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活動中でも活動後でもなく、「活動前」が決め手。 水分+電解質補給に加えてプレクーリングとの組み合わせでより有効な熱中症対策を



もうすぐ夏。日本でも35℃を超える日が当たり前に続くようになりました。健康経営を志す経営者の方々にとって、心配なのが従業員の熱中症対策でしょう。屋外労働などの現場を持つ企業ならなおさらです。そこで注目したいのが、作業開始前に深部体温を下げる「プレクーリング」。厚生労働省も推す(※)この対策を先んじて実施する日本青年会議所建設部会 部会長 髙橋圭さんと、直前部会長 西村大仁郎さんに、その効果と意義を伺いました。

※令和5年「STOP! 熱中症 クールワークキャンペン」。





エアコンなしで40℃以上になる鉄工工場

―建設業である両社は、夏場の暑さ対策には、そもそも大きな課題感を持っていらっしゃったのではないでしょうか。

西村 おっしゃるとおりです。私が代表を務める中越鉄工は、鉄構部、建築部、土木部の3つの事業を手掛けています。

中でも鉄構部は橋梁や鉄道駅など、巨大建築でも使う鉄板や鉄骨を溶接してつくる工場があり、夏場は工場内の温度が平均40℃にまで上がりますからね。

―40℃とは厳しいですね。空調設備はついていないのですか?

西村 溶接は「風」が大敵だから、つけられないんですよ。風に拭かれたホコリやゴミが溶接部に付着すると、溶接欠陥が発生して強度が下がるのです。

しかも作業中は火花が飛び、ヤケドを避ける意味で、作業員は必ず長袖の作業着にマスク、さらに上から防護服を着ます。カラダの熱が防護服内に籠もりやすく、汗も蒸発しないため、本当に危ない状況になりえます。


日本青年会議所建設部会 2023年度 直前部会長
中越鉄工株式会社・代表取締役社長
西村大仁郎(にしむら・だいじろう)さん

1982年生まれ。不動産会社で転勤族として勤務後、地元である富山県南砺市にUターンし、中越鉄工株式会社入社。2022年度より健康経営に取り組み始め、建設業での重要性を感じ、社内浸透を実施している。

―本来、汗をかいてそれが蒸発すると体温は下がりますが、それがしづらい。熱中症リスクが極めて高い環境です。一方の高橋さんの会社は、土木工事を主に手掛けられているそうですね。

高橋 はい。弊社は宮城県仙台市にある髙工という会社で、主に仙台市や宮城県の公共工事を請け負っています。下水道や公園施設、あるいは道路などの整備や施工を行っています。必然的に現場は屋外になりがちなので、夏場の暑さは本当に厳しいです。

加えて、従業員も高齢化が進んでいるので、熱中症のリスクはより高く、死傷災害につながりかねません。できる限りの対策を可能な限り実践するようにはしてきました。

―具体的には、どのような対策を行っているのでしょうか?

高橋 現場には必ずテントを貼って、日陰のできる休憩所を確保。充電式のポータブル冷蔵庫を持ち込み、冷えたドリンクを置いて水分補給を欠かさないようにしています。

また暑さ指数をあらわすWBGT値が測れる計測器を必ず設置して、既定値を超えたら作業を止めるようにしています。


日本青年会議所建設部会 2023年度 第57代部会長
株式会社髙工・代表取締役
髙橋圭(たかはし・けい)さん。

1984年生まれ。東北福祉大学卒業後、2017年株式会社髙工代表取締役就任。土木工事業を行い、街のインフラ整備から地域や仙台市の発展に貢献する。また従業員の健康づくりの一環としてバランスの良い食事をとれる社食導入を進める。

西村 弊社も工場の冷蔵庫に麦茶と「ポカリスエット」を常備して、休憩中に飲むように指導しています。また早くから、ファンのついた空調服を全員に支給してきました。

高橋さんがおっしゃったように、建設業界は現場も含めて高齢化も進んでいます。熱中症のリスクは本当に高まっているので「やれる対策は何でもやる」意識が強いですね。

「健康経営」の観点からも、暑さ対策に力を入れ、ケアすることは欠かせないと感じています。

―両社は、その健康経営にも力を入れていらっしゃいますね。

西村 はい。健康経営に軸足を動かした理由は、働く人たちにとって「幸せな労働環境」を提供していきたいという思いが強くあるためです。

そもそも労働人口が減っているうえ、弊社があるのは富山県の南砺市という、特に人口減少が激しい地域です。貴重な人材の方々に長く、幸せに働いてもらう努力を続けなければ事業がなりたちません。

「では幸せな働き方とは何か?」と考えると、収入や休暇も重要ですが、根底に「健康」がなければ、何もできないと考えました。そこで、健康経営優良法人の取得だけでなく、暑熱対策も徹底的に行ってきたのです。

高橋 加えて建設業、とくに我々のような土木業界は外で働く「キツい」といったイメージが強いですからね。採用面を考えても、健康経営を標榜して、環境を整えることは必須かと考えています。熱中症にならないよう、暑さ対策を常に考えて実施しているのもそのためです。

だからこそ、2021年から実践されているアイススラリーを使った「プレクーリング」も早くから実践されていたのですね。

西村 そのとおりです。「作業前に冷やす」のが効果的とは、知りませんでしたし、試してみる価値はあるなと感じました。



「飲む氷」で、内からも外からも冷やす

―プレクーリングは活動中や休憩中ではなく、活動前にクーリングによって深部体温を低下させるアプローチです。体温の貯熱量が大きくなるため、活動に入ってから体温が上がりにくくなります。

西村 
最初に大塚製薬からプレクーリングの考え方を聞いたときは驚きましたし、疑心暗鬼でもありました(笑)。

実際、「アイススラリー」は独特の粘度がある細かな氷で、ゆっくりと張り付きながら流れる性質があるそうです。「あ、コレはカラダの内側から効果的に冷やしてくれるな」と実感できました。

就業前の中越鉄工の従業員のみなさん。
溶接の火花が散り、夏場はかなりの高温に。

―工場のみなさんの反応はいかがでした?

西村 最初に「アイススラリー」を作業前に飲んでもらったときは「飲んだ途端に涼しくはなるけれど……最初に飲む意味があるの?」「よくわからないなあ」といった感じでした。

しかしシーズンを終えた後に、あらためてリサーチすると「そういえば、今年の夏は少し楽だった」「活動前に飲むのが習慣になった」とポジティブな声が集まりました。定量的なデータをとったわけではありませんが、プレクーリングの浸透をはかることができたように感じました。

飲むタイミングというアプローチの新しさと意義を、しっかり伝えられたのも良かったと感じました。

―高橋さんも同じく、「アイススラリー」を使ったプレクーリングを、一昨年前から現場で行われていますよね。

高橋 本当に評判がいいですね。やはり「凍ったものを現場に持ち込む」スタイルがこれまでなかったので、とても喜ばれました。西村さんもおっしゃったように、粘度の高い飲む氷が、カラダの芯から冷やしてくれる感覚があります。

エアコンなどで外部冷却するだけじゃなく、内側から深部体温を冷やすことは、より熱中症対策に効果的だと伺い、また現場にも伝えながら、効果も感じてもらえていました。そうした知識と共に実践してもらえたことも、現場のみんなが「じゃあ、やってみようか」と積極的に摂ってくれた一因になっている気がしますね。



―また暑い時期がやってきます。

西村 5月、6月といったまだ体が高温に慣れていない時期にこそ、熱中症のリスクは高いと言われます。そのため、4月くらいから早めに準備して、今年もプレクーリングを徹底させていきたいですね。

高橋 日本青年会議所建設部会は、私のような建設会社はもちろん、幅広く建設産業に関わる方が多いです。ぜひプレクーリングを試してみていただきたいし、建設業のみならず、酷暑続きの日本の夏に、安心・安全に働いていただく意味でも、早い段階から熱中症対策をおすすめします!