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【スペシャル対談】従業員の見えない健康課題・片頭痛に経営者はどう向き合うべきか


記事作成者:大塚製薬株式会社 メディカル・アフェアーズ部 CNSグループ 神経領域

頭痛は立派な「病気」であるにもかかわらず、周りの人からは理解されにくく、当事者も我慢してしまっているのが実情です。しかし、片頭痛によるプレゼンティーイズム(※)は非常に深刻な問題となっており、日本では年間3,600億円〜2兆3,000億円もの経済的損失が発生していると推計1)されています。この“目に見えない”健康課題に対して、経営者はどのように向き合えばよいのでしょうか。頭痛の専門医である梅ノ辻クリニック院長・山田洋司医師と、健康経営を推進するNPO法人健康経営研究会の岡田邦夫理事長を招き、それぞれの視点で語り合っていただきました。

※プレゼンティーイズム=欠勤にはいたっておらず勤怠管理上は表に出てこないが、健康問題が理由で生産性が低下している状態。(経済産業省『健康経営オフィスレポート』より引用)




山田 洋司 医師(梅ノ辻クリニック院長)
1981年、神戸大学医学部卒業後、脳神経外科医として様々な病院で数多くの手術を手がける。2001年、高知市にある梅ノ辻クリニックの院長となり、現在に至る。日本頭痛学会専門医・日本脳神経外科学会専門医。著書に『頭痛が治る、未来が変わる!』(三宝出版)がある。



岡田 邦夫 理事長(NPO法人健康経営研究会)
産業医として活躍する傍ら、平成26年度厚生労働省「ストレスチェック制度に関わる情報管理及び不利益取り扱いに関する検討会」委員をはじめとして各方面で幅広く委員を歴任。『健康経営のすすめ』(社会保険研究所)、『なぜ「健康経営」で会社が変わるのか』(共著)など著書多数。




見えない健康課題の放置は優秀な人材を流出させる

――なぜ、経営者は健康経営を通して、片頭痛に対処したほうがいいのでしょうか。


山田洋司医師(以下、山田):片頭痛患者さんを対象とした調査2)によると、74%の方が「日常生活に中等度以上の支障がある」と答えています。実際、私どものクリニックを2021年に初めて訪れた頭痛患者さんも圧倒的に片頭痛で悩んでいる方が多く、「上司が頭痛に対して理解がなく、会社を辞めざるを得なかった」と退職を余儀なくされたケースもよく聞きます。

中には、「片頭痛を相手取って1,000万円くらいの損害賠償の訴えを起こしたい」と言う方もいました。つまり、片頭痛はそんな考えに及ぶほど日常生活を送るのが困難な病気だということ。片頭痛による経済的損失を考えても、経営者には頭痛に対する理解を深めていただきたいですね。

岡田邦夫理事長(以下、岡田):おっしゃるとおりです。今、日本ではプレゼンティーイズムによる労働生産性の低下が非常に大きな問題になっています。その要因が、片頭痛などの痛みや、アレルギー疾患などによるかゆみ、倦怠感、眠気といった「目に見えない」不調です。外傷や、血液検査などではっきりと数値化される異常ではないため放置されることが多いのですが、労働生産性向上のためには見過ごしてはいけないのです。


従業員が健康でなければ会社は良質な労働を得ることができない。良質な労働が得られなければ、良い商品・サービスは生まれません。その結果、会社の価値が下がっていくわけです。その一つの解決策となるのが「健康経営」です。従業員の健康に配慮し、戦略的に実践することで、経営面においても大きな効果が期待できます。実際に、健康経営をしている会社では離職率が低い傾向にあるとの調査結果3)もあります。

――現状、片頭痛のような目に見えない健康課題に、会社はしっかり取り組めているのでしょうか?

岡田:少子高齢化による人財不足の問題もあり、会社は大切な従業員を失わないためにはどうすればいいのかを真剣に考えるようになっています。さらに、経済産業省による健康経営度調査でも、従業員への教育の内容に片頭痛や肩こり・腰痛、メンタルヘルスといった目に見えない健康課題についての項目があり、会社も産業保健スタッフと共に、一つひとつの病気に対して配慮できているかを確認する動きが広がっていると感じます。

山田:そうですね。クリニックを訪れる患者さんを診ていると、十数年前と比べて今はだいぶ変わってきたという実感があります。以前は、「頭痛を理由に休みたいとはなかなか言い出しにくい雰囲気が会社の中にある」とよく聞きましたが、最近は「ちゃんと休ませていただいています」という患者さんが増えています。傷病手当金の支給申請書に記入する機会も多いですね。しかし一方で、「私がいなければ仕事が回らないので休めません」と頭痛を我慢して必死に働いている方もまだまだたくさんいらっしゃいます。

岡田:中小企業は特にそうですよね。誰一人として病気になってもらったら困るわけです。そこで、「予防すれば、従業員が元気に働き続けられる」という考え方にシフトして健康経営に取り組むようになった中小企業も最近は増えてきました。

山田:そのように推進している会社が増えたというのは、非常に嬉しいですね。


不調を抱える部下に目を配り、労働生産性向上につなげよう

――見えない健康課題を持つ従業員に働きやすい環境を提供するには、どのようにすればいいのでしょうか。経営者ができることがあれば教えてください。


岡田:まずは、社内の見えない健康課題を最初に発見できる立場である管理職への健康教育が重要です。管理職が部下の健康課題をきちんと把握し、職場の健康推進ができれば、会社の労働生産性を上げる近道にもなります。

また、具合が悪いときに無理をして働かせた結果、3カ月の長期休業を余儀なくされるよりも、今日は帰って明日また元気に働いてもらったほうが、会社にとってメリットが大きい。体調不良を分かっていながら働かせると、訴訟のリスクも出てきますから。のちのち問題が発生しないように、体調が悪そうな部下がいたら「もう帰りなさい」と管理職が先手を打つのが一番いいのです。

すると、従業員は「この会社は良い会社だ」という心理的な安心感が生まれ、会社への信頼度と「会社に貢献しよう」という意欲が高まり、それが労働生産性につながります。
ですから、部下から目には見えない不調を申告されたときは、医療機関を受診するほどのことではないと判断しても、管理職は部下を信用して、きちんとケアすること。それが、会社を成長させる非常に大きな原動力となるのだろうと考えています。

山田:私もまったく同感です。岡田先生のおっしゃるように、経営者は目の前の結果を追い求めるよりも、もっと長い目で見て対処していくことが大切です。例えば、片頭痛患者さんは、発作時、あまりの痛みで動けないので、じっと机にうつぶしていたり、休憩スペースで横になったりしていることがあります。

その姿を見て、上司が「大丈夫か」と気にかけてくれたり、「帰りなさい」と促してくれたりするような思いやりが職場にあると良いですね。こうして従業員一人ひとりが、健康に不安があっても楽しく働けるよう健康経営に取り組むことは、会社の繁栄にもつながるのではないでしょうか。

――管理職からの声かけ以外で、頭痛を持つ従業員から病気を打ち明けられたときのより良い対処法はありますか?


山田:頭痛の悩みを打ち明けられたときには、ぜひ病院への受診を勧めてください。というのも、片頭痛患者さんの多くが、つらい頭痛があっても市販薬で対処してしまい、病院へ行こうという発想がないのです。

今、片頭痛には非常に良い治療法があります。発作時の痛みを取る急性期治療薬、そして発作自体を起きにくくするための予防治療薬など、医療機関なら処方できる薬があります。患者さんからも「治療によって頭痛が半分くらいになり、それだけで人生が変わりました」といった声を聞きます。

適切な頭痛治療にたどり着けていないいわゆる「頭痛難民」を減らすためにも、経営者や管理職の方々には「病院に行けば良い薬があるらしいよ」と受診を促すひと言をかけてもらいたいですね。また、頭痛の中には命に関わる頭痛もありますので、放置せずにできる限り早く受診することが大切です。

岡田:私も山田先生と同じ意見です。産業医の立場としても、従業員から相談があれば「まずは専門医を受診してください」とアドバイスします。
例えば「深夜勤務をすると具合が悪くなる」「寒い日に外へ出ると体調が崩れる」など就業上の措置が必要な場合は、主治医に診断書を出してもらい、それをもとに私たち産業医が会社に対して意見書を出すことになります。

最近は産業医や保健師がいない中小企業でも、経営者・管理職の方が専門医への受診を促しつつ、診断結果を踏まえて、どのように配慮したら快適に働けるのか、あるいはしばらく休んだほうがいいのか、従業員とコミュニケーションを密にとりながら対処する会社も増えてきています。

山田:ちなみにつらい頭痛に悩まれている方は、私どものクリニックのように「頭痛外来」を掲げている医療機関を受診するのがおすすめです。というのも、頭痛に悩まれている方は脳神経外科や脳神経内科あるいは一般内科などを受診されると思うのですが、頭痛にはくも膜下出血、髄膜炎のような原因となる疾患がある一方で、検査では異常はなくとも、治療の困難な片頭痛がとても多いのです。頭痛といっても原因や症状、治療法はさまざまですので、頭痛診療に精通している医療機関を探していただきたいですね。もしかかりつけ医があれば、その先生に相談し、専門医を紹介してもらうのもいいでしょう。

岡田:適切な医療機関を受診することは重要ですね。今は一般の人もインターネットで検索をして口コミなどから専門医を探せる便利な時代になりましたが、我々産業医も、見えない健康問題を抱える従業員の方たちがきちんと専門医にたどり着けるようなサポートをする責任があると思っています。


今後10年、20年先の持続可能な会社であるために必要なこととは

――従業員が元気に働き続け、会社として利益を出し続けるために意識すべきことはなんでしょうか?


岡田:経営的な視点で考えると、まずは従業員が元気に働き続けるための「快適な職場環境作り」を意識しましょう。これは、体調不良などの“予防”にもつながります。基本的なところでは、オフィスの湿度や温度を適切に管理すること。パソコンなどのディスプレイを使った作業が多い職場であれば、机や椅子、ディスプレイの配置の工夫、労働時間の管理も大切です。なぜなら、過重労働がきっかけで、不調を誘発することも多いからです。きちんと休憩がとれるような職場の雰囲気作りが必要です。

山田:快適な職場環境を整えて予防するという考え方には大賛成です。「頭痛の種」という言葉がありますが、まさにその通りで、ストレスや気がかりなことが続くと頭痛は起こりやすくなります。ですから、会社側が環境を整える努力をするのはもちろんのこと、見えない不調に悩んでいる方自身も、「どういうことがあったときにストレスを感じるのか」など自分の心に向き合い、把握することも、頭痛を予防する一つの方法ではないかと感じています。

――最後に、今後10年、20年先の持続可能な会社であるために、健康経営の視点で、目に見えない健康課題にどのように向き合うべきでしょうか。

岡田:今後は、従業員が自分の適性や専門性、年齢や健康状態に合わせて仕事を選んでいく時代に移行するので、部下をコーディネートできる管理職を会社がきちんと育てていかなければならない時代になっていくと思います。もちろん、「ノーワーク・ノーペイの原則」がありますから、会社としても従業員に対してある程度のノルマは求めていくわけですが、それ以外の部分に関しては、従業員が病気を持っていようとも最大限パフォーマンスを発揮できるような働き方の選択肢を用意することが、将来的に持続可能な発展を確保できるのではないかと考えています。

実際、コロナ禍でテレワークを導入した結果、特定の疾患を有する従業員の方がゆとりを持って仕事をできるようになり、労働生産性が急激に上がったという事例もあります。一方で、在宅勤務の孤独感に耐えきれず、うつ病を発症した方もいますので、まずは従業員一人ひとりが自分に合った働き方を相談・実行できる体制を整える必要があると思います。

山田:私が日々、頭痛外来で患者さんに接していて思うのは、頭痛がどれほどつらいものなのか、なかなか周囲に理解してもらえず苦しんでいる人が多いということです。頭痛をはじめとする、一見他の人にはわかりにくいつらい症状を持つ方々が、安心して働けるよう、日々思いやりを持って接してもらいたいですね。



≪出典≫
1) Shimizu, T. et al . : J Headache Pain. 2021 ; 22(1) : 29.
2) Sakai F et al. Cephalalgia 1997; 17: 15-22
3) 第20回健康投資WG 事務局説明資料① 平成31年3月28日 経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課

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