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【連載第17回】上司のワクワクが、メンバーの働きがいを高める

健康経営を進めるうえでも、生産性を上げるためにも、欠かせないキーワードになっているのが「ワーク・エンゲイジメント」。ワクワク仕事に取り組んでいる状態を指します。チームメンバーにそんな理想的な状態で働いてもらうには、何をしたらいいのでしょう。

この連載では、公認心理師として多くの企業でメンタルヘルス対策のサポートをしている株式会社ハピネスワーキングの船見先生に、メンタルヘルス向上の具体策をご紹介していただきます。





働きがいが低い国・日本

メンタルヘルスにおいて近年、ワーク・エンゲイジメントが非常に注目されています。ワーク・エンゲイジメントとは、オランダ・ユトレヒト大学のシャウフェリ教授らが提唱したもので、「仕事から活力を得ていきいきとしている」(活力)、「仕事に誇りとやりがいを感じている」(熱意)、「仕事に熱心に取り組んでいる」(没頭)の3つが揃った状態を表す概念です。つまり、いきいきわくわくと、働きがいをもって仕事をすることです。

働きがいに関する調査においては、日本は諸外国と比較して低い傾向が続いています。仕事満足度も幸福度も相対的に低いことは、ご存じの方も多いことでしょう。働き方改革が進めど、メンタルヘルスの問題もハラスメント問題も減少しないのは、日本人の働き方が幸せになっていないからではないでしょうか。

多少忙しくても、働きがいをもっていれば健康に働くことができます。では、いかに働きがいを高めればいいのでしょう。

私がコンサルテーションを行っている企業の中に、ストレスチェックの集団分析(組織ごとの結果)が毎年非常に良好な部署があります。とても多忙な部署なのですが、人間関係も健康状態も、そしてワーク・エンゲイジメントも、ほとんどすべての項目が、他部署と比較して非常に良好なのです。
毎年、その部署のS部長とお話させていただいていますが、とにかく明るく、気さくで、よくお話をしてくださる方です。メンバーとも心を開いてお話をなさっているのだろうということが容易に想像できる。そんな方です。

「なぜ毎年こんなに結果が良好なのでしょう?」

私の問いかけに、彼はこう答えます。
「とにかく楽しく仕事しようと、常にメンバーに言っています。そして、仕事の与え方については、一部分だけを担ってもらうのではなく、プロセスすべてに関わってもらうようにしています。一連の流れに携わることで達成感を味わえますし、仕事のコントロール度(裁量度)も高まります」

働きがいを高めることが本当の働き方改革
楽しく仕事をするという感覚をプラスに捉えている人は、日本には少ないのかもしれません。私がお話をする管理職の中には、「仕事はつらいもの」「仕事を楽しいなどと考えようとしたこともない」と言う方が結構な割合で存在します。しかし、人生の大部分を占める仕事の時間を「つらい」と捉えているとしたら、それこそ人生そのものがつらくなってしまいます。そんな上司の姿を見ているメンバーは、もっとつらくなることでしょう。

ワーク・エンゲイジメントの研究においても、上司のエンゲイジメントが低い状態だとチーム全体のエンゲイジメントが下がるという結果が出ています。逆に、上司が働きがいをもっていると、メンバーの働きがいとチームの生産性が高まる傾向があるということもわかっています。

S部長自身、とても高い働きがいをもっている様子でした。部署の集団分析が良好な理由の大きなひとつは、そこだと感じます。
私が出版社で働いていたときの上司も、とても楽しそうに仕事をする方でした。その姿を見ていた私は「仕事って楽しいものなのだ」と思うようになり、時間を忘れて毎日働いていたものです。雑誌編集の仕事はハードワークでしたが、それでもとても健康でした。他のメンバーも同様でした。上司のワクワクは、ことほどさようにメンバーたちに伝播していくのです。

また、S部長がしているように、仕事のコントロール度を高める工夫も大切です。自分なりのやり方を反映させられない仕事を続けていると、やらされ感が高まります。そしてそれは、メンタルヘルスの不調にもつながっていきます。
ルーティンワークであろうと、手順通りに進めなければいけない仕事であろうと、自分なりの工夫をすることはできます。メンバーの意見を反映させてやり方を変えることだって可能です。
メンバーたちが仕事をコントロールできている状態か、彼らの意見を聞いているか、今一度振り返っていただくといいかもしれません。

働きがいを高めることこそが、本当の意味での働き方改革ではないでしょうか。メンバーがワクワク幸せに働く職場を作るために、まずはリーダー自身がワクワク幸せに働くことを大切にしていただきたいと思います。


【プロフィール】


船見敏子(ふなみ・としこ)

株式会社ハピネスワーキング代表取締役。
公認心理師、1級キャリアコンサルティング技能士、産業カウンセラー。
雑誌編集者を経て現職。産業分野を中心に、組織コンサルテーション、カウンセリング、研修などを実施し、職場のメンタルヘルス向上のサポートをしている。これまでに約1000社、10万人のメンタルケアに携わってきた。著書に『言い返せない人の聴き方・伝え方』(日本能率協会マネジメントセンター)、『幸せなチームのリーダーがしていること』(方丈社)など。

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