【後編サウナで健康経営を考える】五箇公貴氏に聞く、“サウナを取り入れた健康経営”
企業が社員の健康と向き合う連載企画。今回インタビューに伺ったのは、元テレビ東京のプロデューサーであり、現在は鉄鋼商社である株式会社ゴカの社長をされている五箇公貴氏。五箇公貴氏は様々なヒット番組や映画のプロデュースに携わっており、中でも2019年のドラマ「サ道」は、サウナの心地よさを広めて昨今のサウナブームの先駆けとなった。
現在は、株式会社ゴカの社長として活躍するとともに、前職の経験を活かしてテレビ番組のプロデュースやサウナに関するコラムの執筆などの活動も精力的に行っている。自身の健康維持、そして経営にもサウナが欠かせないという五箇氏に、サウナの魅力やサウナを取り入れた健康経営について語ってもらった。
五箇さんが語るサウナの魅力。〈前編〉はこちら
株式会社ゴカに入社し、社員という財産に気づく
― まったくの異業種から株式会社ゴカに入社されましたが、最初はどのようなことをしましたか。
五箇氏:2020年に専務として入社し、2022年から社長になりました。
本当に全く違う業界ですし、予備知識があるわけではないですから苦労しました。
プロデューサーとして全体を管理してプロジェクトを遂行する視点は身に付いていますが、経営的なこと、会社として目標を掲げ、利益率や販売管理費がどのくらい、銀行と話をして融資を受けて……という様々なこと、そもそも会社って何?というところから勉強しました。
― しかもちょうどコロナ禍が始まったばかりの時期ですよね。
五箇氏:2020年の3月に会社を辞めたので、完全にコロナ対応と重なってるんですよ。
だから送別会などなく、ひっそりと長年勤めたテレビ東京を辞めました(笑)。
入社が最初の緊急事態宣言の時期でした。地方の取引先への挨拶周りなんてできません。最初の仕事は、社内のリモート環境のインフラ整備でしたね。
小さな企業ですし、特に鉄鋼商社は古い業界なのでこれまでリモートワークをしたことがなかったんです。それを外から来た私が一気に進めた。社員にとって大きな変化だったと思います。
― 社員の皆さんにしても、異業種から来た人に戸惑ったのではないでしょうか。コミュニケーションで気をつけたことはありますか。
五箇氏:ゴカには現在12人の社員がいますが、ほとんどが初対面でした。
毎月1回はまとまった時間を取って、仕事・プライベート問わずに話を聞くようにしました。話していると社員の趣味や嗜好と、自分の興味が重なる部分が見つかります。日本酒が好きとか釣りによく行くといった接点をカギに、積極的に話をしたり教えてもらったりしました。
― 五箇さんご自身のことはどう伝えたのですか。
五箇氏:自分のサウナ好きを話して「緊急事態宣言が明けたら一緒にサウナに行きましょう」と誘うなどして、会話を重ねていきました。
― 社員ひとりひとりと向き合えるのは少人数の企業の強みですね。
五箇氏:コロナ禍で挨拶回りなどができない分、社内をじっくり見られたのは今となってはよかったと思います。社内全体を引いた目で見られましたし、社員の人となりを知ることができました。
社員をよく知るにつれて、この人たちを大切にして長く働いてもらうようにすることが、会社として一番大事だと思うようになりました。
特に健康であること。メンタルもフィジカルも調子を崩したら業績は上がりません。従業員の健康は経営サイドにとって大事だと実感しました。
サウナを入口に、健康経営を実践
― 株式会社ゴカでは、2022年の8月に健康優良企業「銀の認定」を取得されました。取得に至る経緯を教えてください。
※「銀の認定」とは、健康保険組合連合会東京連合会により健康づくりに関する一定の項目を達成すると与えられる認定。
五箇氏:大塚製薬さんとやり取りする中で、制度のことを知りました。
大企業ならば専門の部署をつくってCSRやSDGsに取り組むことが企業価値の向上や株主に対するアピールにつながりますが、うちのような中小企業ではそれらが大事と分かってもマンパワーが足りません。なので最初に話を聞いた時は「うちはそんな余裕ないんだよね」と思いました。けれど社員に健康でいてほしいという思いはありましたし、中小企業にこそ健康経営を促進してもらいたいというのが国の意図だという話を聞きました。
※株式会社ゴカさんの健康優良企業「銀の認定」取得に向けた活動は、下記よりご覧いただけます。「健康経営を始めてみたい!!」と思われる方は、是非ご参考になさってみてください。
活動記録映像①:https://vimeo.com/849347044/a0f90cf9ef
活動記録映像②:https://vimeo.com/849347436/6831de5c5e
活動記録映像➂:https://vimeo.com/849348190/315366dec2
活動記録映像④:https://vimeo.com/849348792/619eddf36f
― そのようにして健康経営への取り組みがスタートしたのですね。社員の皆さんの反応はいかがでしたか?
五箇氏:そもそも、会社として社員に向かって健康の話をする機会があまりないんですよね。健康診断くらいで。「健康に気をつけてるの?」なんてプライバシーにも関わることなのでなかなか言いづらいです。
最初に社員と面談して健康チェックをしましたが、「ちゃんと気をつけてご飯を食べていますか」とか、なんだか刑事が容疑者を取り調べしているような雰囲気が出てしまうんです。
どうしたらハードルを下げられて、みんなで気軽に取り組んでいけるかが課題でした。
― 社員のプライベートや生活にどこまで踏み込んでいいかは、悩む社長さんも多そうですね。
五箇氏:「じゃあ取り組みをやめてしまおう」と思う気持ちもよく分かります。
ゴカで健康経営を推進するにあたっては、私が大好きなサウナをキーワードにしました。「健康のことを一緒に考えてくれますか」なんて言われるより、「サウナに一緒に行きませんか」と誘われた方が気軽かなと。サウナの利用券を会社の受付にさりげなく置いておいたり、サウナだったら福利厚生として適切な範囲なら経費で利用できるようにしたりしました。「あの人、サウナと言えば何でも許してくれるんだな」という雰囲気を出しましたね。
もちろん強制ではなく、行きたい人が自分のペースで行ってくれればそれでいいと思っています。
― サウナが苦手な人や、誰かと一緒に行くのは気が進まない人もいますよね。
五箇氏:私は「サ道」という番組を作ったくらいで、人とサウナに行くことに何の抵抗もないですが、やはり誰かと一緒にサウナに行くのは恥ずかしいと思う社員もいましたし、女性はメイクがあったりして男性とは感覚が違います。「これサウナハラスメントになってないかな」とはいつも気をつけています。
でもサウナに行きやすい環境を整えることで、サウナのひとつ前の駅から歩いてみようというように、運動や食事など他の話もしやすくなりました。
― サウナの他にはどのような取り組みをされましたか?
五箇氏:受動喫煙の啓発ポスターを貼ったり、食生活のウェビナーやストレッチの講座をみんなで受けたりしました。
あとはサウナで私がいつも水分と電解質の補給として飲んでいる大塚製薬のイオンウォーターを社内に常備して、社員が自由に飲めるようにしました。
普段の仕事中の水分補給にもいいですし、お客様にお出しすることもあります。
― 社員の皆さんの反応はいかがですか?
五箇氏:サウナに会社支給のイオンウォーター持っていく社員もいて、評判は上々です。私がお客様にお出しした時はしっかりサウナへ話題も広げ、コミュニケーションをとっています。
― 今後の健康経営の取り組みはどのようにお考えですか?
五箇氏:私の印象ですが、銀の認定に必要な取り組みを一つひとつしていくことによって、社員はもちろん、経営サイドにも「社員の健康が大切」という意識が浸透したのがよかったです。
本当に大切なのは取り組みを一過性のものにせず、これから継続していくことだと思います。
今後、機会があれば金の認定や健康経営優良企業の認定取得も目指していきたいですね。
あとは採用時にこうした取り組みをユニークだと思ってもらえて、他の企業よりも魅力に感じてもらえるといいなと思います。
― 最後に、これから健康経営に取り組みたいと思っている経営者の方へのメッセージをお願いします。
五箇氏:急いで結果を求めないことだと思います。私の場合は少しずつ、食事のついでにサウナに誘ってみるなどして、合間に食生活の話やご家族の話をしてきました。日常の何気ない雑談の中で、あくまで本人が話せる範囲で聞き続けていくことが大事という気がします。
いきなり「最近健康に気を遣ってる?」と聞かれてもどの角度から返せばいいのか分からないですからね。少しずつ小さなことの積み重ねで良くなっていくのではないでしょうか。
〈プロフィール〉
株式会社ゴカ 代表取締役/映像プロデューサー
五箇 公貴
1975年東京都北区王子生まれ。1998年、テレビ東京入社。以降、プロデューサーとして数多くのテレビドラマ・映画・バラエティ番組を制作。代表作に、ドラマ「サ道」、「電影少女」シリーズ、「100万円の女たち」、「湯けむりスナイパー」、映画「舟を編む」、「ゴッドタン・キス我慢選手権」、ドキュメンタリー「田原総一朗の遺言」などがある。2020年テレビ東京を退社し、株式会社ゴカに入社。2022年同社の代表取締役社長に就任。
https://www.goka.jp/
文春オンラインにてコラム「サウナ人生、波乱万蒸。」連載中
https://bunshun.jp/category/yuge-no-kazu-dake-dakisimete