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【前編/健康経営編】健康経営は企業理念実現のための羅針盤

“従業員の健康”を経営戦略ととらえる「健康経営」に、一歩を踏み出した経営者の極意をうかがう健康社長インタビュー。今回は、「従業員と家族の幸せ」を企業理念に掲げるコグラフ株式会社、代表取締役の森善隆さんに、健康経営に対する独創的な考え方やベンチャー企業でも取り組める工夫の数々を聞きました。






健康経営と企業理念がリンク


■コグラフ株式会社、代表取締役の森善隆さん
「健康経営を『ウェルネス(心地良い生き方・働き方)活動』と広義に捉えています。だからコグラフの中だけでなく、家族や地域にも健康経営の考え方や実践方法を広げたいと挑戦中です」

【コグラフ株式会社を紹介します】
設立/2010年9月
従業員数/30名(2020年12月現在)
業界/ITソフトウェア
主な業務内容/ソフトウェア開発とデータ分析によるグローバルソリューションの提供、AIを活用した自社プロダクトの開発など
健康経営をスタートした年/2018年度


創業から5年ほど経った頃「健康経営」という言葉が話題になり、勉強してみると、当社の企業理念とリンクしているのに気づき、実践し始めました。

実は創業当時から健康経営に似た活動はやっていました。きっかけとなったのは、海外在住の取締役と会社づくりについて話す中で、従業員の健康に配慮した働き方やオフィスづくりをしている外国企業の事例を聞き、「これだ!」と思ったんです。資金や時間に余裕がなくても、できるところから社員の健康につながることを実践しようと、例えば、常設のコーヒーを体に良いオーガニックコーヒーに変えたり、定期的な断捨離で快適なオフィス環境を維持していました。また、18時退社を実現すべく、チーム作りの工夫や声掛けなどもしていました。

このような取り組みは、当社の企業理念「社員と家族、すべての人々を幸せにする」にもつながっていると感じていました。



■オフィスの入り口には経営理念が掲げられ、その横には従業員のお子さんが描いた絵が。「健康とは、ウェルネス(=健全な状態をつくること)+ハピネス(=楽しい状態)をつくること」と考える森さんは、これも健康経営の一つと考えている

体系化された健康経営の考え方を知ると、バラバラだった当社の取り組みの整理でき、次に何をすべきかが見えてきました。そこで健康経営を羅針盤にすれば企業理念が実現できる、と確信したんです。一方、「健康経営優良法人」を取得すれば公的に認められるというのも魅力的でした。

従業員が20人程になった2018年度、健康経営を実践するプロジェクトを立ち上げました。コードネームは「コグウェル」。“コグラフのウェルネス”の略です。メンバーは、人事や管理を担当する従業員と社外取締役と私の3人。「従業員の心身の充足を図り、各人が前向きに行動できる環境づくり」と少し大きな枠組みでとらえて活動しています。


限りあるリソースも工夫次第

「コグウェル」プロジェクトでは、「心の充足」と「身体の充足」を軸に取り組みを考えています。

心の充足は、“チャレンジできる環境”と“自分らしくいられる安心感”から得られると考えていて、それぞれを軸とした活動を行っています
具体的には、 “チャレンジできる環境”提供のために、新規受注時のインセンティブボーナスや英語検定などでのレベルアップ奨励金の支給制度をつくりました。
“自分らしくいられる安心感”のためには、有給休暇を時間単位での取得できるように就業規則を制定しました。休暇の理由にしにくい「子供の学校行事参加休暇」や「記念日休暇」も、有給休暇のとは別に設けています。
この2軸のほか、みんなでおやつを食べる「もぐもぐタイム」を月に1回開催して、社員同士のコミュニケーションを促したり、全員参加の月例会議ランチをやっています。ランチは、ホテルのビュッフェさながらの豪華でワクワクするようなケータリングを利用するなど、心の充足につながるよう工夫をしています。

一見すると経費がかかっているように見えますが、「もぐもぐタイム」とランチ費用は、それまで行っていた夜の懇親会用の予算をそのままスライドさせています。結果、コストは変わらずコミュニケーションの機会が増えています。従業員も業務時間内に気軽に参加出来るので、以前の懇親会より好評のようです。
身体の充足は、運動を日常に取り入れてもらうために、徒歩やジョギング、自転車で通勤する従業員には通勤エクササイズ手当を支給しています。また1日中座りっぱなしでパソコン業務が多いので、休憩スペースに小型のトランポリンを置き、コーヒーをとりに来たついでに、体を動かせるような工夫をしています。

【「コグウェル」プロジェクトの実践例 】


●オフィスは常に快適な空間であれ
約90平米のオフィスはフリーアドレス。あえて間仕切りをせずに開放的に。断捨離を続ける努力で、快適なオフィス環境を保っている



●昼寝もOK!のハンモック
小さく仕切られたスペースに置かれたハンモックは昼寝用。ちょっとの仮眠で業務効率が上がる経験をした森さんのアイデアだ。仕事との調整は従業員各自に任せている



●「もぐもぐタイム」はスタンディングで
給料日の15時にみんなでおやつを食べる「もぐもぐタイム」。什器が少ないのを逆手に、書棚をテーブルにスタンディングスタイルで。座りっぱなしの仕事には、立つことも健康法の一つ


「気付いたら浸透していた」が理想



■「健康経営優良法人2019」を取得した現在、「次の目標は再診率100%!」と森さん。

こうして「コグウェル」プロジェクトで健康経営を進めて3年、健康診断受診の地道な呼びかけ活動も実って健康診断受診率100%を達成し、昨年、「健康経営優良法人2019」の認定を受けることができました。

活動への認知は高まり、予想通りの成果を得られていると感じています。しかし、重要なのは活動の継続なので、従業員の理解は不可欠です。そのため毎年、企業理念や「コグウェル」プロジェクトの考え方・目標を従業員にプレゼンテーションして、経営者としての思いを繰り返し伝えています。とはいえ、「健康経営にまい進しよう!」と強く押し付けるのではありません。社員の半数が外国人という背景もありますが、全員が同じ方向を向く必要はないと考えています。

ただ、プロジェクトを通して、健全で楽しい働きやすい環境を提供していくので、従業員は、取り組みに興味を持ってもらい参加してくれればいい。それが、心の充足=自分らしくいられる安心感、につながると思います。

何度か参加しているうちに、「あっ、これが「コグウェル」のプレゼンで言っていたことか」と気づく従業員がじわじわ増え、知らず知らずのうちに皆に「コグウェル」プロジェクトの考え方が浸透していた! というのが理想ですね。




<社長プロフィール> 


コグラフ株式会社
代表取締役 森 善隆
1976年、愛知県豊橋市生まれ。国内独立系ソフトハウスでシステム開発エンジニアとしてキャリアをスタート。サイバーエージェントを経て、スタートアップ企業・リアルコムに参画した際、国籍を超えたメンバーによる開発に面白さを感じ、2010年、コグラフ株式会社を設立。グローバルな人材を有する強みを生かして、日本に進出する海外企業の案件を多く扱う。2017年には、地元、五反田で健康経営を実践する団体「五反田ウェルネスコミュニティ」、通称「ゴタウェル」を立ち上げている。