見出し画像

設計事務所での働き方を見直し、これからを変えていく

石川県金沢市の株式会社アルパイン設計事務所は、産業用機械の構造設計や電気制御の設計支援などを手掛け、1986年の創業以来、徹底して従業員の健康に配慮した労働環境を追求してきました。従業員約70名の健康診断とストレスチェックの受診率は長年にわたって100%が維持され、2017年に石川県から「健康づくり優良企業知事表彰」を受章されて以来、2018年には「いしかわ健康経営宣言企業」の認定を取得し、2018年から2020年まで連続して経済産業省の「健康経営優良法人」に認定されています。
今回は、同社の創業者で代表取締役の西村光也さんに、健康経営を推進する原動力となった信念や経緯についてお聞きました。





創業当時の激務から健康経営の重要性を痛感

― 現在、御社が行なっている「健康経営」の取り組みは、創業以来の方針なのでしょうか?

アルパイン設計事務所 西村社長(以下、西村):創業当時は「健康経営」という言葉はありませんでしたし、実態として、労働時間が長く、過重労働のような状況でした。設計は1人で図面を描き、1人で完結させられる仕事です。少ない従業員で事業をまわしていくためには、案件をコツコツと仕上げて納入するしか道はなく、激務もやむを得なかったんです。
ただ、こんな経営をいつまでも続けたいと考えていたわけではありません。社員が健康であってこそ良い設計が出来、安定した会社経営が出来ると常に思っていますので、一人ひとりが仕事だけに時間と労力を費やすのではなく、自分の時間を持ち、体も心も健やかな生活を送った上で仕事をする、という状態にしたかったのです。この考えが、今の健康増進に向けた取り組みにつながっていると思います。



設計での斬新なアイデアは、健康でなければ生まれない
― 設計という仕事は、頭をフル回転させて図面と格闘するわけですよね?

西村:設計は考える仕事ですので、集中力と想像力が不可欠です。健康であってこそ前向きな思考につながり、斬新なアイデアも生まれます。メリハリをつけて休む時はしっかり休んでリセットし、心身をベストな状態でキープしなければなりません。
幸いなことに事業が軌道に乗るにつれて社員も増え、効率的な分業体制に移行できたので社員の心身の疲労も軽減されていきました。しかし、まだ十分とは思っていません。健康づくりの基本は十分な睡眠です。きちんと休憩や睡眠をとり、心身の疲れを解消して仕事に向き合えるようさらに働き方の改善を続けて行きたいと思っています。

― 社員をとても大切にされているのですね。

西村:約70名の社員は、誰一人として欠くことのできない貴重な戦力であり、仲間です。仕事の結果も個人の力量が大きく影響するので、社員が最高のパフォーマンスを発揮できる環境づくりを進めることが私の責務なのです。
実際には職人気質で昼夜を厭わず業務に励むベテランの技術者や、頑張るあまり睡眠時間を削ってまで図面に向き合う若手社員もいます。体調不良を起こさないよう常日頃から健康への意識は高めていかなければなりません。そして、会社の将来を担う若い技術者にとっては、魅力的な労働環境であるために、彼らや彼女らの声に耳を傾けながら、柔軟に会社を変えていくことが必要です。一朝一夕で実現する話ではありませんが、一歩ずつでも着実に変化していくため、積み重ねが大切なのだと思います。

― 健康第一の取り組みを進めるトップのリーダーシップとともに、社員の声を反映させようとする風通しのよさを感じます。

西村:若い社員の意見に真摯に向き合い、尊重する風土があってこそ、会社は変革し、成長していけるのではないでしょうか。そのために私は、若い社員とのコミュニケーションの場として、定期的に勉強会を開催しています。ただ、勉強会といっても設計に関するものだけでなく、個々の趣味などテーマはさまざま。実は、普段は上司の指示に従い受動的に業務をこなしがちな若手社員に、思ったことを自由に発言する機会を与えたいのです。その時の私は聞き役に徹し、新たな気づきを経営に活かしていきます。



“座りっぱなし”の設計業務。運動不足は楽しみながら解消

― では、より具体的な対策について、設計業務に特有の健康リスクと併せてお聞かせください。

西村:設計は1日中パソコンに向かって図面を描くデスクワークが中心のため運動不足に陥りがちです。また、ひたすら図面を見て考え続けていると、思考回路が飽和状態になることも多く、気持ちの切り替えを促す精神的なケアも必要になります。
当社では、健康経営を管轄する安全衛生委員会が、課題解決に向けた大枠の流れをつくり、前年度の反省を踏まえ、年度始めに運動不足解消のためのスポーツイベントや、健康意識向上のためのセミナー企画など年間の計画を立てます。
スポーツイベントでは、これまでにバレーボール大会やボーリング大会などを開催しました。運動を楽しみながら社員間の交流も活発にしたいと考えており、イベントによって新たなコミュニケーションが生まれ、業務遂行や健康管理にも活かせています。


― イベントを開催して終わりではなく、その後につながるステップとして活かされているのですね。

西村:健康運動指導士の先生によるストレッチ講座がきっかけとなって、午後の業務開始前に肩こり対策の体操やラジオ体操をするようになった社員もいますし、昼休みにウォーキングに出かける社員や、座りっぱなしを回避すべく“スタンディングスタイル”で打ち合わせをする社員も出てきています。私自身も、イベントをきっかけに毎日欠かさず腰痛対策のスクワットやストレッチを行い、もはや生活の一部になっています。
社員向けセミナーでも同様の変化が生まれました。2019年度は大塚製薬さんにお越しいただいて「熱中症対策」と「睡眠」をテーマに2回行いました。睡眠セミナーでは、配布されたチェックシートをもとに睡眠傾向を把握し、傾向別の対策もレクチャーしていただいたことで、睡眠改善の起点になっているようです。
こうしたスポーツイベントやセミナーの参加人数は増加傾向にあり、「こんなセミナーに出てみたい」「こんなスポーツイベントがやりたい」といった声もあがっています。イベントを開催するごとに、社員の健康や仲間意識が高まっている実感があります。特にスポーツイベントは若者が発起人となって企画されることもあり、自由に意見を言える社風の現れだと感じています。


リモートワークを当然の権利とする働き方改革を推進

― 喫緊の課題として、コロナ禍での取り組みもお聞かせください。

西村:社員を守るために原則としてオフィスの分散を決断し、テレワークを最大限活用しています。リモートでも社員間のコミュニケーションは維持され、お客様とも打ち合わせができ、案件は途切れていませんので、一時的な措置ではなく、今後はこのスタイルが標準的な働き方になると思います。
加えて当社には、通院治療中の社員や子育て中の社員、自宅で介護をしている社員もいます。個々の状況に応じて働く場所を柔軟に選択できるよう、多様性を尊重する働き方が理想ですし、それが社員にとって当然の選択肢となるように心掛けています。

― 最後に、今後の方針をお聞かせください。

西村:健康診断とストレスチェックの受診率、受検率100%を維持しながら、スポーツイベントやセミナーを実施していく方針に変わりはありません。当社にとって当たり前のことに今後も取り組み続けていくつもりです。たとえ社員に「自分の会社は健康経営をしている」という明確な認識がなくても、健康を意識した働き方が当たり前で、安心して働けると思われる会社であり続けたい。これが私の願いです。

〈 プロフィール 〉


株式会社アルパイン設計事務所
代表取締役 西村光也

コーポレートスローガンは「鍛える」「応える」「進化する」。「お客様の要望以上の技術提供」を目標に掲げ、技術レベルの向上に励む技術者集団であり、食品加工装置から電子部品組み立てライン、消防車両、半導体製造装置、原子力関連設備まで、多岐にわたる産業用機械の設計を手掛けている。
https://www.alpain.co.jp/