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【連載第6回】 感謝を伝えあう習慣が、健康度・幸福度を高める

健康経営を進めるうえで欠かせない取り組みのひとつが「職場のメンタルヘルス対策」です。ストレス要因が多い現代、メンタルヘルスケアは私たちの必須スキルと言っても過言ではありません。
また、組織においては、不調の早期発見・早期治療だけでなく、従業員がストレスを抱え込まず健康にイキイキと働ける環境を整える対策が非常に大切です。とはいえ、いったい何から始めればいいのかお悩みの方も少なくないでしょう。

この連載では、公認心理師として多くの企業でメンタルヘルス対策のサポートをしている株式会社ハピネスワーキングの船見先生に、メンタルヘルス向上の具体策をご紹介していただきます。
ココロの健康にダイレクトに影響するのが、人間関係。ストレスチェックの人間関係の値が良好な職場は健康度が高い傾向がみられるということは、以前にもお話ししました。健康経営を推進するうえで重要な柱、「コミュニケ―ションの促進に向けた取り組み」。今回は、職場の習慣にしたい「感謝」についてお伝えします。





健康経営にウェルビーイング視点を
ウェルビーイングという概念が注目を集めており、「身体的にも精神的にも、社会的にも満たされていること」という意味合いのことばで、「幸福」「幸せ」とも訳されます。「心と体が健やかで、社会的存在としても充実している」そんな状態を指し、この概念は産業界でも広がりをみせています。健康経営に幸福追求をプラスし、社員の健康はもちろんのこと、社員の幸せを第一に考える「ウェルビーイング経営」として、健康にイキイキと社員が働く「エンゲージメント」が高い職場を目指そうというものです。

メンタルヘルス対策に関しても変化が出てきています。これまではどちらかといえば疾病対策として進められてきましたが、ウェルビーイング実現のために取り組みを行おうという動きが広がっているのです。
ウェルビーイングの高い人は、生産性や創造性が高いと言われていて、これからの健康経営にはこの視点が欠かせないのではないでしょうか。

では、どうすればウェルビーイングが向上するのでしょう。
ポジティブ心理学を創設したアメリカの心理学者マーティン・セリグマン博士は、5つの要素があるとしています。

・Positive Emotion (ポジティブ感情)
・Engagement (エンゲージメント)
・Relationships (関係性)
・Meaning (意味・意義)
・Achievement (達成)

職場においても、個々のこれらの要素を伸ばす施策を実施することで、社員とチームのウェルビーイングを高めることができます。

中でも、Relationship(関係性)は、とても重要な要素。職場の人間関係は労働者のストレスの大きな要因であり、人間関係が良好ならココロの健康も保ちやすくなります。職場内の人間関係を高める工夫をすることで、社員のウェルビーイング向上につながることは間違いありません。
感謝を伝える仕組みを作る
そこでおススメしたいのが、感謝を伝えあう習慣を作ることです。
セリグマン博士は、感謝の気持ちを感じることで、人生はもっと幸せなものになると説いていて、感謝を伝えることで、相手との関係性も上向きになると言います。ある研究でも、職場内で感謝の気持ちを伝える習慣を作ったところ、抑うつ症状が改善したとの報告も。
日頃ぼんやりと感謝していることを改めて思い出し、それを相手に伝えることで、社員の健康と幸福感が高まり、人間関係が活性化することが期待できます。

ある企業では、グループウェア内に感謝を書き込める仕組みを作りました。社内の誰かに感謝したいときに誰もが書き込めて、誰もが見られるようにしたのです。感謝の和は少しずつ広がっていき、多くの人が書き込みをするようになりました。継続するうちに、ちょっとした助け合いが増えてきたような気がすると語る人もいます。

別の企業では、「感謝カード」という名刺大の紙を職場に置き、感謝したい相手がいる場合にメッセージを書き込んで相手に渡せるようにしています。みんなの前で感謝するのは抵抗があるけれど、感謝は伝えたい。そんな人がさりげなく感謝を伝えられる仕組みと言えるでしょう。

また、あるチームでは、ミーティングの際に「今週の感謝」という時間を設けました。1週間を振り返り、感謝したいことをひとりひとりが述べる時間です。仕事以外のことを話してもいいそうで、さまざまなエピソードが飛び交う温かな時間になっているそうです。

自発的に感謝を伝えあうようになるのがベストですが、シャイな日本人は、恥ずかしさも手伝ってわざわざ感謝を伝えない人も多いものです。感謝が行きかう土壌を育てるには、最初は仕組みが必要なのかもしれません。

気軽に行うなら、「ありがとう」を多用することから始めてみてはいかがでしょうか。「ありがとう」は、最も手軽で最も多用でき、相手によく伝わる感謝のことば。まずは社内で「ありがとう」をたくさん行きかわすよう工夫するのです。会社側から社員に「いつも頑張ってくれてありがとう」というメッセージを送り続けるのも素敵ですね。

大げさなことではなくても、ポッとココロに灯がともるような小さな行為を重ねる。それが、健康な職場を作る大きな力になるのだと思います。




【プロフィール】


船見敏子(ふなみ・としこ)

株式会社ハピネスワーキング代表取締役。
公認心理師、1級キャリアコンサルティング技能士、産業カウンセラー。
雑誌編集者を経て現職。産業分野を中心に、組織コンサルテーション、カウンセリング、研修などを実施し、職場のメンタルヘルス向上のサポートをしている。これまでに約1000社、10万人のメンタルケアに携わってきた。著書に『言い返せない人の聴き方・伝え方』(日本能率協会マネジメントセンター)、『幸せなチームのリーダーがしていること』(方丈社)など。