安全運行は至上命題。健康経営で変わる、バス会社の未来【後編】
バスのドライバーらの健康を実現するために、会社を挙げて新しい試みを進めてきた中日臨海バス株式会社。【前編】では具体的な取り組み内容について紹介しました。【後編】では健康経営の効果、これからの会社のあるべき姿などについて引き続き常務取締役の荻野進さんと厚生課の樋口美惠子さんに語っていただきました。
〈前編記事〉はこちら
※「健康経営®」は特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標です。
【会社データ】
中日臨海バス
設立/1946年
従業員数/372名(2023年6月現在)
業界/バス業界
主な業務内容/一般貸切旅客自動車運送事業、車輌運行管理業務事業、普通自動車分解整備・板金塗装事業
健康経営をスタートした年/2016年度
社風の変化が何よりの収穫に
―健康経営に取り組んだことで、何を得られたとお考えですか?
荻野 健康に対する意識が変わり、自主的に体を動かす社員が増え、それに伴い社風が良くなったのが一番の収穫だと思っています。
樋口 私が入社して7年ほどが経ちますが、最初は乗務員のみなさんが疲れて切ってしまっていて、空気がどんよりしていたように感じていました。それが今は一人ひとりが自分の健康を改善するためにすべきことを理解していて、社内の雰囲気も前向きになってきました。
荻野 樋口が入社する以前、社内の健康に関する考え方は各自でバラバラだったんです。しかし、樋口が健康に関する取り組みを整理し、推進してくれたおかげで、全社で共通する健康への感覚が芽生えました。結局、専門性のない私たちでは“要検査”という診断結果を見ても何もできなかったわけです。樋口も医者ではないですが、どうやれば改善できるのかアドバイスを送れますし、産業医等への橋渡しもしてくれますから、専門性のある人材を配置した成果は大きいですね。
樋口 乗務員自身がセルフケア意識を高め、日々の体調管理を実践してもらえることが、経営においては大変重要な意味を持ちます。そこで、大塚製薬さんとの連携のもとで「乳酸菌B240タブレット」の導入を始めることになったんです。
体調管理に課題意識を持つ18名の乗務員に対して、3カ月間、毎日「乳酸菌B240タブレット」を1粒を目安に摂取してもらう取り組みを行いました。
荻野 結果としては、製品を使用していた全ての乗務員からは、「毎日の体調管理に対する意識が向上した」といった、前向きな意見が多く挙がったことはとても良かったですね。
樋口 そうですね。今回の取り組みをきっかけに、乗務員が自身の体調管理にさらに気を使うようになり、運動の実践やバランスの良い栄養や食事の摂取、睡眠時間の確保など、多面的な健康行動にも繋がったところは評価したいです。また、参加者の半数は「乳酸菌B240タブレット」の利用を継続するとも回答しています。
荻野 検証の期間も短く、まだ手探りな部分はありますが、大塚製薬さんのような健康への知見のある企業と協力関係を結べば、できることが増えていくとの手応えを得るいい機会となりました。
新たな発想と熱い思いで、健康経営の明日を切り開く
―これからはどのような形で健康経営を進めていく予定ですか?
荻野 これで満足というわけではなく、いっそう高みを目指していきたいと考えています。ただ、普通のことを行うのではなく、誰も思いつかないような斬新な取り組みをスタートさせて、それを世の中の普通にしたいという思いがあります。もちろん、社員の健康の実現、お客さまの安心と安全の確保が大前提ですけれども。
樋口 今、常務と相談をしているのは、健康に対するインセンティブを作ろうという試み。会社から促さずとも健康で暮らしている社員もいますので、そんな人も正当に評価できる尺度がほしいとの思いから始めてみました。
荻野 インセンティブから発展して、「健康マイスター」という制度の検討に入っています。健康になった人にはバッジを渡す制度なのですが、樋口の要望がかなり大胆で。
樋口 ゴールドとプラチナのバッジが欲しいです。
荻野 それもメッキじゃなくて本物寄こせって言うんですよ(笑)。突拍子もない発想ですが、それで社員のモチベーションが上がるのならば、会社としても受け入れていきたいですね。固定観念に縛られるとそれ以上のことは考えられなくなるもの。やはり斬新なアイデアを発信し続けるのは大切です。
樋口 ちなみに乗務員さんでインセンティブが欲しいと言う人はあまりいなくて、「むしろインセンティブは自分の健康だ」と言ってくれたときは、本当に嬉しい気持ちに包まれました。
―他にはどのようなことをされるのでしょうか?
荻野 おかげさまで弊社の健康経営の取り組みは社外からも注目が集まっていますが、健康経営を通して名誉が欲しいと思ったりはしません。中日臨海バスが業界に先駆けた試みを始めたとしても、何年か先には世の中の当たり前になっているはず。先にやるか、やらないかだけの話ではないでしょうか。ただ、弊社の社長も各地で健康に対する講演などの依頼も受けており、私たちがきっかけとなって健康経営が業界内外に広がり、日本全体の健康の層が厚くなればいいのかなとは考えています。
樋口 一人ひとりが知識をもっと蓄積していけば、健康になる人がさらに増えるのではないかと思います。そのための情報発信は特に精力的に進めています。
病院勤務時代、国が定めている特定保健指導という形で、対象者様の生活習慣の改善に携わっていた時期があります。当時は来院したときにしか会話できず、指導にも限界を感じていたのですが、その点、弊社ではいつも顔を合わせている社員を相手にしていますので、具体的なライフスタイルをイメージしながら支援することができています。管理栄養士の一人として、いい環境で働けていると実感しますね。
―健康経営に取り組みたい企業にアドバイスをお願いします。
荻野 健康経営で会社を変えたいという気持ちはどの企業でも抱えているものです。しかし現実には、そのきっかけがわかりにくいかもしれません。であるならば、社風を変えるという意識で取り組んでみてはいかがでしょうか。弊社がそうでしたが、健康の実現という一つの方向にベクトルが合うことで、社員の意識、そして会社全体の風土がおのずと変わっていくはずです。
樋口 今、健康経営という言葉だけがもてはやされる状態になっているところがあります。健康経営を進めていくのであれば、導入していこうとしている人間の“思い”がないと続きません。どんな施策からスタートさせるにしても、社員に本当に健康になってほしいとの思いを持って進めるのを忘れないでください。
【プロフィール】
荻野進さん(常務取締役)
証券会社などを経て、1996年中日臨海バス株式会社に入社。データ管理、労務、人事、運行などの改革を手掛ける。健康経営などの全社的な取り組みを進めるべく、各地の拠点をまわり続けている。
樋口美惠子さん(厚生課 管理栄養士)
保育園や委託給食会社などで管理栄養士として勤務した後、クリニックで生活習慣病の患者に対しての指導を行っていた。2016年に中日臨海バス株式会社に入社してからは社員たちの健康管理に勤しんでいる。