【連載第1回】あいさつで、職場の健康度を高めよう
健康経営を進めるうえで欠かせない取り組みのひとつが「職場のメンタルヘルス対策」です。ストレス要因が多い現代、メンタルヘルスケアは私たちの必須スキルと言っても過言ではありません。
また、組織においては、不調の早期発見・早期治療だけでなく、従業員がストレスを抱え込まず健康にイキイキと働ける環境を整える対策が非常に大切です。とはいえ、いったい何から始めればいいのかお悩みの方も少なくないでしょう。
この連載では、公認心理師として多くの企業でメンタルヘルス対策のサポートをしている株式会社ハピネスワーキングの船見先生に、メンタルヘルス向上の具体策をご紹介していただきます。職場のメンタルヘルス対策は多岐にわたるうえ、目に見えないココロに対応していくのはとても大変だ、と思われがちです。しかし「今日から始められるカンタンなこと」の積み重ねで、より健康な職場環境を目指すことができます。トライできそうなことから気軽に始めてみませんか。
あいさつで、職場の健康度を高めよう
連載第1回は、健康経営の要ともいえる「コミュニケーションの促進に向けた取り組み」の具体策をご紹介します。あたりまえのことだけれど忘れがちな、コミュニケーションの「いろはのい」です。
あいさつは、存在を認める行為
いきなりですが、クイズです。
子どもはよくできるのに、大人になるとできなくなることはなんでしょう?
答えは、そう、「あいさつ」です。
私は、公認心理師としてさまざまな企業を訪問していますが、「あいさつしない従業員が多いんです」という嘆きを耳にすることが少なくありません。若手はあいさつするのに、ベテランたちは無言で席に着く、などという職場もあるようです。
恥ずかしい、面倒、「あいさつは下の者が上の者にするものだ」という思いこみなど、さまざまな思いがそこに隠れているのでしょうが、目の前に人がいるのに気持ちよくあいさつをしないのは、ちょっと寂しいですね。
あいさつ=挨拶は、禅の「一挨一拶」という言葉から派生したと言われています。挨は「押し開く」、拶は「すり寄る」ことを表し、互いにココロを開き、ココロを寄せるといった意味になります。あいさつを気持ちよくすることで、ココロの距離が近くなる感覚を誰もが感じたことがあるでしょう。
それだけではありません。
あいさつは、相手を認める行為でもあります。声をかけることで、「あなたの存在を受け入れますよ、あなたはそこにいていい人なのですよ」というメッセージを無意識に伝えているのです。ゆえに、私たちはあいさつをしてもらえないと、存在を否定されたかのような悲しい気分になるわけです。
ストレスチェック結果が良好な職場は、あいさつを徹底している
あいさつがメンタルヘルスと非常に深い関係があることは、以上のことからもご理解いただけると思いますが、ひとつ興味深いエピソードをご紹介しましょう。
ストレスチェックの組織分析の結果がとても良好な企業を訪問したときのことです。受付、警備の方はもちろん、すれ違う従業員が全員、「いらっしゃいませ」「こんにちは」と元気にあいさつをしてくださいました。来訪者に気持ちよくあいさつできるということは、普段から従業員同士が気持ちよくあいさつしあっていると推察されます。実際、その企業のストレスチェックの「人間関係」の項目は、とても良好な値でした。
逆に、あいさつをしてくれないどころか、私が入り口で迷っていても誰ひとり声をかけてくれない企業もありました。ストレスチェックの結果があまり芳しくなく、高ストレス者も多い企業でした。
多くの企業の組織分析を見てきましたが、ストレスチェックの「人間関係」の項目が高い組織ほど、全体の結果が良い傾向が見られます。職場内のコミュニケーションが良好なら、仲間意識が生まれ孤立しにくくなります。また、仕事や悩みを抱え込みにくくなるため、従業員のストレスは軽減するのです。
あいさつは、職場コミュニケーションを促進するための第一歩。コミュニケーション向上のための方策はさまざまありますが、まずはあいさつの徹底から始めてみてはいかがでしょうか。気づいた人が率先して行ってもいいですし、職場内であいさつのルールを見直し、「あいさつ係」が手本を見せるなどしてもいいですね。
あいさつできる子どもは、とてもイキイキしています。子どもの頃を思い出して元気にあいさつしあうことから、健康経営を始めてみませんか。
【プロフィール】
船見敏子(ふなみ・としこ)
株式会社ハピネスワーキング代表取締役。
公認心理師、1級キャリアコンサルティング技能士、産業カウンセラー。
雑誌編集者を経て現職。産業分野を中心に、組織コンサルテーション、カウンセリング、研修などを実施し、職場のメンタルヘルス向上のサポートをしている。これまでに約1000社、10万人のメンタルケアに携わってきた。著書に『言い返せない人の聴き方・伝え方』(日本能率協会マネジメントセンター)、『幸せなチームのリーダーがしていること』(方丈社)など。