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【連載第10回】1on1面談を豊かな時間にする3つのポイント

近年、上司と部下が1対1で行う1on1面談を導入する中小企業が増えています。1on1面談は、組織や業務への貢献意欲を高め、上司と部下の信頼関係を醸成するだけでなく、職場のメンタルヘルス向上に役立つという側面もあります。しかしながら、面談が機能していないという話もよく耳にします。せっかく行うなら効果的に行いたいもの。そこで今回は、1on1面談の進め方のポイントをお話します。

この連載では、公認心理師として多くの企業でメンタルヘルス対策のサポートをしている株式会社ハピネスワーキングの船見先生に、メンタルヘルス向上の具体策をご紹介していただきます。

面談には技術が必要。まずは心構えを知っておこう

そもそも1on1面談の目的は、上司⇔部下間の信頼関係を醸成し、上司がスムーズに部下の成長をサポートできるようになること。しかしながら、何を話したらいいかわからず上司が一方的に持論を話すなど、目的とは違った展開がなされていることが少なくないようです。そのことによって、部下側が面談を苦痛だと感じているケースも見受けられます。

面談は簡単なものではありません。それなりに技術が必要です。技術を体得することなく、いきなり面談をするとなれば戸惑うのも、うまくいかないのも当然です。
とはいえ、技術を磨くのは時間と労力を必要とすることでもあります。まずは、どのような心構えで部下と向き合えばいいのかを知っておくと、気持ちが楽になります。

信頼関係を醸成するための面談の心構え、そのポイントは3つあります。

  1. 時間を取ってもらうことに感謝を示す

  2. 聴く:話す=8:2の割合で

  3. とにかくまず、肯定


ひとつめは、「時間を取ってもらうことに感謝を示す」です。
1on1は部下のための時間。一方で、上司が部下を理解するための時間でもあります。「時間を取ってくれてありがとう」「面談に来てくれてありがとう」という思いを抱いているでしょうか。そしてそれを言葉にして伝えているでしょうか。

1on1を業務の一環と捉えてしまうと、このような言葉は出てきにくいものです。しかしよく考えてみれば、忙しい中、相手が時間を取ってくれることは感謝すべきこと。時間を取ってくれたこと、そして話をしてくれたことに感謝を示すと、たちまちそこは安心できる場に変わります。互いに感謝し、柔らかいココロで向き合うことが、いい面談には欠かせません。

安心して話せるよう、自分の価値観は脇に置く
 
次に、「聴く:話す=8:2の割合で」。1on1は、部下の話を聴く場です。上司が持論を語り倒したりひたすらアドバイスをする場ではありません。相手の話を8割聴き、自分が話す割合は2に抑える。そのくらいでちょうどよいのです。
部下の考え、思いなど、業務中になかなか話せないことをじっくり聴きましょう。しっかりうなずき、あいづちを打って、「あなたの話を真剣に聴いていますよ」という態度を示すことも、部下の安心感を深めます。

そして、「とにかくまず、肯定」です。部下が考えや思いを吐露したときに、頭ごなしに否定していないでしょうか。
例えば部下が、仕事が思うように進められず、「自分はこの仕事に向いていないと思います」と落ち込んでいるとき。「そんなことないよ。経験を積めば大丈夫だよ」と励まそうとしたことはありませんか? 実はその言葉と態度こそが、否定に当たるのです。
自分はこの仕事に向いていないと落ち込んでいる人は、「自身喪失」「落ち込み」「不安」などネガティブな感情を抱えています。相手が勇気をもってそれを吐露したにもかかわらず、「そんなことないよ」とすかさず応答するのは、相手の感情を受け止めず否定していることになるのです。

感情を否定されると、「この人はわかってくれない」と感じ取ってしまいます。さらに、無理にポジティブな方向に持っていこうとされることも、落ち込んでいるときにはとてもしんどく感じるものです。

たとえ話の内容に同意できなかったとしても、感情を受け止めることはできるものです。ですからどんなときでも、まず肯定すること。「あなたはそんなふうに感じているんだね」と受け止めていくといいですね。

誰かの話を「聞く」とき、私たちの頭の中にはさまざまな考えが浮かびます。その考えは、あなたの価値観から生まれるもの。価値観の異なる相手と話をする際、あなたの考えを口にすることは、相手の価値観を否定することにもなりかねません。
1on1で話を「聴く」ときには、自分の価値観は脇に置くようにするといいでしょう。

この3つのポイントを実践するだけで、1on1の時間は豊かなものになります。そんな時間を積み重ねることで、心理的安全性が高まっていきます。
また、上司は、仕事の能率が落ちている、顔色がすぐれないなど、部下のちょっとした変化に気づけるようになっていきます。上司を信頼できるようになった部下は、何かあったときに真っ先に上司のところに相談に来るでしょう。仕事や悩みを抱え込むことが少なくなっていくはずです。

1on1で、部下のモチベーションを上げなければと躍起になっている人もいますが、「上司が自分のことを理解してくれている」と思えると、部下の意欲は自ずと高まっていきます。信頼できる人がいると思えることで、ココロは強くなります。職場の人間関係が希薄になったと言われて久しいですが、だからこそ、対話の時間を大切にしていきたいものです。
 




【プロフィール】


船見敏子(ふなみ・としこ)

株式会社ハピネスワーキング代表取締役。
公認心理師、1級キャリアコンサルティング技能士、産業カウンセラー。
雑誌編集者を経て現職。産業分野を中心に、組織コンサルテーション、カウンセリング、研修などを実施し、職場のメンタルヘルス向上のサポートをしている。これまでに約1000社、10万人のメンタルケアに携わってきた。著書に『言い返せない人の聴き方・伝え方』(日本能率協会マネジメントセンター)、『幸せなチームのリーダーがしていること』(方丈社)など。

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