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【連載第15回】ほめ言葉で、メンバーのウェルビーイングを高める

ほめて伸ばすことの重要性は浸透してきたものの、残念ながらほめ上手な方にはあまりお目にかかりません。日本人はまだまだほめ下手から脱却できていないようです。ほめることは健康経営にも大きな役割を果たしてくれます。職場にほめる文化を育ててみませんか?

この連載では、公認心理師として多くの企業でメンタルヘルス対策のサポートをしている株式会社ハピネスワーキングの船見先生に、メンタルヘルス向上の具体策をご紹介していただきます。





ほめることは、ちゃんと評価すること

職場ストレスの要因に関する調査結果を見たところ、「上司から評価されないこと」が上位にランクインしていました。カウンセリングでも、「上司がいいとも悪いとも言ってくれないので、本当にできているのか、今のままでいいのかわからずストレスに感じる」という声を聴くことが少なくありません。
私がカウンセラーになった20年前から、「評価」に関する状況はほとんど変わっていないと感じます。日本のリーダーたちは、昔も今も部下をほめていない、ということです。

そもそも、ほめるとはどういうことでしょうか。
ほめるというと、目上の者が下の人を称賛する、いわゆる上から目線の行為であるというイメージが強いようです。ですから抵抗感があるのでしょう。

しかし私がここでお伝えする「ほめる」は、少し意味合いが異なります。

カウンセリング用語に「コンプリメント」という言葉があります。称賛することのほか、敬う、肯定するといったニュアンスも含みます。決して上から目線の態度ではなく、相手のいいところ、素晴らしいところ、尊敬すべきところ、そして普通に行っていることなど、あらゆることを肯定的に捉え、それを言語化して伝えることを意味します。
あたりまえのことも含めて、ちゃんと評価すること。それが、「ほめる」です。

評価してもらえなければ、メンバーは自分の仕事に自信がもてません。
また、ある研究によれば、上司が部下をほめることは、部下の幸福度を高めるという結果が出ています。ほめることはメンバーの自信とモチベーション、そしてウェルビーイングを高めるのです。健康経営に直結する行為と言えるでしょう。
ほめ言葉は、人の心を動かす
私が記者をしていた頃のエピソードをご紹介します。
注目を浴びていた起業家を取材したときのことです。取材後、事実に間違いがないかどうか確認してもらうために、原稿を送りました。すると早々に返信があり、このようなことが書かれていました。

「先日はとても楽しい取材をありがとうございました。船見さんが聞き上手なので、ついつい話し過ぎてしまいました。○○のところは、実は~~ということなので、少しニュアンスを変えていただけると嬉しいです」
取材が楽しかったことに加え、私へのほめ言葉が書かれていたのです。
これにはとても感激しました。

というのも、ほとんどの人は、原稿チェックの段階で、取材時のことや原稿全般に対する感想などをフィードバックしてきません。それどころか、当然のように、「○○は△△と修正してください」とだけ伝えてきます。

どちらが、受け取る側の心を動かすでしょうか? 

言うまでもありませんね。
記者もプライドを持って原稿を書いていますから、ただ「直してください」とだけ言われたらあまりいい気はしません。しかし、ほめ言葉を送られると「認めてもらえた」と感じるので、原稿の修正もイヤな気はしませんし、むしろもっといい原稿に仕上げようという気にもなるものです。
ほめ言葉には、それほどの力があるのです。

自分が使う言葉が、相手にどれほどの影響を及ぼすかを、考えていますか?
メンバーに対してダメ出しばかりしていないでしょうか?
メンバーに気持ちよく働いてもらい、ウェルビーイングを向上させるためにも、ぜひほめ言葉をたくさん使っていただきたいと思います。

とはいえ、何をどうほめたらいいのか戸惑うかもしれません。
結果や能力、プロセスなどは、わかりやすいほめどころです。「このデータはとても説得力があるよ。いい選択だったと思う」など、どこがどうよかったのかを具体的に評価するといいでしょう。
加えて、あたりまえのことも、大いに認めたいものです。

毎日、会社に来ていること。
仕事をしてくれていること。
時間を守ってくれていること。
職場をきれいに保ってくれていること。

などなど、数えきれないほどあるのではないでしょうか。それを、わざわざ言葉にして伝えるのです。あたり前に感謝する人がほとんどいないからこそ、その行為は、必ずやメンバーの心を動かすはずです。
ほめは、伝播します。

誰かがほめ言葉を積極的に使い続けることによって、職場内にほめの輪が広がっていきます。互いに評価しあい、ともにウェルビーイングを高めていく。そんな風土を作っていきたいものです。




【プロフィール】


船見敏子(ふなみ・としこ)

株式会社ハピネスワーキング代表取締役。
公認心理師、1級キャリアコンサルティング技能士、産業カウンセラー。
雑誌編集者を経て現職。産業分野を中心に、組織コンサルテーション、カウンセリング、研修などを実施し、職場のメンタルヘルス向上のサポートをしている。これまでに約1000社、10万人のメンタルケアに携わってきた。著書に『言い返せない人の聴き方・伝え方』(日本能率協会マネジメントセンター)、『幸せなチームのリーダーがしていること』(方丈社)など。

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