見出し画像

【連載第3回】メンタルヘルス教育はまず「ラインケア」から

健康経営を進めるうえで欠かせない取り組みのひとつが「職場のメンタルヘルス対策」です。ストレス要因が多い現代、メンタルヘルスケアは私たちの必須スキルと言っても過言ではありません。
また、組織においては、不調の早期発見・早期治療だけでなく、従業員がストレスを抱え込まず健康にイキイキと働ける環境を整える対策が非常に大切です。とはいえ、いったい何から始めればいいのかお悩みの方も少なくないでしょう。

この連載では、公認心理師として多くの企業でメンタルヘルス対策のサポートをしている株式会社ハピネスワーキングの船見先生に、メンタルヘルス向上の具体策をご紹介していただきます。
健康を保つためには、ひとりひとりが健康に関する知識を持つことが重要。メンタルヘルスも同様です。そこで今回は、職場内でのメンタルヘルス教育に関してお話ししていきます。健康経営における「管理職または従業員に対する教育機会の設定」は、何から始めたらいいのでしょうか。






「4つのケア」がメンタルヘルス対策の基本

「健康経営を進めるにあたって、メンタルヘルス教育を実施したいのですが、どんなテーマを選んだらいいのでしょう?」というご質問をよく受けます。
健康を保つには、正しい知識を持つことが大事。教育が欠かせないわけですが、メンタルヘルスケアは多岐に渡り、情報もあふれていますから、迷ってしまいますよね。

そこで知っておいていただきたいのが、「4つのケア」です。厚生労働省が出している「労働者の心の健康の保持増進のための指針」という職場のメンタルヘルス対策のガイドラインがあります。その中に書かれているのが、「4つのケア」です。文字通り、4種類のケアのことで、職場のメンタルヘルス対策推進の基礎になるものです。

ひとつめは、「セルフケア」。労働者自らが行うケアのこと。自分のストレスに気づき、ストレスケアをして健康管理をしていくことです。同時に、事業者は、教育機会を作るなどしてその支援をします。
ふたつめは、「ラインによるケア」。職場のライン上の課長や部長など、管理監督者が行うケアのこと。部下が健康に働けるよう職場環境を改善し、部下が悩みを抱え込まないよう相談に乗るといった支援をすることです。いつもと様子が違う部下に早く気づくことも、管理監督者の大事な役割です。「ラインケア」とも表現します。
3つめは、「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」。産業医、保健師、人事労務のスタッフなど職場内の専門的立場の人が行うケアのことを指します。労働者や管理監督者のケアや、メンタルヘルス対策の企画立案を行います。
そして4つめは、「事業場外資源によるケア」。メンタルヘルス専門会社やカウンセラー、医療機関、産業保健総合支援センターなど職場外の専門機関のサービスを活用し、支援を受けることです。

職場のメンタルヘルス対策を行い、健康な職場を作るには、この「4つのケア」を継続的かつ計画的に行うことが重要です。

職場が健康なら、従業員も健康になる

「4つのケア」を含め、従業員にメンタルヘルスの知識を学んでもらう教育の機会を作ることが大切です。「セルフケア」教育も必要ですが、最初に行うならまずは「ラインケア」が機能するよう、「ラインケア研修」を導入することをお勧めします。
従業員がセルフケアをせっせと行ったとしても、職場の中にストレス要因が多数あればその努力が水泡に帰することになります。
逆に、プライベートでストレスを感じていたとしても、安心して仕事できる職場環境に身を置くことでストレスが緩和されることもあります。
職場が健康なら、従業員も健康になるのです。いかに健康な職場環境を作るかが、職場のメンタルヘルス対策のキモと言えます。

健康な職場を作るには、冒頭でもお伝えしたように知識を持つことが大切。そのためにも、「ラインケア研修」で、管理監督者の方々に、「ラインケア」の目的と具体的手段を把握していただきたいと思います。
中でも、ストレスを感じがちな部下の変化に早く気づき、早く対応することは、上司としてとても大切な役目です。ストレスサインの見つけ方、声のかけ方、産業保健スタッフとの連携の仕方など、基礎的な知識を学んでおくことは大変重要です。知識があれば、いざというときに迷わずに対応できます。
さらに、その知識があることで、日頃から周囲に気配りしたり、部下の健康度を高める声がけができたりするようにもなります。




【プロフィール】



船見敏子(ふなみ・としこ)

株式会社ハピネスワーキング代表取締役。
公認心理師、1級キャリアコンサルティング技能士、産業カウンセラー。
雑誌編集者を経て現職。産業分野を中心に、組織コンサルテーション、カウンセリング、研修などを実施し、職場のメンタルヘルス向上のサポートをしている。これまでに約1000社、10万人のメンタルケアに携わってきた。著書に『言い返せない人の聴き方・伝え方』(日本能率協会マネジメントセンター)、『幸せなチームのリーダーがしていること』(方丈社)など。