性に多いのが、位相(リズム)や質はいいけれど、量が足りていない「短眠型」です。睡眠不足でも子供がいると休日に朝寝坊ができず、結果としてリズムが保たれていても寝不足というパターンになります。このような場合、本人の努力だけではなかなか改善が難しいので、家族の理解や協力も必要になってきます。
-その他、気をつけるべき点はありますか?
それは質です。もちろん、寝具や寝室環境、就寝前の行動等に問題がある場合は、それらを改善することで質も良くなります。しかしながら、それらに心当たりがないのに質が低下している場合、睡眠時無呼吸症候群やむずむず脚症候群など、何らかの病気が隠れている場合があります。
特に多いのは、うつ病のようなメンタルの不調から来るものです。不眠の三大症状である「入眠困難(寝つきが悪い)」、「中途覚醒(途中で目が覚める)」、「早期覚醒(予定より早く起きてしまい、その後寝つけない)」が頻繁にみられる場合は、お早めに医療機関の受診をお勧めします。
良い睡眠習慣を得るためにできること
- 睡眠不足の働く人たちが多い中で、毎日の生活に取り入れられる良い睡眠のためにできる習慣などはありますか?
まずは生活のリズムを整えることです。朝起きたらカーテンを開けて朝日を浴び、体内時計のリズムを整えましょう。
日中は活動的に動いて夕食は20時までにとり、入浴は就寝2時間前に。そして、深夜0時までにはベッドに入ることを心がけください。このとき、スマホはベッドに持ち込まないようにしましょう。目覚まし代わりに使っている人も多いと思いますが、スマホは手元にあるとどうしても触りたくなってしまいますので、できれば目覚まし時計を使うようにするといいですね。
-特に栄養面で取り入れるといいものは何でしょうか?
睡眠に良いと言われているのがトリプトファンという必須アミノ酸です。それが幸せホルモン「セロトニン」のもとになるので、睡眠の質を上げることにつながります。これを摂るには豆腐や納豆といった豆類。植物性タンパク質に由来するものがいいですね。
動物性タンパク質の場合は、ビタミンB6も一緒に摂れるカツオやサンマ、サバといった青魚を摂るようにしましょう。
また、個人的には抗酸化作用のある食材、特にそのままサラダとしても食べられる緑黄色野菜の水菜もおすすめです。睡眠不足の状態が続くと、脳に老廃物が溜まりやすくなり、認知症などのリスクが高くなると言われているので、抗酸化作用のある食材も積極的にとると良いです。
- 先生がおすすめの良い睡眠につながる具体的な方法はありますか?
個人的にはアロマセラピーもおすすめしたいですね。嗅神経からの刺激が脳へダイレクトに作用し即効性があるため、速やかに頭の中をオンからオフに切り替えやすくなります。いろんな香りがありますが、私が好きなのはサンダルウッドの香りです。
寝つきを良くして睡眠の質を高める効果やリラックス効果があります。抑うつ気分を和らげる作用があるといわれている柑橘系のベルガモットの香りとも相性が良いので、混ぜて使うのもいいですよ。あとは、睡眠をサポートするサプリメントを摂取してみるのもひとつの選択です。
当たり前ではありますが、睡眠環境を整えることも大切です。体に合った枕や布団を選ぶ、快適な気温・湿度を保つ、電気やテレビをちゃんと消して寝るといったことです。
日中の運動量が少ない人は適度な運動をし、睡眠の量が少ない場合は、15分でもいいので昼の12時~15時の間で昼寝を取り入れてみてください。
- 逆にやめるべき習慣はありますか?
カフェインの摂りすぎと寝る前にお酒を飲むこと。寝酒は、寝つきはよくなりますが深い睡眠が妨げられて途中で目が覚めやすくなり、結果として十分に睡眠がとれていない状態になってしまいます。前はグラス1杯で眠れていたのに、今は2杯飲まないと…と量も増えていくので要注意です。
まとめ
自分の睡眠状態を知ることは、睡眠に対する意識や日々の生活習慣を見直す大きなきっかけに。快適な眠りを手に入れて心身を健やかに保ち、仕事のパフォーマンス向上につなげましょう。
<【プロフィール】
日本大学医学部社会医学系公衆衛生学分野・助教
松本悠貴先生
医学博士、日本医師会認定産業医。産業保健活動を通し、日頃の睡眠習慣が心身の健康、労働現場における事故や生産性から人間関係の問題まで多岐に渡り関わっていることを労働者に伝え、健康指導を行っている。24時間型社会を生きる現代人の睡眠について疫学研究を行っている。