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【連載第13回】テレワーク・コミュニケーションは、心を乗せて


新型コロナウィルス感染症拡大をきっかけに、テレワークがすっかり定着しました。出勤がしやすい状況になったものの、テレワークを交えてフレキシブルな働き方へと移行した企業は多いようです。柔軟な働き方ができるようになったことは、健康経営にとってもプラスと言えるでしょう。それでも、テレワークが原因でメンタルヘルス不調に陥ったり、コミュニケーションがうまくいかないというお悩みが後を絶ちません。新しい働き方の中で何をどう工夫すれば、健康を保てるのでしょうか。

この連載では、公認心理師として多くの企業でメンタルヘルス対策のサポートをしている株式会社ハピネスワーキングの船見先生に、メンタルヘルス向上の具体策をご紹介していただきます。
上司からの簡潔なメールが怖い
メンタル不調気味になった若手Aさんが、カウンセリングにやってきて、次のような悩みを話してくれました。
「上司から仕事の指示がメールで届くのですが、それがとてもそっけない文章なんです。なんだかとても落ち込んでしまって、昨夜は眠れませんでした。私は嫌われているのでしょうか?」
このような悩みを打ち明けてくれる人は以前からいましたが、このところ増えているように感じます。そこで、上司からのメールを見せてもらいました。

「○○の件、早めに進めてください。よろしくお願いします」
という、ごく普通の文面が、そこにありました。多くの人がきっとこんなメールを書いているのだろうと思う内容・タッチで、特に問題はありません。

しかし、そっけないといえばそっけない。取りようによっては怒っているようにも受け取れます。上司と頻繁にやりとりをし、信頼関係が十分に築けていれば、「仕事が遅れがちな自分のお尻を叩いてくれているのだな」と理解でき、傷つくことはないでしょう。
しかし、テレワーク続きで顔を合わせる機会があまりなく、信頼関係が十分育っていなかったとしたら……。

案の定、Aさんは、後者でした。上司がどういう人なのかもよくわかっていないし、自分のことを理解してもらえているとも思えません。そんな中でこのメールを受け取ったのです。落ち込んでしまったAさんの思いは、わからなくもありません。

日本語はそもそも、ハイクコンテスト(暗黙のルールが多い日本文化)な言語。ときに婉曲的な表現を用いながら、互いの感情を察しあいながら対話をする。そんな文化です。しかし、ビジネスメールとなると話は違います。できるだけ簡潔に、わかりやすく伝えるのが鉄則です。企業によっては、「よけいなことは書かない」というルールまで決めていたりします。

特に、論理性の強い人やベテラン社員などは、メールは用件を伝える手段だと思っています。ですから、「報告書はどうなりましたか?」「了解」といった、至極簡潔な文章を送ることをよしとしている傾向があります。
相手がどう受け取るかを考えてコミュニケーションを取ろう
 
人は、しぐさや表情、声の調子などの非言語から相手のメッセージを読み取っています。「了解」というひとことでも、対面で笑いながら言ってくれたら「いい感触だったのだな」と汲み取ります。
しかし文字だけのメールやチャットでは、どういうしぐさ、表情でそれを書いているのかがわかりません。つまり、相手の感情が全く読み取れないのです。だから、信頼関係が構築できていない人から簡潔すぎるメールやチャットが届くと、怖いのです。

そこで、文字に心を乗せることをお勧めします。
「大変だと思いますが」「お手数をおかけしますが」といったクッション言葉。
「お疲れさまです」というねぎらい。
「ありがとう」「とてもいいですね」「すばらしいです」といった感謝やポジティブフィードバック。
さらには「!」といった記号。これらのひとことを加えるだけで、たちまち心が乗った文面になります。

チャットならスタンプやリアクションボタンを押すだけで感情を伝えることができます。
Aさんが、「お疲れさまです。○○の件ですが、早めに進めてもらえると私も安心します。不明点があったらいつでも連絡くださいね。よろしくお願いします!」というメールを上司からもらっていたとしたら、きっと落ち込むことはなかったはずです。
ちょっとしたひとことを加えるだけですから、さほど難しいことではないと思います。

働き方や、コミュニケーションの手段と頻度が大きく変わった今、かつてと同じ調子でコミュニケーションを取るのは、メンタルヘルスの観点だけでなく正確にコミュニケーションを取るうえでもリスクがあります。
相手がどう受け取るか考えてコミュニケーションを取ることは、もはや欠かせない時代になったと言えるでしょう。

このことを面倒だと受け止めるのではなく、コミュニケーションが進化したのだと考えることが、私たちに求められているのではないでしょうか。
 




【プロフィール】


船見敏子(ふなみ・としこ)

株式会社ハピネスワーキング代表取締役。
公認心理師、1級キャリアコンサルティング技能士、産業カウンセラー。
雑誌編集者を経て現職。産業分野を中心に、組織コンサルテーション、カウンセリング、研修などを実施し、職場のメンタルヘルス向上のサポートをしている。これまでに約1000社、10万人のメンタルケアに携わってきた。著書に『言い返せない人の聴き方・伝え方』(日本能率協会マネジメントセンター)、『幸せなチームのリーダーがしていること』(方丈社)など。

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