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【前編/睡眠と健康編】働く現代人が抱える睡眠の課題とは

健康のための3要素「栄養(食事)」「休養(睡眠)」「運動」。これらが揃って初めて健康と言えます。その中でも今回は、健康課題として重要視されている「睡眠」にスポットを当て、前後編2回に渡ってお届けします。前編では、産業医の視点で「睡眠」を研究している日本大学医学部社会医学系公衆衛生学分野・助教 松本悠貴先生に、働く現代人の睡眠傾向や問題点について伺いました。




日本人は世界的に見ても睡眠時間が短い

- そもそも睡眠をとることは健康にとってなぜ重要なのでしょうか?


良い睡眠をとることは、あらゆる身体活動、精神活動を行う上での基盤となります。また、蓄積した疲労を取り除くことや、情報の整理・定着、新型コロナウイルスのような感染症から体を守るための免疫力を高めるためにも必要不可欠です。しかし、現代人は睡眠不足の人が多数います。

それはデータにも示されていて、厚生労働省が40年近く行っている「国民生活基礎調査」の結果を追ってみても、睡眠時間が短くなってきています。また、世界的に見ても日本人の平均睡眠時間は諸外国に比べ、少ないのです。


OECD (Balancing paid work, unpaid work and leisure)のデータから松本先生が作成

- なぜ、日本人の睡眠時間は短くなってきているのでしょうか?


起床時刻はほぼ変わっていない一方で、就寝時刻が遅くなっているからです。特に働いている人々に対して産業医活動を通して感じたのは、夜の遅い時間まで時間外労働をしている人が多いということです。日本人が勤勉であることは誇らしいことでもありますが、夜22時、23時まで残業し、そこから片道60〜90分かけて帰宅。それから夕食を食べてお風呂に入る……となると、おのずと就寝は深夜0時を超えてしまいます。私の経験上、そうした著しい長時間労働は地方よりも都市部で働く人に多くみられています。

それに加え、社会全体が24時間休みなく稼働しているというのも要因です。飲食店やコンビニなども遅くまで開いているため、飲み会などで深夜まで活動してしまう誘惑も沢山。
また、インターネットやスマートフォン(スマホ)の普及も要因のひとつです。寝る直前までSNSや動画を見たりゲームをしたりすることも睡眠不足につながっています。


睡眠不足は作業効率の低下だけでなくメンタルにも影響

- 睡眠不足による悪影響はどんなことがありますか?

働く人にとっての睡眠不足による悪影響で考えておくべきことは、日中に強い眠気が生じ、集中力が下がり、労働生産性の低下や産業事故の発生を招きやすくなることです。また、健康面では食欲や交感神経系が亢進することで肥満や高血圧、糖尿病などの引き金にもなります。


- 身体的な影響が多いんですね。

身体的な影響だけでなく、精神的な影響も大きいです。例えば睡眠不足の状態では脳の働きが鈍くなるため、ストレス処理能力が上手く機能せず、ちょっとしたことで普段よりもイライラしたり、落ち込みやすくなったりもします。イキイキと日々働くためにも睡眠は重要な要素なのです。

- 産業医の立場から見ると、睡眠不足は経営にどういった影響を与えると思いますか?
 


経営者の方にとってはおそらく生産性の低下が最も気になるところだと思いますが、産業医の立場から意見を言わせていただきますと、睡眠不足から引き起こされる労災のリスクについても経営者の方には是非考えていただきたいです。また、睡眠不足の原因となりやすい長時間労働について、現場の社員の方の声を聞くと、残業するなと言われても業務量が多く、残業せざるを得なくなっているという状況が大きな問題として挙げられます。

こうした場合、経営者はマンパワーを増やして一人が抱える仕事量を減らすなどの対策を講じることが重要だと感じます。一人で担当していたものを二人一組にするだけでも、残業が減ったり有給休暇が取りやすくなります。長時間労働を是正して適切な睡眠時間を確保しやすくすることで、社員の健康増進にも繋がり、その結果、長い目で見ると生産性の向上に繋がります。


コロナ禍がもたらす睡眠への影響と企業ができること

- コロナの影響により在宅勤務が増え、通勤がなくなったことで睡眠時間が確保しやすくなったと思うのですが、そのあたりはいかがでしょうか?

確かに睡眠時間が増えたという人もいますが、逆に良い睡眠がとれなくなった人もいます。例えば、仕事とプライベートのメリハリがつかない生活で寝つきが悪くなったり、睡眠のリズムが乱れてしまったりする人が増えています。

もし良い睡眠がとれずにメンタルの不調を起こしてしまった場合、毎日出社していたら周りの上司や同僚がその人の変化に気づくことができますが、リモートワークで顔を合わせる機会が少なくなると小さな変化に気づきにくくなる、ということが懸念されます。

- その変化とは具体的にどんなことですか?

遅刻が増えるなどの勤怠の変化、表情が暗い、口数が少なくなるなどがあげられますが、その他にも身だしなみが乱れてきたら要注意です。服装はもちろんですが、ヘアスタイルをきちんとセットせず寝癖のままだったり、お酒やたばこの臭いが強くなったり、女性ならメイクをちゃんとしなくなったり……。

ただ、在宅勤務だと普段からラフな格好をする人は多いでしょうから、そうした点から身だしなみの変化に気づきにくくなりますね。

- コロナ禍での社員の不調に気付くには、企業としてどのようなことができるのでしょうか。

感染状況にもよりますが、可能であれば毎日在宅ではなく、週2〜3回くらい出勤することが身体的にもメンタル的にもモチベーション的にもいいのではと感じています。特に新入社員や中途採用されたばかりの人については、出来る限り出社させることが望ましいです。やむを得ず在宅勤務が続く場合は、1日1回はオンラインで顔を合わせる機会を作った方がいいですね。

また、社員自身も健康に関する情報を習得し、知識として身につけてもらうことが大切です。産業医に相談してみるのもひとつの選択肢ですが、民間企業でも、健康情報をWebコンテンツで発信したり、セミナーを行うことが増えているのでそういったものを活用し、社員の健康教育にも気を配っていただけると嬉しいですね。


まとめ
睡眠時間がとれていないと生産性の低下だけでなく、労災を招くことにもつながります。経営者として業績もさることながら、経営を発展させていくためには、社員のヘルスリテラシーを高めるなどの取り組みを積極的に推進することが大切です。




<プロフィール>


日本大学医学部社会医学系公衆衛生学分野・助教
松本悠貴先生

医学博士、日本医師会認定産業医。産業保健活動を通し、日頃の睡眠習慣が心身の健康、労働現場における事故や生産性から人間関係の問題まで多岐に渡り関わっていることを労働者に伝え、健康指導を行っている。24時間型社会を生きる現代人の睡眠について疫学研究を行っている。


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